第31話 諜報戦
子供部屋で広央とサジは、PC画面を睨みながら作戦会議を始めた。
イサも分からないながら広央にひっついて画面を見つめる。
「いい?ヒロ兄。これまでに出されたお題を分類してみたんだけど」
サジが画面に何やら小難しいグラフを出す。
「大きく分けて4つに分類されるんだ。①植物、②金物類、(刃物、鎌、釣り針)③道具類(鏡、鈴、器)、④その他。結構大変だったんだからね、ずーっと昔のから調べるの!」
「おおっ!なんかすげーじゃん、サジ」
詳細なグラフに思わず広央が感嘆の声を上げる。
「ヒロちゃん、これなあに?」
イサが不思議そうに聞いた。
「波兎組のことは知ってるだろ?」
「うん、島の男の子が入ってて、山で訓練したり、泳ぎを習ったり…色々おしえてもらったりするんでしょ?」
「そう、12歳までここで色んなこと教わって、鍛えてもらうんだ。父さんも、キヨおじさんも島の男はみんなやってきたんだ」
「でも12歳までなの?」
「だからヒロ兄は、今年で最後なんだ…」
サジが残念そうに言う。
「昔は13歳から大人だったから、もう来年から猪狩隊所属になるんだ。俺はもう大人!イサとサジはまだまだ子供な~」
この言い分にはサジもイサも大いに異議を唱える。
子供らしい小競り合いをすること数分。
「そんな事よりサジ、どうだ今回の“宝”分かりそうか?」
「?ヒロちゃん、宝って?」
「よし、最初から説明するよ。波兎組はいつも一緒に訓練するんだけど、この山狩りの時だけ荒鷲組と早鷹組に分けるんだ」
「どうやって分けるの?」
「キヨおじさんが、組み分けは猪狩隊の隊長がやるんだ」
そこから先はサジが説明を進めた。
「で、俺はヒロ兄と同じ早鷹組、和希は荒鷲の方。それぞれの組にはリーダーがいて、卒業する予定の12歳がやるんだ。今回荒鷲の方はユキ兄、早鷹の方はヒロ兄!」
「えっ、ヒロちゃんとユキちゃん別々なの?」
遊ぶにしても何をするにしても、いつも一緒に行動している広央とユキが別々の組になる事がイサには意外だ。
「別々どころじゃないんだぜ!荒鷲と早鷹は山狩りの時は敵同士!」
サジがイサを脅かすように言う。
「ヒロちゃん、ユキちゃんとケンカするの?」
イサが少々不安げに問いかける。
「いやいや、ケンカじゃなくって競争するんだ。お互いの
“
神之島の子供の伝統行事「山狩り」。
前述の通り子供らを「荒鷲」と「早鷹」の二組に分ける。
そして彼らは“宝”を見つけ出すべく競争する。
ところがその宝というのが一筋縄ではいかない。
宝は昔から猪狩隊の隊長から出題されるしきたりだ。
宝は時に鏡であったり、金物であったり、楽器であったりする。
子供たちは山狩り当日に探し出すべき“宝”が何であるかを知らされる。
そして宝にたどり着く為のいくつかのキーワードを与えられ、先に宝を見つけだした方の組が勝ちだ。
「先手必勝!先に宝が何だか分かってるほうが有利だし。どうだサジ、分かりそうか?」
「俺がデータを解析した結果、規則性や法則性は一切無し。ランダムに出題されていて今年の宝を推測するのは無理!」
その言葉を聞いて意気消沈する広央をよそに、なぜかサジは得意気だ。
「がっかりするのはまだ早いって、データで情報を割り出せないなら、盗めばいいんだもん!」
「盗む!?おいサジ何言ってんだ」
「一の宮の社務所に忍び込んできた!」
それからサジは昨日のスパイ談をざっと語った。
この神之島のやや海側にある山(中腹に総代エリアがある)を父山と言うのだが、この父山には3つのお社がある。
まず麓にある神社が「一の宮」。
中腹にある神社を「中津宮」、そして頂上にある神社を「高宮」。
一の宮と中津宮にはそれぞれ社務所があり、子供の集まりや島民の会合にも使われ、猪狩隊の人間も利用する。
山狩りにあたっては、子供らの食事の用意など大人側もいろいろ準備があり一の宮の社務所では朝から婦人部の女性らが出張って、何やらわいわいと賑やかである。
大人たちの雑談を注意深く聞いていれば、なにか今回の宝に関するキーワードが拾えるのでは…というのがサジの見込みだった。
玄関で靴を脱ぎ、何食わぬ顔で社務所に上がり込んで中をうろついていると…果せるかな宝を出題する当の本人、猪狩隊隊長がいたのだった。
ここにいる理由を問われ焦ったサジは急にお腹が痛くなって、とトイレに駆け込んだ。
しばらくトイレの個室の中で佇んでいると、どこからか料理のいい匂いがしてくる。
サジはおばちゃんたちがキリキリ働いてる中で、どうも自分は場違いな存在であることに気が引けた。
トイレから出てきた時、肝心の清治の姿はなかった。何処だ…と探していると庭にその姿を見つける。
清治は猪狩隊の隊員と何か話し込んでいる。
それとなく近付いて話を聞こうとするサジだが、何しているんだもう家に帰れ、と諭され仕方なく帰るフリをした。
清治はそのまま隊員と社務所に入り、縁側で何やら話の続きをしている。
サジは縁の下に潜り込み、その話を聞き漏らすまいと耳をそばだてた。
「おいおい忍者かよ!それで!?」
「それで聞けたの?サジちゃん」
広央は勿論イサまで、期待に胸を膨らました。
「キヨおじさんはこう言ってた“今回の宝は子供らびっくりするぞ、まるっきり初めてのモノだからな。いや、モノじゃないか、なんせヒトだからな”」
パソコンの画面はとっくにスリープモードになっていて、不可思議なアニメーションが流れている。
ドヤ顔でサジが言った。
「探すべきお宝は、“ヒト”だよ!」
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