第8話 バスの事故で三十人ぐらい転生者が来て、デスゲームやバトロワは始まらないの?って言ってた子が王になった話 その2

 「………というわけなんです。だから私はあの二人をぶち転がしたいんです」


 君はリリーの親戚か何か?それともその言葉流行ってんの?こわっ。

 まぁそれはさておき、マキナの話を聞くと、確かにあの二人を恨む気持ちはわかった。少し内容を整理したかったのでマキナに断ってから、リリーと話をすることにした。他の人の意見も聞きたいしな。




 「幼い頃に両親を事故で亡くした、ですか。ドラマとしてはありふれた設定ですが、現実に起こるとつらいものですね」


 リリーはマキナに同情的だ。まぁ変な子ではあるけど、そんな境遇を聞かされては俺も同じ気持ちになってしまう。


 「両親が亡くなった後は親戚の家をたらいまわしにされていたみたいだ」

 「小さな子供を邪魔者扱い、ですか。虫唾がはしりますね」


 マキナの人間不信はその頃から始まったようだ。多感な子供時代にそんな事をされれば、人を信じられなくなっても仕方がない。


 「神様、泣いているのですか」


 想像したらちょっとうるっときただけだ。気にすんな。


 「学校に通い始めても親しい友達は出来ず、飼育小屋にいたウサギやニワトリたちが友達だった、と」

 「いいんじゃないですか?人間なんてクズが多いですよ。独りでいても問題はないでしょう」


 うーん。その過激発言はともかくとして、そうなりたくて独りでいるのなら、無理に友達を作る必要はないな。


 「そんな彼女の静かで平和だった生活が高校に上がって崩れ去ってしまった」


 タイキが何故かマキナの事を気に入って、ちょっかいを掛けてきたそうだ。曰く、寂しそうだったとか。マキナにしては大きなお世話だっただろう。それにリサの存在もそこにいた。

 初めはリサもマキナに小言を言うぐらいだったそうだが、いつからがそれがエスカレートしてしまった。


 「マキナがリサに素っ気ない態度をしたのも問題でしたが、嘘の噂を流したリサも相当ですね」


 ある事ない事を周囲に吹き込んでいたようで、元々孤立気味だったマキナは本格的に独りぼっちになってしまった。おまけに変な輩にも絡まれるようになるわ、タイキが更に接近してきて、俺だけはお前の味方だからな、とか言ってきたらしい。おまいう。


 「撃ちますか」


 弦をぎりぎりいわせて発射直前にするのやめて!?


 「どうどう。落ち着いて、落ち着いて」

 「失礼な。私は馬ですか。後、以前に同じ言葉を繰り返さないでと私、言いましたよね?」


 それまだ続いてたの!?ただの冗談じゃなかった事に俺はびっくりだよ。


 「あのー。お話し中、すみません。少しよろしいでしょうか」


 ん?ああ。引率の先生か。どしたん?


 「生徒たちに事情をなんとか説明して、納得させてきました。まだ混乱している生徒もいて、その、一部の生徒が何か変な事を言っていますが、気にしないで頂けると………」


 あぁ。大丈夫大丈夫。そういう手合いには慣れているから。


 「先生さん。少し言い忘れていた事がある。君たちには三つの選択肢があるんだ」

 「選択とは一体………?」


 一つは異世界への転生。もう一つは地球への転生。この二つはいつも通りだな。


 「三つ目は転生した全ての者にチートが付く。記憶も引き継ぐ事が出来る」


 聞いた瞬間に興奮してわーわーと騒ぎ始める学生たちよ。甘い話には罠があるものなのだ。


 「ただし、転生する者は二十名以上、同じ世界に転生しなければならない」


 これは異世界の管理者からの要望だった。そんな数の転生者を必要とするなんて、怪しさしかない。


 「俺は前者の二つをオススメするよ」


 神のルールで紹介する事自体は止められないので、せめて忠告ぐらいはと思ったのだが、こいつら聞いちゃいねぇ。目先の飴に釣られてやがる。


 「皆、落ち着いて!すぐに決めるのではなく、ちゃんと話し合おう」


 先生がどうにか収拾をつけようとしているが、興奮した生徒たちの耳には届いていない。うーん、これ以上口を挟むのもな。過干渉になってしまう。悪いが、後の判断は自分たちでやってもらうしかない。


 「八対二という所ですか。意外と多いですね」


 集団転生に八、その他が二って所か。つまり二十名以上があの怪しい誘いに乗ってしまったわけだが………。あの二人、確信犯か?


 「タイキとリサが先頭になって誘導しているな。うーむ。流されるままだとえらい事になるぞ」


 あの二人、どこまで考えているのやら。裏の意図が読める奴らには見えないんだよな。釣られてついていく生徒たちはご愁傷様だ。


 「マキナはあちら側についていかないのですね」

 「まぁ当然だろうな」


 いじめられた原因と主犯がいるのだから。っと。


 「マキナ。どうして俺たちと一緒に行かないんだ?」

 「ほっときなよタイキ。こいつ、独りでいるのが好きなんでしょ。皆がいる所に誘うのは悪いって」


 にやにやしちゃってまぁ態度の悪い事。いやーな顔をしていて辟易しているマキナだが、さてどうするのか。


 「マキナ。お前が他人を嫌うのはわかる。だが俺を信じてついてきてくれないか」


 全然わかってないやつきたー。マキナもすごい顔してるじゃんか。リリーは攻撃しようとするのやめようね。


 「ちょ、ちょっとタイキ………。止めなってば。無理強いは良くないよ」

 「いいや、止めない。だって俺は………マキナの事が好きなんだ。だから俺と一緒に来てくれ」


 この流れで告白か。その度胸だけはすごいな。


 「死んでもお断りです。もう死んでますけど」


 コラー!両手の中指を立てるんじゃありません!唾も吐き捨てるな!


 「えっ」

 「えっ、じゃありませんが。私のいじめの原因になった人を好きになるはずがないでしょう」

 「いじめの原因?」

 「それはそこの人がよく知っていると思いますが?」

 「ちょっとアンタ!何を言って………」

 「私は黙りませんよ。死んでからも大人しいと思わないでください」

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