第43話 我に策アリ
空が青く、鷹が舞っているのが地上からも見えた。
道は鬱蒼とした木々のせいで相変わらず薄暗かったが、ユキ率いる荒鷲組の足取りは軽かった。
島に古くからの言い伝えがある。
ある家の縁の下に大きな蛇が住み着き、家主は蛇を捕まえ焼き殺した。
跡には骨が残ったが、不思議な事に足らしき形の骨が混じっている。
殺してなどはいけない特別な蛇だったのではないかと、島人は噂した。
それからすぐにその家の長男が高熱を出し、何日も何日もうなされ続けた。
島人は蛇の怨念を鎮めるために供養塚を作った、もう二度と蛇は殺さないという誓いを立てて。
その家の長男はそうして事無きを得た。
その時の蛇の骨を埋めた供養塚だと言い伝えられているのが、この蛇塚だ。
平たい岩の上にさらに子供の背丈ほどのある大きな岩を乗せ、しめ縄を巡らせている。
台座となっている岩はびっしりと苔が繁茂していて、なんとも年月の重みを感じさせる。
そこにこぶし大の石を重しにして、封筒が置かれていた。
ユキが封筒の中を見ると、紙が入っている。
『8Q7X8F2H+2J』
書かれているのはたったそれだけ。
「座標だ」
厳かにユキが言った。
普段の訓練でも、地形踏破訓練と目標座標にたどり着く訓練が重要視されている。
山狩りは訓練の集大成でもあるのだ。
ユキは地図を広げた。
UTMグリッドの読み方は叩き込まれている。
宝の座標がはっきりと示されている。
もう勝ったも同然だな…ユキはそう確信した。
こうしてユキ率いる荒鷲組は着々と宝の場所へと歩を進めた。
◇◇◇
尋常ではない妖気が辺りを包んでいた。
敵はただ一体のみ。
それでも荒鷲組全メンバーを怯えさせ、年少の子を凍り付かせ、ユキでさえビビらせる程の妖怪がそこにはいた。
「もうこの国はおしまいだよ!この島もおしまいだよ!これからどんどん悪くなるよ!!」
口から瘴気を吐き出しながら次々とネガティブワード攻撃をしてくる妖怪…ダーク未来予想図のお藤だった。
想定外の事態にメンバー全員が慄いた。
目標座標が指し示している場所は例の山小屋。
この中に宝が隠されているのか!と意気揚々として扉を開けたところ、寝っ転がって煎餅をかじるお藤の姿(見守り当番でまだ残っていた)があった。
休憩用の簡易な造りの山小屋で、炊事場の他に一部屋あるのみだ。
冬場用の薪ストーブと少々の備蓄品と椅子数客のみの、がらーんと部屋。
3分もあれば見渡せる広さだが、どうにも“宝”なんぞ見当たらない。
ユキたちが室内への突入を試みるも、お藤が怒り狂って子供たちを中に入れさせない。
子供たちもあと一歩で宝を見つけられるはずと息巻いて強行突破を試みる。
こうして妖怪VS荒鷲組の一進一退の攻防が火花を散らした。
その様子を背後からうかがう人影があった。
そしてそーっと荒鷲組のメンバーに忍び寄った。
「あっ!」
荒鷲のメンバーがそう声を上げたとき、既に背中に白い札(早鷹組の札だ!)が貼られていた。
「てめっヒロ!!なんでココに…!」
油断して背後を突かれた形のユキが思わず憤った。
「よっしゃ、捕虜を獲ったぞ~!」
広央とサジ他早鷹メンバーが高らかに宣言した。
「そうそう、宝見つけても捕虜を取り戻さないと勝者じゃないもんね~じゃあな、ユキ~」
百も承知の事だが広央がことさら強調した。
正午のリミットが迫っている。
確かにここで捕虜を取られたのは痛い失点だ。
「みんな行くぞ~」
広央達が捕虜を連れ立って荒鷲組にくるりと背を向けた。
「どこに行くんだよ!?」
荒鷲組メンバーが叫んだ。
「俺ら一旦キャンプ地に戻るから~優達もまってるしな。じゃ、頑張って捕虜を取り戻しに来いよ~」
こうして広央達は意気揚々とキャンプ地に引き上げていく。
「よし、うまくいったな」
山小屋の後ろ側は岩場になっていて、そこから緩やかな傾斜になっている。
危険だから十分気を付けるよう、大人から言われている場所だ。
その場所から優、光輝、朝陽、陸が密かに事の様子を伺っていた。
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