第6話 種別:α
突然声をかけられ、広央の思考は遮られた。
見ると強い日焼けをして、長い髪を背中まで垂らした女の子がいた。
前髪はカラフルなピンで留めていて、爪はマニキュアが、唇にはグロスが塗られている。
顔つきはまだ幼い、高校生くらいか。
「お兄さんヒマに見えるかね?こう見えて忙しいのよ(逃げるのに)」
最後の語句はもちろん口に出さずに広央は答えた。
「ていうか君、まだ学生だろ。学校はどうした?さぼったか?それとも家出してきたか?」
“何処にもない自由さ”の風分を聞きつけて、島に流れてくるこの手の家出少女、家出少年は後を絶たない。もちろん深刻な虐待や、過酷な環境から逃げてくる者も多いが。
“来るものは拒まず”が島の基本姿勢だが、それにかこつけて島を隠れ蓑にしようとする重犯罪者などもいる。そいつらを監視し、取り締まるのも猪狩隊の役目だ。因みに元々は島民を苦しめる凶暴な猪を狩るため、男たちが組んだ小隊が起源である。
時折軍が威圧の為、巡視船を派遣して島の漁師を威嚇してくる。
もちろん、島側も黙って見過ごしてはいない。時に巡視船にぶつかる勢いで高速船を寄せ、小銃を構えもする。猪狩隊は島の警察と防衛を兼ねた組織だ。
現在、猪狩隊の隊長は広央の弟分の和希が務めているが、かつてはユキが務め、“鬼隊長”として恐れられていた。
広央は副隊長。二人は島の双璧として、隊員たちに畏怖と尊敬の眼差しで見られていた。
猪狩隊は街の治安と平穏に大変気を使っているので、それで広央も街を自分の庭のごとく知悉している。
「まあ、家出のワケくらいお兄さんが聞いてあげるから。立ち話もなんだから、そこのマックにでも入る?」
これは副隊長時代の、見回り巡回の習慣だ。現在自分自身が逃亡中の事も忘れて、ついうっかりと口をついて出た。
その時、広央達の会話が突如男たちの罵声によって遮られた。
「てめええ、このクソ女ああ!ここにいたかぁ!」
ドレッドヘアに金のネックレス、両腕にびっしり入った刺青。
テンプレート通りの反社会的ファッションをした強面の男達が、怒声を上げながらこっちに向かってきた。
男たちは明らかにこの女子高生めがけて走ってくる。
ほっといたら殺される勢いだ。
居合わせた広央は、仕方なく一緒に逃げる羽目になった。
大声で咆哮して追いかけてくる男達を振り切り、ビルとビルの谷間に二人して逃げ込んだ。
なんとかやり過ごしたようだ。
「はああ…なんで俺こんな走ってばっかなの?今日…」
「お兄さん、なんか膝カクカクしてるけど、大丈夫?てか普段全然運動とかしてないの?」
「バカいってんじゃないよ、バリバリの体力の持ち主よ、俺。昔、猪狩隊の訓練で山の麓からてっぺんまで走らされて…」
膝に手をついて前屈みの姿勢でゼイゼイ言っていたので、ポケットから何やらポトポトと落ちた。スマホやら、十字架のネックレスやら小銭やら。その中に国民基礎番号カード、通称“コッキカード”があった。
名前と住所と生年月日性別…そして次の項目がはっきりと記載してある。
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