第33話 始まりの記


総代が現れた。


ここ数年、政務に追われて島の行事に参加することは殆どなくなっていた。(軍との緊張関係が主な原因だ)その総代が久しぶりに島の行事に顔を出した。

もちろん理由は皆分かっている。


息子が、広央が参加するからだ。


(父さん…)

広央は父の顔を遠くから仰ぎ見た。

父の周りには早速人が集まってきて、広央との間の壁になっている。

誰の為に来たのか明白なはずなのに一切息子の方を見ようとしない。


(父さんも昔山狩りで、やっぱり勝ったって聞いた。ううん、代々総代の子は絶対に勝つって。…俺だって総代の子で、アルファのオスなんだ!)


父は周りの人間との会話に専念していて、息子の方を振り向かない。


(勝って、父さんを振り向かせて見せる!)

広央が心ひそかにそう誓ったとき、清治が子供たちに号令をかけた。


「ほら、島の子ら、集まれ!」


凛と響き渡る声だ。

子供らも勇んで駆け付ける。


「いいかお前達、かつてこの島には漁師とその女房子供だけが住んでいた。

ある日一人の侍がやって来た、罪人としてこの島に流されたんだ。

当然島人達は反発した、なぜ自分たちの島に罪人などが来たのだと。

その侍と島人は当初一切関わりを持たなかった。       


ある日子供が山で行方不明になった、何処を探してもいない。

神隠しにあったのだと言う者さえいる。

その時侍、が言った。

神も仏も子供をさらったりはしない、皆で総出で探して、探し出せぬ事があるかと。そうして侍と島人が山を必死で探し、子供は次の日無事発見された。

侍が危険な崖を降って、窪地に落ちた子供を助け出したんだ。

それ以来、侍と島人は仲良く暮らすようになった」


清治が子供たちを見渡す。


「侍は漁師では知りようのない、戦いの技術や知識を伝えた。

この独立独歩の島、神之島の始まりの記だ」


島の子供らはこの話を聞いて育つ。

流れ者たちを受けいれ、彼らの知識や技術を学び団結し、本土勢力と戦ってきたこの島の歴史を。

全ては侍と島人が、山で子供を一緒に探したことが始まりだったと。

だからこの故事に倣った行事、“山狩り”を行うのだ。

子供たちが互いに協力しあい、時に競争しながら宝物を探し出す。

勝者側のリーダーは仲間からは称賛を、大人達からは承認を得られる。


“統率者にふさわしい”との承認を。



「それでは発表するぞ!」


清治の凛とした声に、子供らが息をのんだ。そして次の言葉を待った。


「今回探し出す宝は…」


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