第3話 ブラック企業に勤めていた男を慰めていたら何故か崇め奉られ他の世界の神に怒られた話
「………」
ずーっとぼーっとしてるけど、え、やば。こいつ顔色悪すぎん?いや、それは死人だからだろってそれは違うんだなぁ。ここでは死ぬ直近の元気だった頃の姿が投影されるんだ。ってことは、こいつが元気あった時ってこんな感じなの?目元にクマさんが踊りまくってるけど。
「あ、え、仕事ですか?」
「あ、ん?仕事じゃないけど」
「えっ」
「えっ」
目を丸くしたらすごい骸骨なんだけど。えぇ。これが元気な頃の姿ってマジなの?めっちゃ可哀そう。ここに来た原因も過労だからなぁ………。
「あの、指示とか、ないんですか。僕、すごく頑張るので給料減らさないでください、怒らないでください。お願いします、お願いします」
オイコラァ!現世の上司ィ!どんだけこいついじめてんだ!許せねぇよ。俺のなけなしの正義感が火を噴きそうになってんぜ!
「俺は君の上司じゃないよ。神だよ」
「あっあっ。そ、そうですよね。上司は神様ですよね。絶対逆らわないのでゴミクズ扱いはやめてください」
俺の話、頼むから聞いて?相当精神にきてんな。うーむ。こういう時には………。
「ほれ。これ食べてみな。最近ちょっと奮発して天界ストアで買ってきた地獄の様に美味いって謳い文句のカステラ」
今思ったけど、この地獄の様に美味いって考えた奴、地獄からのスパイじゃね?まぁ実際食ってみて美味かったから別にいいんだけどさ。
「え?じ、地獄………ですか?」
「いやいやいや。ただのキャッチコピーだから。毒物とかじゃないから。騙されたと思って食ってみ」
「は、はい。すみません疑ってないですすみません。死んでも食べますすみません」
もう死んでるけどな、ってこいつに言ったらマジでもっかい死にそうだからやめとこう。
「あ、おいしい………」
「だろ?たまには贅沢をと思って買ったんだが、いやー当たりだったね。この前買った地獄パイは本当に地獄のような味だったけど………ってまた地獄かよ!天界ストア地獄に浸食されすぎだろっ」
セルフ突っ込みを入れて場を和ませようとしたんだが、何故か滝の様に涙流し始めたんだけど!?えっ。ごめん。そんなに俺の冗談つまらなかった!?
「お、おい。大丈夫か?」
「ずびばぜん゛………本当に久しぶりにおいしい物を食べたので。それにこんなに優しくされた事も………うっうっうっ」
あー。わかった。わかったから。今は思いっきり泣きな?今までひどい事ばっかりだったんだな。
ここには俺とお前だけだし、ちょうどいい具合に他の転生者もしばらく来そうにないから時間もたっぷりだ。何か話でも聞こうか?ん?仕事ばかりだったから楽しい話もないし思い出したくない、と。成程な………。
それじゃあ俺の小粋な転生者トークでも聞かせてやるよ。俺の所に来る奴らは頭がぶっとんでる奴多いからな。聞いてるだけでも面白いだろうよ。これは今から数百年前の武士の話なんだが………。
「神様、マジで神様!すごいです!尊敬します!今更ですがうちの上司がゴミでクズでピー(自主規制)でピーピーピー(自主規制)だったのに気づきました!理想の上司ですね神様は!最高!!フーーーーー!!!」
うーーーーーーーん????どうしてこうなった?あの地獄カステラ、何か入ってた?俺には効かないけど、人間にやったらダメなやつだった?面白おかしく転生者トークをかましていたら、何故かこうなってしまったんだが。まぁ褒められて悪い気はしないけど。
「はっはっはっ。君、良い目をしているね?そうさ、俺は神としてはそれほど位は高くないけど、その分、志が素晴らしいのさ!」
強さはそうでもないけど心の強さがある勇者的な?心身共に強い主人公も良いけれど、心根だけは誰にも負けない主人公というのも良いものだ。俺みたいなね!!!
「マジパネーっす!パネトーネっす!マジで僕、神様リスペクトしちゃいます!!!」
はっはっはっ。こやつめ。所で、パネトーネってのはイタリアの伝統的なドライフルーツが入った発酵菓子パンの事だ。無駄な知識が増えて良かったね。
「ふふふ。よせよせ。そこまで褒めても何も出せんぞ?俺が出来るのは君の転生先を決めるぐらい………って、お??」
上機嫌でこいつの事を神パワーで調べていたら徳が溜まりまくっていて、ちょっとしたチートか記憶を完全にではないが引き継げる程の徳が溜まっていた。え、すげぇ。久しぶりに現れた特典付きの転生者じゃんか。
「おい!すげぇぞ!君はチートが使える!良かったな!」
このぐらいのチートなら特に世界に影響を及ぼさないだろうし、世界を選り好みする必要もない。不健康そうなこいつの事だから、無病息災っていう、けして病気にならず健康体でいる事が出来るチートが良いかもな!なんだか自分の事のように嬉しくなってきたぞ!
