第40話 和希
捕虜メンバー5人は我先にと冒険談を語った。
◆◆
時間をさかのぼること数十分前
「野生の動物は危険だぞ、角で襲ってくることもある」
ユキのその言葉で皆がひるんだ。
たしかに体も大きく力のありそうな鹿だった。
しかし和希は一人スタスタと鹿に近付いていく。
そして。
ヒュッ
一瞬の内だった。
手際鮮やかにガイロープ(テント設営用ロープ)を鹿の首に巻き、近くの木の枝に結びつけた。
「なんか可哀そーじゃん」
「和希、つかまえてどーすんだよ?」
皆の質問に和希が冷静に答える。
「殺す」
その場の全員が凍り付く。
「殺して食料にする、明日の朝イチで捌く」
和希は淀みなく答える。
口調に冗談は微塵も含まれていない。
この返答にだれもがドン引きする。
ダメエエエエ絶対!!!
一番反対したのは優だった。
それこそ心の中で必死に叫んだけれど、もちろん誰にも届かない。
和希は優の視線に気付いた、返答は親指で首を掻っ切るポーズだった。
「ほら今日はもう遅い、とっとと寝るぞ!みんなテントに戻れ!」
ユキの号令で皆はテントに戻った。
もちろん捕虜たちはそれぞれのテントにまた押し込められる形で。
新たな捕虜に加わった優はちらと鹿を見た。
よほど警戒心のない鹿なのか自分が大変な立場になっている事にも気付かず、ただ黒曜石のような目でこちらをじっと見つめている。
優は先ほどの和希の首を掻っ切るポーズを思い出し、そして誓った。
『絶対に助ける!!!!』
しばらく後。
皆が寝静まり静寂があたりを包んでいたが…突如悲鳴があるテント内からあがった。
「なんか首のとこモゾモゾする!!」
「あかりつけろ!」
懐中電灯の光がパッとテント内を照らした。
「ぎゃあああムカデ!!」
「うわこっちにも!」
見ると、うぞうぞと嫌な動きでムカデが床を這っている。
テント内はあっという間にパニックになった。
その隙に逃げ出した優は他のテントにもこっそりムカデを放り込み、パニックになった隙に仲間を連れ出した。
「優、早く逃げるぞ!」
焦る仲間を背に、優は必死に鹿のロープを解いていた。
ロープの扱い方は普段の訓練でしっかり習っている。
ほどなくしてロープを解いて、鹿を自由にしてやった。
鹿はのほほんとその場に立ちすくんでいる。
「ほら、優いくぞ!!」
こうして捕虜メンバーと優はその場を後にした。
その時優がふと振り向くと、和希がこちらを見ていた。
捕虜は敵チームに気付かれないようにこっそり逃げなくてはならない、脱走に気付かれたらまた連れ戻されるルールだ。
『やばい、見つかっちゃった!』
優は焦ったが、和希はそのままじっとこちらを見ているだけだ。
そして、そのままくるりと背を向け、いまだパニック冷めやらない自軍に戻っていった。
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