第41話 急げ!

◆◆


「はあ、そんな訳だったのか…まあ皆無事で何よりだ」

戻ってきたメンバーの話に、広央は深く頷いた。


「ヨシ、みんな戻ったことだし早く寝るぞ…テント一個減ったけど何とかなるだろ」

不安と焦燥から解放された広央は、猛烈な眠気に襲われていた。


「ほら、お前も帰れ…」

鹿はしばらくその場に佇んでいたが、やがて跳ねるように自分の住処に帰っていった。


興奮気味だった皆も同じく眠気が襲ってきたらしく、残ったテントにそれぞれの体をぎゅうぎゅう詰め込みながら眠りについた。


テント内で、優は広央のちょうど隣側に寝ころんだ。

他のメンバーはとっくに寝ているし、一応屋内だし、これは優がしゃべれるシチュエーションだ。だが広央も既に熟睡していて、優もすでに半分夢の中にいる。

だから、和希がひそかに自分たちを見逃してくれた事を結局話さずじまいになった。





「見ーつけたっと!」

広央が嬉し気に声を上げる。


3本の棒が地面に突き刺さって、木の枝が斜めに立てかけてある。

“枝の指す方向に進め・目的地まで3キロ”の追跡サインだ。


「はは、すげーだろ!」

「俺達ちゃーんと情報掴んでたもんね!」

「つーかこのためにワザと捕まってたから!!」

「これで俺らの勝ちだろ!」


捕虜だったメンバーが口々に言い立てる。

テントの中で荒鷲組が追跡サインやヒントの解析について話しているのを、聞き耳を立てていたというのだ。


3キロの道をあっという間に駆け抜けると、それはあった。


枯れ枝を束ねて一方を縛り、もう片方を円状に広げて地面に置いたもの。

そのテント状のものを持ち上げると、小石を重しにして紙が置いてあった。


「さらに10キロ進め」

紙にはそう記してある。


「うわ、10キロ⁉」

「ウソだろ!?」

広央とメンバー達が全員思わず叫んだ。

ユキ達に先を越されないよう、かなり朝早くから出発したのだがヒントはまだまだ先。

しかも10キロとは…


「しょーがない!進むぞ!あれ、光輝大丈夫か?」

見ると、光輝は元気が無さそうに見える。

「うん、大丈夫だよヒロ兄…ちょっと眠いだけ…」

「テントに戻って寝てるか…?」



「みんな早く早く!荒鷲の奴らが来ちゃうよ!!」

陸と朝陽が息急きながら駆けつけてきた。


ユキ達荒鷲組の動向をこっそり偵察させていたのだ。

鉢合わせは避けたいところなので、とりあえず道を急ぐことになった。


優がふと隣を歩く光輝を見た。

表情が普段と違う、息遣いが細く弱くなっているのだ。

ヒロ兄は隊の先頭にいる。

伝えようと思ったが、やはり声が出ない。

優は自分の声が身体の奥に押し込められていることを思い知る。

思いを伝えられないまま、行軍は続いた。



木々の根が地表にせり出し、ごつごつとした地面に苔がむしている。

ひと際大きな木の根元に、それはあった。


少し大きめの石にの上に、一回り小さな石が置かれている。

“この下にヒントあり”の追跡サインだ。

広央が石をのけた。

下にビニールに包まれた封筒がある。

早速開いて中を見ると。


『残念でした! ユキより』


紙にはそう書いてあるだけだった。


「ユキのやろおおおお!!」


広央のむなしい怒号が山にこだました。

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