第10話 人外の転生者があまりに可愛すぎるので贔屓していたら全俺が泣いた話 その1

 「わふっ!」


 おいおいおいおいおい。なんでやねん。いきなりお犬様がいるんだが、今回の転生者はどこ?


 「わん!わん!」


 俺の周りをとてとてと元気に走り回るな。この小さな丸っこい毛玉め。ちくしょう。可愛い。


 「それにしても本当に何処に転生者がいるんだよ………ん?」

 「わん!」


 俺の足にぽてっとタッチしてどうしたお犬様。まるでそれは僕だよって言ってるみたいだが………いや、マジで?


 「色んな人間を転生させてきたけど、人外は初めてだなぁ………」

 「わふ?」


 抱えてまじまじと見ていたら、こてんと首を傾げるお犬様。可愛い。もしかして俺の言葉がわかっているのか。お利巧さんですねー!わしゃわしゃ。


 「………」


 そんな一人と一匹を遠くから見ている目が。なんでそんなに離れてんだ、リリー。


 「犬は………ちょっと、得意ではないので」

 「わん!」


 お犬様が可愛く吠えると、ぴゅーっとリリーは飛んで空に逃げていった。初お披露目の飛行シーンがこれでいいのかリリーよ。


 「くーーん?」

 「よしよし。あのお姉ちゃんはちょーーっと空を飛びたくなっただけだからなー。お前の事が怖いわけじゃないからなー。本当だぞー。あいた!?」


 お犬様に念押ししていたら、頭に何かぶつかったぞ!いってー。なんだよ。………天使の矢(物理)やんけ!!


 「あの距離から当てるとか、どんだけスナイパーなんだよ。後、地獄耳すぎん?天使なのに」


 言ってて自分でも面白いなフフって笑ってたら、矢をスコココンって頭にぶつけてきやがった。やめろぉ!割とガチで痛い!


 「くぅん、くぅん」


 お犬様が俺を慰めるように頬をぺろぺろしてくれる。なんたる癒し。こんなに可愛いのにリリーは苦手なのか。

 でもリリーも犬に当たらないように撃ってるから、心底嫌いではなさそうなんだよなぁ。


 「さて、どうしますかね」

 「きゃん!きゃん!」


 元気に走り回ってはいるが、こいつに話を聞くわけにもいかんしなぁ。リリーも知らないって矢文がきたし。矢文って。


 「仕方ねぇ。ここはこいつの出番だ!」


 てれれれー。ゴッドフォン~。早速、奴に電話をかけてみよう。プルルルっと。よう久しぶり。俺の所にお犬様きてんだけど、何か知らない?




 電話を掛けたおかげで犯人がわかった。獣神だった。何やら最近、評判がうなぎ登りの俺の噂を聞きつけて、この子を送ってきたらしい。


 「俺は人間しか転生させた事ないってのに」


 人をサクッと転生させてはいるが、同じ要領で動物も出来るかはわからん。

 それにこの子の事情も知っておきたい。獣神がわざわざ送ってきたのだから何かしら理由があるのだと思うのだが。………そのあたりもちゃんと言っておけよ獣神め。今度あったらモフりつくしてやる。


 「困ったなぁ。どうしよう。適当に転生させるわけにもいかんしな………」

 「くーん?」


 俺が困った顔をしているのがわかったのか、不安そうに顔を曇らせてしまった。ごめんな。お前にそんな顔をさせるつもりじゃなかったんだ。


 「サプライズで遊びに………ごほん!視察に来てやったぞ!む?仕事はもう終わっていると思っていたのだが、まだやっているのか?早く来すぎてしまったか」


 幼女神のルナじゃん。相変わらず際どい白ワンピ着やがってけしからん奴だな。


 「視察に来たのに、何で仕事が終わったタイミング見計らってんだよ」

 「………………し、仕事終わりでたるんでいないかのチェックだ!私生活も監視してやる!」


 こわっ!ヤンデレかよ。お前、ツンデレな所あるからそれ以上属性増やさなくていいって。


 「ルナ様。いらっしゃいませ」

 「おぉ。リリーもこんにちは………って、どうしてそんなに遠くにいるのだ?」

 「諸事情により」


 リリーが指差した先にはお犬様。ルナと視線が合うと元気にわん!とご挨拶をした。えらいねーー!!


