第3話 追う者と追われる者
その頃、山頂の就任式会場の神社では…
本日の主人公たる次期総代が逃げ出すという珍事に、境内は大いにザワついていた。
参列者はあたふたと右往左往し、見物客も何が起きたのか分からず、SNSで憶測を呟きあっている。
時代の趨勢でかつては島民しか参加しなかった総代就任式も、現在ではネットで配信している。
この珍事に配信は一時ストップを余儀なくされ、島の観光映像などを流してお茶を濁している始末だ。
そんな中で、この島を守る自衛組織“猪狩隊”にある男が指示と檄を飛ばしている。
皆から“ユキ”と呼ばれるこの男は、猪狩隊の前隊長で広央とはいとこ同士だ。日に焼けた小麦色の肌をしていて、上背があり屈強な体つきのこの男が怒号を発すると、辺りにピリッとした緊張感が走る。
「1時間以内だ!!あの馬鹿をとっ捕まえて来い!いいか!生死は問わずだ!」
よく通る声で命令を出す。
「ユキ兄、ちょっと待って!!」
先程幔幕の裏から呼び掛けて来た青年、和希が思わず止める。
深々と被ったキャップの下から、白い髪が零れている。
髪だけではない。
睫毛も白く、肌の色も瞳の色も限りなく色素が薄い。
後述する“オメガ”の青年だ。
その和希がユキに取り成し半分、抗議半分の口調で言う。
「生死を問わずって!重犯罪者じゃあるまいし、それに…命令出すのは俺だから!」
現隊長の矜持を込めて言い切った…のだが
「あ゛…?」
職位を和希に譲ったとはいえ、鬼の前隊長の醸し出す不穏オーラの効力は健在である。
「私語はいらん!とっとと行け!てめーらも殺されてえか!」
効力抜群の怒鳴り声に気圧され、結局現隊長とその他隊一同命令に従い、そそくさとその場を駆け出した。
「隊長お~、探すったってどーするんすか?イノシシじゃねーから米ぬか(エサ)で釣るワケにもいかね~し」
髪はピンク色、黄色いウィンドブレーカーはぶかぶかで袖先をだらーんと下げている、どうにも緊張感のない恰好の若者が和希に問いかける。
「幸いスマホの電源は入ってるみたいだから、ある程度の範囲は絞れる。そこからしらみつぶしにかける」
「マジっすか?スマホの電源切ってないとか、ホント逃げる気あるんすかね~。そこまで頭が回んないとか?ヤバいっすよそれ~」
「ヨリ、…ヒロ兄は総代だぞ」
和希に睨みつけられ、調子よくヨリは「サーセンッ」と真顔に戻った。
こうして現隊長の和希率いる猪狩隊が、着任前に逃げた総代を探しにいくため、山中を駆け降りていった。
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