第39話 火柱
広央が止める間もなく、火柱が大きい方が発見しやすいだろうとメンバーが木の枝やら食料の入ってた容器やらをどんどん火にくべている。
当然、炎は勢いを増していく。
山の天気は変わりやすい。
間の悪いことに風が出てきた、パチパチと爆ぜる音と共に火の粉が風に舞ってテントにぶわっと覆いかかった。
あっという間にテントが燃え盛った。
消火しようにもここには飲料用ペットボトルがあるのみ。
消化用には心もとないし、第一皆の飲み水がなくなってしまう。
「やばいやばい!!」
「どーしよどーしよ!!」
皆一気にパニック状態だ。
『いかん、このままじゃ山火事になる!!ああ…なんかもう俺ミスってばっかじゃん…もうダメだ…キヨおじさんに連絡しよう…!!』
広央が覚悟を決めてスマホをタップしかけたその時。
皆の視界が一気に真っ白になった。
シュワワワーーーッツという音とともに真っ白な煙があたり一面を覆い、そして炎がまたたく間に消え去った。
「お前ら何やってんだああ!!」
憤怒の形相で消火器を抱えた人物が立っていた。
婦人部会会長“ダーク未来予想図”のお藤だった。
一人残らずお藤に頭をはたかれ、抗弁しようものなら容赦なくビンタされる。
広央ももちろん害を被った。
「てかお藤、なんでここにいんの…?」
広央が皆を代表して恐る恐る聞いてみる。
「お前らジャリどもはロクでもない事するから、当番で見張ってんだよ!」
山狩りは基本的に子供達だけでやり遂げる決まりだが、近年さすがに安全上の配慮から、何かあったときの為に山小屋に人員を配置している。
火柱が立ったのを見咎めて駆け付けてきたわけだ。
お藤は所かまわず消火器を噴射していく。
もちろん子供らを避けて、といった配慮は一切ない。
「ああこの国は終わりだよ!この島ももう終わりだよ!」という呪詛をふりまくのも忘れない。
こうして火は無事に消し止められたが、優は一向に帰ってこない。
ここで広央は覚悟を決めた。
大人に助けを求めた時点でゲームオーバー。
けれどもう躊躇している暇はなかった。
「お藤っ、大変なんだユ…」
優がいなくなった、と叫ぶ前にサジが猛スピードで突っ込んできて広央をお藤の前から引き離した。
「ヒロ兄ダメだって!棄権になっちゃうじゃん!負けになっちゃうじゃん!」
「いやそんな事言ってる場合じゃないだろ、早く大人呼んで優を探さないと」
「俺らで探せばいいじゃん!絶対にその辺にいるって!」
他メンバーも加わり、お藤に聞こえないようひそひそと相談しあう。
「お前たち…なんの話してんだい…?」
お藤が何かを感じ取ったらしい。
憎っくきジャリめをひねりつぶそうとする目つきだ。
思わず子供らが後ずさった。
お藤の瘴気にじりじり気圧され、いつの間にみんな広央の背中にひしと隠れる。
『優がいなくなったことが発覚したら、山狩り自体中止って事もありえる。そうなればお藤の負担も無くなる。この妖怪が歓喜する事態になるって事か…くそ、目つきが完全に妖怪のそれじゃん…!いや、早く優を見つけてらやらないと…!』
広央が再度、助けを求める決意を固めた次の瞬間。
「ヒロ兄!ただいまああ!!」
猛然と土埃をあげてこちらに向かってくる一団があった。
なんと優と捕まっていたはずの5人が、1頭の鹿と共にこちらに走ってくる。
余りの事にみな呆気にとられたが、戻ってきた仲間の姿を見て安心した。
「優!!どこにいってたんだよ~もーダメかとおもったじゃん!」
広央が泣きそうになりながら優に駆け寄った。
皆の前に着くと鹿は直ぐに走り去っていった。
何があったか聞こうにも優はいつもの如くしゃべらない。
なので捕虜メンバーが事の経緯を説明し始めた。
トラブル回避を見て取ったお藤は、山狩り中止の見込みが無くなったことを憎々しげに思いながら、さっさと山小屋に引き上げていった。
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