第2話
カイルと俺は所謂同業者というやつで、お互いの利害によって組んだりしている。
俺とは違って裏ルートの物品を捌くような悪徳古物商にも顔が利き、盗んだ物を換金するのが俺の知る誰よりも上手い。
普通なら足がついて捕まるだろうという品でさえカイルの手にかかれば安全な資金に様変わりだ。
信用はしていないが信頼はしている。
それが俺とカイルの関係を最も端的に言い表したものだろう。
盗賊ともなれば話は別だが、盗人というのは基本的に個人か少人数で盗みを働くことが多い。
いつ捕らえられるか分からない人間同士、どうしても信用できないからだろう。捕まったやつに自分の情報を売られることだってあるのだ。
とはいっても、同業者と思しき人物を見つけることなど滅多にないが。
俺は金のためというよりは享楽で盗人をやっているから、なんでも金に変えようとするカイルと組む理由はあまり見当たらないが、流石に歴史のある美術品を海底に沈めるというのは自らの美学に大いに反した行いだったため、ほとんどなし崩しで彼と組んでいた。
それに、訳アリの金など使っても楽しくないのだ。
賭博で盛大に使ってやることくらいしか使い道など思い浮かばないものである。
というわけで、俺は手に入れた金を盛大に使い果たしたが、ありがたいことにこんな後ろ暗い真似している俺でも親切にしてくれる人はいるようで、今日もいつもと同じように宿屋の主人が空き部屋をタダ同然で提供してくれた。
主人曰く、苦労している奴は目を見れば分かるらしい。この街にいる間は面倒を見てやると気前良く言われた。
そんな理由で俺はこの宿屋に世話になっている。
この街に来るまでは野宿など慣れっこだったが、人は外で硬い地面に横たわるよりも多少固くとも清潔に保たれたベッドの上で寝転がる方が安心感を得られるらしい。
俺はベッドの上に横たわり、そのまま目を閉じる。
うつらうつらとしながらこのまま盗みを続けるべきかという漠然とした考えが生まれた。
半分眠っているような状態で答えなどでなかったが、俺が今の現状に物足りなさを感じているのは確かだった。
盗人を続けることに依存はないが、しかし、いずれこのままでは旧貴族の屋敷から金品を奪ったところで満足感を得ることはなくなるだろうという予感があった。
失敗すれば監獄送りか死刑だ。
欲張れば欲張るほど死に近づいていく。しかし、止められるものではない。
乾ききってひび割れた心に潤いを与えるには破滅と隣り合わせの刺激的な日常でなければ駄目なんだ。
強い飢餓感を覚えながら俺は眠りに落ちた。
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