第7話 オメガバース

女子高生が叫んだ。

「お兄さん“アルファの雄”なの!?」


「え・・・あ、まあね。でもそのオスって言い方やめてよ、動物じゃないんだから」


「すっごいじゃん!むっちゃ貴重な存在じゃん!超~優秀なんでしょ!?」


「いや別に、それほどでも…」


広央の言葉を無視して、女子高生は興奮したように喋り続けた。

「うちの学校にもいるの!アルファの男の子。授業サボってばっかなんだけど、テストとかいつも一位で!しかも全然勉強してないんだって。教科書とか一回読むと、理解して覚えちゃうんだって!あと、もう一人男の子いて、その子はフィギュアスケートやってて、こんど国の特待生になるんだって!!」


「いやあのキミね、ちょっと落ち着いて…」


「キミじゃなくて、うち加奈美だから!でさ、うちアルファのヒトとかあんまし喋ったことなくて、普段どんな感じなの?頭とか超イイんでしょ!?なんかすごい能力とかあんの!?…ってどうしたの、なんかすっごい暗い顔になってるけど…?」


「いや、別に…」

広央がその通りすごく暗い顔で答えた。


「じゃ話戻すけど、なんか国の偉い人とか、すごい学者さんとか、あとすっごい企業作った人とかも、みんなアルファの人なんだよね!お兄さんはなんか凄いの!?」


「いや俺全然、フツーだから…」

広央がさらに萎れた表情で答える。



アルファ・ベータ・オメガ…人間はこの三つの種別に分類される。

アルファは人口の約2割。

総じて有能で頭脳明晰な者が多く、生まれながらにしてカリスマ性を備えている種別。身体能力にも優れた才能を発揮する者が多い。エリート種別であり、活動的で上昇志向が強い半面、強欲で攻撃的な性質だとも言われる。歴史上に名を遺す偉人、指導者、政治家、発明家、スポーツ選手は大概アルファだ。


ベータは人口の7割程。

最も総数が多い種別。能力は総じて凡庸・平凡。人口が一番多い層なので、劣性の者から優秀な者まで能力にはかなりの個人差があるが、基本的にはアルファの能力には及ばないとされている。


オメガは人口の約1割程度。

人口的にはもっとも少ない種別だ。

漂白されたような色素の薄い肌の色、同じく色素の薄い髪色(幼年時から白髪)という、他の種別にはない外見的特徴を備えている。

そして何よりも、オメガ達は他の種別にはない、特異なある特性・・を持っている。その特性とその外見故に、劣等種別だと見なされている。



「お兄さん謙遜してるでしょ!?“アルファの雄”がフツーな訳ないじゃん!絶対なんか凄い能力とかもってるでしょ?いいな~!うちもアルファに生まれたかった~」


「いや、あのね、カナミちゃん。そんな事より君なんでさっきみたいな連中に追われて…」


「あ!!でも女の子のアルファって、やっぱちょっと嫌がられるんだっけ?優秀すぎるから扱いづらいって!」

一向に広央の話を聞く気配はなく、ペラペラとまるで砲撃のごとく喋りまくってくる。


広央は心の中で溜息をついた。

“アルファの雄”であることがバレると、よくこういう反応をされる。まるで珍獣を見つけたように。勝手に羨まれ、勝手に妬まれる。そして勝手に壁を作られていく。

特別扱いと差別は紙一重だ。

(“選ばれし優秀種別”?冗談じゃない!俺にとってはむしろ呪いだ…)


「…疲れた、お兄さんはもう行く。君もまっすぐ家に帰んなさい…」

「ちょっと、か弱い女の子置いてく気!?」

「大丈夫。君ならやっていけるさ…」

加奈美をおいて、ふらふらと通りに向かい始めた広央だったが、次の瞬間耳をつんざく爆音が鳴り響いた。


『ピーンポーンパーンポーン 緊急島内放送!緊急島内放送!!』

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