第4話
おおそれたことほど上手くいかないことはない。
幾ら綿密に計画を立てたところで失敗するときは失敗するし、成功するならそうなる。
いずれにしろ重要なのは退き際を弁えることだ。
退き際を見誤ってその失敗をズルズルと引き摺ることが一番の悪徳だ。
失敗したくないのなら、最初から何もしなければ良いが、成功したいのなら損切りの徹底こそが肝だ。
盗みにおいては時として逃げおおせるために折角盗み出した金品を置き去りにすることだってざらにある。
命がけの逃走で金品に横着すればたちまち命を失う羽目になるからだ。
できないやつは死んでいったし、生き残っても廃業した。
それに、時として盗みを犯した罪は人殺しの罪やり重かったりする。正確には、ある盗みを犯そうとした者だが。
王国法の中には次のような一文がある。
王家の墓に侵入せし者はいかなる場合においても最高刑に処せねばならない。
普通、人を殺しさえしなければ捕まったとして死罪となることはない。
無論盗みの過程で死ぬこともありえない話ではないが。
殺人や強姦など、死罪となる犯罪も少なからず存在しているが、それはそれとして、死罪は最高刑にはあたらない。
王国法にて規定される最高刑とは、終身拷問刑だ。
寿命で力尽きるその瞬間まで死よりも辛い拷問を受け、自死することさえも許されないという文字通りの地獄を味わうことになると言われている。
それを受けた人物として俺が知るのは、かつての英雄、いまでは"反逆者"として名を知られる"グリムリード=エレ=フランツノイシュ"や、稀代の天才発明家"アリエル=ミナス=レヴナント"の二名だ。
グリムリードが未だ生きているのかはわからないが、少なくともアリエルの方は最高刑に処されてから3年という歳月しか経っていない。
彼女は当時成人すらしていない少女だったが、王家の墓に興味本位で侵入したことで最高刑を言い渡されることとなった。
その際、王家に彼女の減刑の嘆願書が数え切れぬほど届いたというが、しかしながら、それが聞き届けられることはなかった。
先が長く有望な人物でさえ王家の墓に侵入すれば容赦なく最高刑に処される。
その事実は王国中を震撼させ、しかしながら揺らぐことのない王家の権力に誰もが恐れ慄いた。
最高刑を受けた人物は数多くいるが、中でもその二人は将来の王国を担えるほどの重要人物であったのにも関わらず、最高刑を言い渡されている。
そして、この事実は民草にある噂を表示させた。
"王家の墓には莫大な財宝が眠っている。"
あの"英雄"に罪状が言い渡されたその時からそれは密かに囁かれ続けた噂だが、アリエルにまで手が及んだことで噂の信憑性はますます高まった。
それによって、かつては盗賊だけが王家の墓を狙っていたのに、今では盗賊ですらない者たちが王家の墓を掘り起こそうと企てるようになった。
成功したという話は一切聞かないから、彼らは死んだか最高刑を言い渡されたということだろう。
本当に碌でもない話だ。
俺は王家の宝は盗んでも、王家の墓にだけは関わりたくないと思う。
たとえ本当にお宝が眠っているのだとしても。
だから、今俺は目の前のこいつが言ったことが理解できなかった。
「は?お前、今なんて言った?」
「王家の墓を狙おう。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます