第3話

後ろ暗いことをしてるような人間が集まる場所というのは古今東西どこを歩けども変わらない。


普通の感覚で言えば、薄暗い路地を何度も曲がりながら進んだ先にある薄汚れた酒場といったところだろうが、実際はそんなところにいるのはおおよそ悪党にすらなれなかった単なる落伍者だ。


あそこは街に住めども行き場をなくした孤独な人間が同類同士で酒をちびちびと啜りながら傷を舐め合う場所だ。俺やカイルも、他の奴らだって、そんなところには近づこうとすらしない。


悪党ってのは案外堂々としているものだ。

暗い場所より明るい場所へ、だ。


人気ひとけのない場所よりは人混みを。


紛れ込む場所の一つすらないような場所には近づかない。


トカゲが風景に馴染むかのように擬態する。


人混み以外でそんなトカゲもどきが集まるのは大金の動く場所以外に存在しない。


例えばオークション会場なんかはその最たるものだろう。そこで取引されるものが正規品であろうとなかろうと、悪党は金の匂いのする場所へ自然と集まってしまう習性があるのだ。


かく言う俺も午前中はオークション会場で競売風景を眺めていた。


今はその帰りで、たまたま会場で出くわしたカイルと歩きながら世間話に興じていた、





「なあ、知ってるか

次の選王祭は派手なパレードが開かれるらしいぜ。ったく、庶民の懐事情は厳しいってのに…。」


「ああ、その話か。別に良いじゃないか。祭となれば美味いものもたくさん食べれるし、人が集まるから儲け放題だ。商売人としては寧ろ喜ばしいことだよ。」


「それだけ忙しくなるってことじゃねえか。大商いよりは薄商いだ。俺はほそぼそとした商売で満足してるよ。」


「ははは、はそうかもね」


笑いながらカイルは王城のある方角を指した


「でも、僕たちはまだそこまで忙しくもないけど、見てみなよ。王城なんかほら、警備の関係なのか衛兵達がいつになく忙しそうだ。」


「たしかになぁ。えらく張り切ってるように見える。来賓でも来るんだろうか?」


「うーん、噂だと王権貴宝レガリアのお披露目があるとかないとか。」


王権貴宝レガリア、ねぇ…。王家の墓に眠る宝だとかなんとか、そんな話を寝物語に聞いた覚えがあるが、そんなものが本当に存在するのかねぇ。」


「さぁね。実在するなら是非とも拝んでみたいものさ。」


「だよなぁ!」


ははははっ、と俺達は互いに笑いあった。


他愛のない会話ではあるが、しかし俺たちは言葉にせずとも次の標的を決めていた。


もちろん王権貴宝レガリアではない。


噂になるほど注目されているものを態々盗もうとはしない。


王権貴宝レガリアに注意が集まっている隙を狙って王城にある宝をくすねるのだ。


きっと王権貴宝レガリアとまではいかなくとも、王家の宝物庫となれば相当な名品が眠っていることだろう。


カイルが何を狙っているのかまでは知らないが、これまでで一番の獲物に俺は胸のざわつきを抑えきれそうになかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る