「え?チート?何ですかそれは」
「ええっとな。簡単に言うと次の人生では一生病気にかからない健康な体になれるって事だ」
このチートは低コストで手に入るチートとしてはかなり破格だ。一見地味だから選ぶ奴が少なくて、低コストになった可哀そうなチートではあるが。ド派手なチートの方が好きだからな、大抵の奴は。
「健康な………体?それはおいしいのですか?」
「君にとって健康がいかに縁遠いものかわかるからやめて」
心がいてーわ。
「健康………??健康って何だよ!デスクに張り付いて仕事していれば健康だぁ!?出社してれば健康だぁ!?とにかく仕事していればいいだぁ!?!?うぉぉぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」
アカン。なんかトラウマスイッチ押しちゃった。どうどう。
「はぁはぁはぁ。す、すみません。神様の御前で取り乱して」
「そこは気にしなくていいから、まず深呼吸してみようか」
「すぅーーー………。はぁーーー…………。すぅーーー………。はぁーーー………」
「どう?落ち着いた?」
「ありがとうございます。なんとか落ち着きました。深呼吸させてくれるなんて、さすが神様」
さすがのハードル低くね?深呼吸ぐらいいつでもしな?
「それでそのチートなんですが………」
「ああ。この一生健康チートか、一部記憶を引き継いでの転生かの二択になるんだけど」
「健康の方でお願いします」
決断早いな。それだけ健康の方が大事ということなんだろうけど。
「記憶は完全になくなるけどいいか?」
「自分がいなくなるのは怖いですけど、辛い事も一杯あったので………」
むしろ、忘れさせてくれてありがとうございます、だと?おいやめろ。これ以上、俺の涙腺を刺激したらどうなるかわからんぞ。
「うっうっうっ。ぐすっ。そ、そうか。じゃあチートやるからな。ずっと健康でいられるからな」
「僕の為に泣いてもくれるだなんて、うっうっうっ」
おいおい。男二人が泣いている場面だなんて誰得だよ。だからまず君から泣き止め。そしたら俺も止めるからさ。え。なんで更に激しくなるんだよ。やめろって。俺も感化されるだおーいおいおいおい(男泣き)。
誰得シーン終了。お互い鼻チーンして、赤っ鼻になってるけどそこはご愛敬。はぁーなんかスッキリしたわ。
「神様。一つだけお願いがあるのですが」
お、なんだよ。今の俺は何でも叶えちゃう心境になってるけど、あくまで俺が出来そうな事な?
「僕の信仰心は残しておけないでしょうか」
これまた意外なお願いだ。信仰心?それまたどうして。
「記憶は無くなっても良いのですが、僕の中に芽生えた神様に対するこの心だけは無くしちゃいけないと思ったのです」
その神様って俺の事か?別にそこまで気にしなくていいぞ。
「神様にとって僕は大勢の内の一人でしょうが、僕にとって貴方は唯一の神となったのです」
お、おぉ。うん。なんか目が怖いんですけど。
「この心は無くせない。そしてこの素晴らしさを広めなければ。貴方はこんな場末にいて良い神様ではない」
場末って言うなし。そりゃあ白い背景しかない手抜きの世界になってるけどさ。
「うーむ。まぁ出来ない事もないけど。信仰心だけだったら世界に対する影響もそこまでじゃないしな」
「是非、お願いします」
顔近い顔近い。めっちゃ瞳孔が開いとる。顔色の悪さもあって、ホラー映画のゾンビみたいになっとる。
「わかった、わかった。じゃあ生涯を健康な体で過ごせる無病息災とその信仰心があるように転生させよう。それで肝心の転生先だけど希望はあるか?」
記憶がなくなるとはいえ、地球は嫌だよな。じゃあ異世界か。
「そうですね。なるべく文明が発達していない世界でお願いします」
「ん?そうなるとかなり不便な生活を送る事になるぞ」
記憶持ちなら知識チートしたいから、って理由でわかるんだけど、なんでだろ。現代人に耐えられるか?
「あの会社以上に過酷な環境はないでしょうから大丈夫です」
悲しいけど、納得しちゃったじゃん。
「じゃあ転生させるぞ。あっちでは元気でやるんだぞ。無理はするなよ。辛い事があったら逃げていいからな。飯はちゃんと食えよ。それから………」
「なんだか僕のお母さんみたいですね」
くすって笑うんじゃねぇよ。なんかめちゃくちゃ恥ずかしくなってきたやんけ。
「それでは神様、行ってきます」
「おう、元気でな」
思わず心配して色々と言っちまったけど、もういいか。記憶はなくなるとはいえ、最後は清々しい顔になってたしな。もう大丈夫だろう。それじゃあまたな!
それから数十年先の事、転生させた世界の神からクレームが入った。何やら一大宗教が立ち上がったようで、それに崇め奉られているのがどうやら俺らしい。………いやいやいや。本当に記憶に関する事は信仰心しか残してなかったのに、どうやったんだ!?
え?これは侵略かだって?違うっての。えぐいて。え?今度、直々に抗議しに行くから待ってろ?お茶菓子は地獄パイで頼む?お前アレ好きなの!?ってか、もうそれ遊びに来る感覚だよね!?
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