第5話

「王家の墓を狙おう、僕はそう言った。」


何を言っているのだこいつは。


絶句して口が塞がらなかった。


呆れて物が言えないとか、そういう次元じゃない。


「…レガリアは狙わないんじゃなかったのか?」


「気が変わったのさ。」


盗賊なんかやってるやつは2つに1つだ。


馬鹿か狂人のどちらか。


俺は馬鹿でこいつは狂人だったというわけだ。


「それなら俺は降りる。王家の城を狙うって話だったよな?」


「駄目だ。君には必ず来てもらう必要がある。」


「はぁ?お前にそんな指図を受ける筋合いなんかねえよ。」


「来ないなら君のこれまでの犯罪歴を王都務めの警官に洗いざらい話してもいいんだぞ?」


「殺されたいのか?お前」


あまりの唐突さと勝手な振る舞いに自然と声が低くなった。懐にしまってある短刀をいつでも抜けるように身構えた。


「おっと、僕を殺そうとしたって無駄さ。死んだら代わりのやつがすべてバラす。僕が知る限りの君が犯した罪を推計するに、20年の懲役刑は確実だろうね。」


「チッ‥」


俺は舌打ちをして、おどける奴の顔を睨めつけた。


確かに目の前のこいつに比べれば俺は腕が立つ方だろう。


しかし、こいつよりも強いというだけで、一軍を相手取ることが出切るような英雄じみた真似はできない。


そんな俺に来て貰う必要があると言われて不審に思わないはずがない。




「目的はなんだ?俺が墓場に行ってどうなる。」


「目的?そんなの君が一番わかっているだろうに。」


そう言ってカイルは不敵に笑った。


「2年前、いや3年前だったかな?王家の墓に2人の侵入者が立ち入った。恰幅の良い男と、若い女の二人組だ。」


「……!!」


背筋を戦慄が走った。それはあまりにも聞き覚えのある話だったからだ。


「一人は捕まり、もう一人はからくも逃げおおせた。王家にとっては前代未聞の失態。侵入者としては史上初の快挙だ。逃走後も侵入者の捜索は続けられたが、誰も彼の痕跡を見つけ出すことはできなかった。ここまでは王都で暮らす誰もが知ってることだ。」


そこまで言うと、カイルは目を細めてため息を付いた。


「ただこの事件には謎が多くてね、残念ながら全貌を掴むことができなかった。でも、君は違うんだろ?エドモン・アルセン。それとも、ソラリス・ミナス・レブナント君だったかな?」


俺は何も答えずに舌打ちした。つまるところこの男は全貌をつかめなかったと言っておきながら、あらかたのことは知っているということだろう。


「…生憎だが、俺は何も知らない。」


「ここまで言ったのにまだ惚けるつもりかい?」


「惚けたつもりはない。俺は知らないんだ。覚えてないわけじゃない。知らないことになった。知らないことにされた。お前、レガリアが欲しいんだろう?やめておけよ。あれはお前ごときに扱えるような代物じゃないさ。」


「へぇ…。なおさら興味が湧いたよ。なら、」


「勘違いしているようだから、一つだけ忠告してやる。」


カイルの言葉を遮って言った。


「王家の墓にレガリアなんて眠ってねえよ。」


「まるで見てきたような口ぶりだ。」


「見てねえし、聞いてもねえ。事実として知ってるだけだ。」


霞がかって思い出すことも叶わない記憶を忌々しく思いながら俺は言った。


「あそこは墓自体がレガリアだ。そもそも奪えるようなものじゃねえんだよ。そんな事も知らないくせに、お前のくだらない野望に俺を巻き込むな。」


俺は部屋を照らしていた蝋燭の火にフッと息を吹きかけると、静かにその場をあとにした。




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