第9話 バスの事故で三十人ぐらい転生者が来て、デスゲームやバトロワは始まらないの?って言ってた子が王になった話 その3

 それからマキナはリサの悪事を暴露し始めた。顔が青くなっていくリサを見ているとなかなかに爽快だ。タイキは本当に何も知らなかったようで、茫然としていた。知らなかったではすまんし、まぁ普通にこいつも悪い。


 「………というわけです。理解しましたか?原因である貴方の事を好きになるはずがないでしょう。だから貴方たちと一緒に行くなんてありえません」

 「あ、あぁ………」

 「てめぇふざけてんじゃねぇ!!嘘ばっかり言って!自分を悲劇のヒロインにでもするつもり?お生憎様!誰もあんたの事なんて信じないわよっ」


 逆ギレをするリサ。往生際の悪い子だな。誰も信じない?少なくとも神である俺はそれが本当だって知ってる。それはリリーも同じだ。それでも役不足かな?


 「リサ」

 「タイキ!こんな嘘つき女の言う事なんて信じないでよ!私たち、幼馴染でしょう!?」

 「いいから、少し黙ってくれ」

 「え………」

 「あっちで少し話をしよう」

 「待ってよ!痛いって!そんなに手を引っ張んないでよ!!」


 そのまま二人で行ってしまった。話し合いをしているようだが、ずっとタイキは厳しい顔をしている。ふむ。悪い意味で鈍感主人公なタイキだが、根はそれほど悪くないのかもしれない。


 「どうですか。言ってやりましたよ。散々、好き放題にされてきたので、やり返すと気持ちいいですね。見てください。彼女の泣き顔。ざまーみろです」

 「マキナ。大丈夫ですよ」


 その時、リリーがマキナの体をふわりと包み込んだ。


 「リリー、さん?」

 「よく頑張りましたね」


 マキナ自身は気づいていないようだが、彼女の体はずっと震えていた。人間不信で人が怖いマキナが精いっぱい振り絞って出した勇気だったのだろう。


 「………」


 マキナはリリーに頭を撫でられながら抱擁されている。ぽろぽろと透明な涙を零しながら。

 こういう時のリリーは本当に天使だな。俺にもこれだけ優しくしてくれると有難いんだが。

 さて、俺はお邪魔なようなので退散しよう。この騒動を見て他の生徒たちはどうしているかな?




 それからしばらくして、話し合いが終わったタイキとリサはマキナに謝罪をしてきた。なんと土下座で。リサはかなり嫌そうだったが。


 「もういいです。そんな事しなくても。皆にも謝って貰いましたから」


 そう、この騒動を見ていた他の生徒や先生もマキナに謝ってきたのだ。


 「謝罪だけで済まそうだなんて、都合が良いですね。自分の罪悪感から逃げたいだけでしょうに」


 リリーは相変わらず辛辣だが、確かに噂に流されるままにマキナを無視してきた人たちだ。この中に一人でも彼女の味方がいれば、と思わずにいられない。

 それにマキナ本人にしてみれば、今更謝られても仕方ない。そういう風にしか思わないだろう。


 「神様」

 「マキナか。お疲れ様」

 「ええ、本当にお疲れですよ。やり返したらそれで終わりじゃないんですね。別に謝って貰おうと思っていたわけじゃないのですけど」

 「謝られても気が済まないか?」

 「………そうですね。なんというか、心が籠っていない気がしました。………あの人はちょっと違いましたけど」


 タイキの事か。確かに地面に頭を擦り付ける勢いだったし、何度も何度も謝っていた。マキナが思わず止めるぐらいだったからな。


 「でも、それでも許せないし、ひどい目に合って欲しいと思うのは、私の心が狭いからでしょうか」


 謝ってきた他の生徒たちは、もう全部解決してしまったかのように転生先の事で盛り上がっている。リサもそれは同じだ。


 「マキナの願いを叶えるわけじゃないが、恐らくひどい目には合うだろうな」

 「………やっぱりそうですよね。あの条件、怪しすぎます」


 気づいていたか。冷静な人なら違和感を少しでも感じる事だろう。


 「その事に気づいているのに何も言わない私はずるいのでしょうか」

 「言っても聞きませんよ、マキナ。貴方の言葉じゃなくても、神の言葉でさえ聞いていないのですから」


 まぁ神様に威厳がないせいかもしれませんが、って余計な一言いう必要ある!?


 「マキナが気に病む必要はありません。いいですね?」

 「………はい。ありがとうございます」


 それから集団転生組は、ほどなくして転生させた。最後までタイキは尾を引かれている様子だったが、それはもうどうしようもない。転生後の世界はきっと大変だろうし、皆で頑張ってくれ。


 順々と他の人たちも転生させていき、最後にマキナだけが残った。


 「さてマキナ。君には神様からの特別なプレゼントがある」

 「プレゼント、ですか?」

 「そう。チート能力と呼ばれるやつだ。………なんかあんまり嬉しそうじゃないな?」

 「貰っても目的がないと言いますか………」

 「ふっふっふっ。果たしてそうかな?」


 俺があくどい顔をすると、すかさずリリーが間に入ってマキナを守った。いや冗談だってば。さっきから思ってたけど、やけにマキナに過保護だな。


 「こほん。それで君にあげるチートについてだが、全ての動物と話せて仲良くなれるチートだ!!!」

 「えっ………」


 ふっふっふっ。食いついたな?マキナが動物好きだってのは調べがついてんだ!

 ………まぁネタバラシをすると、マキナがチートを貰えるのも、動物の命を救って助け続けたおかげなのだ。チートが貰えるぐらいなのだから、相当頑張ったのだろう。


 「それは嬉しい、のかもしれません。話せるようになるのは。でもその力で仲良くなれるってのは、何か違う気がします」

 「安心してくれ。仲良くなれるといっても切っ掛け程度のものだ。そこから本当に仲良くなれるかはマキナ次第だ」

 「それなら、良いの、かな?最初にいらないみたいな態度をとってすみませんが、そのチート欲しいです。お願いします」


 うんうん。素直で良い子だな。とてもデスゲームやバトロワがやりてーと言っていた女の子とは思えねーや。




 「行ってしまいましたね」

 「行っちゃったな」


 マキナの転生はスムーズに終わった。記憶のリセットについてもあまり抵抗がなかったようで、トントン拍子に進んだのだ。


 「マキナは大丈夫でしょうか。異世界でもやっていけるでしょうか」

 「あの世界なら大丈夫だろう。チートも活躍するだろうし。それでリリーちゃん、少し気になったんだけど」

 「はい?」

 「マキナに対してなんか優しかったね。いつもはゴミクズでも見るような目しかしないじゃん」


 俺は知ってんだからな!表ではふつーにしているけど、影ながらこいつらマジないわーって目で見てるの!まぁ、本当にそういう奴らが多いから仕方ないんだけどさ。


 「神様がどういう風に私を見ているのか問い詰めたいですが。そうですね………。マキナは私の妹に似ているのです」

 「妹さんに?」

 「人付き合いが苦手な所。自分で何でも抱え込んでしまうような所。そういう所が似ていました。あの子は最後まで誰にも打ち明けませんでしたけど、そういう意味ではマキナとは違うのかもしれません」


 神が最初から神でない者がいるように、天使もそれは同じだ。恐らく何処かの世界で生きていた頃の話だろう。


 「そっか。リリーちゃんは妹さんが好きだったんだね」


 話をしている時のリリーはとても優しい顔をしていた。


 「………そうですね。私は妹を愛していました。………だから」


 最後の言葉だけはよく聞こえなかった。それ以上、話が続く事はなくて終わってしまったが。リリーにもリリーの事情があるのだろう。

 無論、それは俺にもある。いつか果たしたい目的があるから俺はこうして神をやっているのだ。




 余談だが、マキナのその後の話をしよう。

 マキナが転生した世界で彼女はなんと一国の主となった。その国は獣人の国であり、何でも守り神である神獣に気に入られて加護を貰ったそうで、獣人国が出来て以来、初めての人間の王になったそうだ。

 獣人の皆からもモテモテで毎日わっしょいわっしょいされているらしい。マキナが困っている様子が目に浮かぶな。だけど彼女はそんな皆に囲まれて笑っていたそうだ。もう私が心配する事もなさそうですね、とリリーが微笑んでいた。


 さて、もう一つだけ余談がある。こちらはなんというか、くだらないというか、案の定というか。実はその世界は俺がケモナーの奴を転生させた世界でもあって、奴は血涙を流しながらマキナを羨んでいるらしい。やっぱ上手くいってなかったんだな………。完全なる変態として獣人国では指名手配されていて、女王であるマキナの悩みの種になっているとか。なんというか、すまん、マキナ………。

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