第42話 走れ!
場面は変わってユキたち荒鷲組。
「お、あったあった。」
正しく追跡ヒントにたどり着いたユキは、嬉しそうに言った。
石の下に置かれた封筒を開け、中の紙を取り出す。
紙は2枚。
それぞれにこう書かれている。
『12』
『歌の数字の箇所を読め、それの集う場所へ行け』
最初の追跡ヒントは「1」
その次は「7」。
そして今度は「12」
「父さんの字だ…数字の箇所?1、7、12だろ。“見せばなや 出づる波の端 ちぎりの瀬”だから“みづち”…?」
ユキが首を傾げる。
「蛇の事だよ、古い言葉で蛇の事を“みづち”っていうんだ。ばあちゃんが言ってた」
皆が首をかしげる中、和希が静かに告げる。
「そうなんだ!」
「和希すげーじゃん!」
和希は普段あまり顔に表情をださない。
それがこの少年の神秘的な美貌を際立たせているのだが、この時は褒められた嬉しさにちょっと頬が赤くなって、思わず顔をふせた。
「あったりまえじゃん!和希はオメガだけど島の子だからな!」
北斗の言葉に、和希の顔が一瞬でいつもの無表情に戻った。
「北斗、それは関係ないだろ!」
ユキが咎めるように鋭く言う。
思わず首をすくめた北斗だが、なんで怒られたのかはわかっていない。
北斗にしてみれば褒めたつもりなのだ。
「蛇の集まるところってどこだろ?」
「そんなとこあった?」
空気を仕切りなおそうとするように、他メンバーが口々に言う。
「“蛇塚”があるだろ、あそこの事だろう。向かうぞ」
ユキの言葉に皆同意し、その場所へ向かうことになった。
一方そのころ早鷹組。
『ユキ達はとっくにヒントを見つけて宝の場所に向かってるだろう、俺たちがこれから引き返しても、もうどうやっても追いつけない…』
そう考えたのは広央だけではなかった。
メンバーの皆があえて口に出さないのは、言葉にする事でまだ先とはいえ負けを確定してしまうような気がしたからだ。
風がざわめいて山の木々をザザっと揺らしたが、それさえ負けの圧力に感じるくらいだった。
「なにやってんだよヒロ兄!さっさと行かないと!」
サジが叫ぶ。
優はいつものように黙って聞いている。
陸と朝陽はいつも喧嘩ばっかりしているが、こんな時に限っては意見を一緒にする。
「でも、もう無理じゃ…これから行ってもユキたちに追いつけない・・・」
「まだ負けって決まってないじゃん!ユキ兄たちを追い越せばいいんだよ!」
サジはそう叫んで、射貫くような目で広央を見た。
いや、今や皆が自分たちのリーダーの顔を見た。
サジは母親が島の人間だが父親は島外者、それもよく筋の分からないような男だった。
波兎組は島の子なら誰でも分け隔てなく入れるのがルール。
けれどそこには明文化されない影のルールの様なものがあった。
「島の子」が率先して入れるのだ。
「島の子」とは先祖代々の島の人間の子、父母とも島の人間である事。
お上の干渉を嫌い自由を希求する気風のこの島であっても、無意識の中に島の人間か島外者かの区別がある。
組分けをした清治に何らかの意図があったのか、優も光輝も陸も朝陽も“島外者”の子だ。
子供の狭い世界の中でヒエラルキーは低い。
島の子、それも総代の息子である広央は本来ヒエラルキーの上位に位置するはずだった。
それでも父親から突き放されたような境遇のせいか、アルファであるがゆえに周りから敬遠される境遇からか、彼には自分がそのヒエラルキーの上位だと驕る気持ちがまるでなかった。
サジも優も光輝も、陸も朝陽も同じ仲間だった。
だからいつもの訓練で彼らが落ちこぼれそうになっても、自然と手を差し伸べる。
広央は一人一人の顔を見た。
いつもはユキが隣にいて、二人で考えて進めばよかった。
でも今は違う。
自分がリーダーで、決断も自分で下さなければならない。
一人一人の瞳に自分への期待と信頼を見て取れた、こいつらに敗者の不名誉を与えたくない…
「よし、決めたぞ!」
広央が声高らかに宣言した。
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