 「犬?どうしてこんな所に………」


 話せば長くもならんが、まぁせっかく来てくれたんだから座って話そうぜ。何もないけどな。




 「………ふむ。そんな事になっていたのか」


 ご理解頂けたようで。せっかくだからルナは何か良い案はないか?


 「僕は動物とも話せるぞ?」


 え!?そうなの?すげーじゃん。これが平の転生神と世界を任されている神との違いか………。

 それにしてもお前、良かったなー!ルナのおかげで意志疎通が出来そうだし、転生もすすめる事が出来るだろう。嬉しいか!そうかそうか!ははっ。やめろって。そんなにはしゃいだら落っこちちゃうぞ。


 「………そこは僕の場所だぞ」


 ん?ルナ、今何か言った?ぼそっと言って聞こえんかったわ。こら、嬉しいからって膝の上で暴れるなって。こいつめー。


 「僕のおかげでその子と話せるのだから、僕はすごいだろう!」


 お、おお?急にどしたん。めちゃくちゃ感謝してるって。そうだ。お礼と言ってはなんだが、地獄パイまだあるから食ってくか?すこここ!!!痛い!?


 「犬が苦手だからって矢文オンリーはどうかと思うよ?後、俺にわざわざ当てる必要ある?ったくよぉ………」


 なになに。私、鈍感系主人公って嫌いなんですってそれ今言う必要ある!?なんかルナも膨れっ面だし、わけわかんないよ。

 わけわからんが、ルナの機嫌が直るまで待つ事にしよう。俺が悪いのかもしれんが、理由もわからず謝っても逆効果だろうしな。




 「この子の名前はペスと言って、どうもご主人様を探しているみたいだ」


 ほうほう。ペスって言うのかお前。それで探しているとはどういう意味なんだ?


 「ご主人様も転生者みたいで、別々の世界に行ってしまったんだと。それで何回も何回も転生を繰り返して、その度に徳を積んでは記憶を保持して、やっと探し当てたんだとさ」


 何だよそれ。どんだけ長い間、探し続けていたんだ?転生神だからこそわかるが、記憶を引き継ぐのは例え知っていたとしても並大抵の努力で成し遂げられることじゃない。

 それに色んな出会いもあっただろうに、それでも最初のご主人様を追い続けてきたってのか?やめてよね。俺る゛い゛せ゛ん゛よ゛わ゛い゛ん゛た゛か゛ら゛。


 「いきなり号泣するな!あーもう。鼻水でぐちゃぐちゃじゃないか」


 そう言ってハンカチをそっと押し付けて、ほら、ちーんしろ、と言ってくるルナ。お母さんかよ。有難くちーんしてやるぜ!すびびびび。ふぅ。すっきりした。これ、後で洗って返すからな。


 「どこまで話したか。あぁ、そうだ、ご主人様を探し当てた所だったな。神の力を借りて探し当てて、その世界に転生させて貰えるように約束も取り付けたらしいぞ。………ペスって実はかなりすごい犬なのか?」


 獣神よ。そんな大切なペスをお前は無責任に俺に投げたわけか。許せん。ペスが許しても俺が許さん。モフりまくるだけじゃなく、その毛並みも存分にブラッシングしてくれるぞ!!!!


 「こんな話、なかなか聞かないんだが、一体、ペスはどんな事を………えっ!?」


 急にどうした。そんな大声出して。


 「お、おい。ペスのステータスを見ろ。すごい事しか書いてないぞ」


 そういえばペスの見ていなかったな。一緒に遊んでて見るの忘れてた。

 ちなみにステータスとは、ここでは転生する時に貰える能力とか確認できるやつだ。まぁゲームで言うステータスとあまり変わりないな。


 「どれどれ………獣神の寵愛?全能力に大幅なプラス補正、全状態異常無効に全精神耐性。全魔法適正………」


 全全つけすぎぃ!?これなんて裏ボス?しかもダウンロードコンテンツとかで出てくる開発者のユーザーに対する挑戦状的なボスのレベルなんだが。

 獣神。お前こんだけすごい事をペスにしているのに、何故俺に。あれ、意外と俺、獣神に頼られてる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る