第23話 耽溺
今回の合宿に参加している映研の女性会員は、美帆と麻友しかいない。残り10人強はみんな男性だ。彼らは、撮影用の荷物を片付けながら、明日の撮影の準備も始めている。女性陣二人は食事の支度までゆっくり休憩しているようにと言われた。
ゆっくり休憩
なんかしない!
美帆も麻友も女性用に借りた小屋でさささっと水着に着替えて海に直行していた。
美帆は、可愛い感じのスカートの付いたオフショルダーのワンピースで、麻友はビキニだった。でも、麻友は大きめの白いTシャツを上から着てしまったので、残念ながらビキニは見えない。チラッと美帆が麻友を見てくれたので、麻友の薄い体と細い手足が見えた。胸は美帆の方が大きいね。
岩場なので、二人ともサンダルを履いたまま海に入っていく。滑る、思ったより冷たい、えー水が綺麗、お魚いた、きゃー……
ああ、むちゃくちゃ楽しそうで、羨ましい。わたしも二人に混ざって一緒に遊びたいよ。島の海は本当に水が綺麗でびっくりした。柊ちゃんと二人で、いつか沖縄に行こうって言ってたけど、沖縄まで行かなくても、綺麗な海はありそうだ。
麻友がすいーっと沖の方の岩に向かって泳いでいく。
きれいなクロールだった。
余りに軽々と泳いでいくので、自分もそれくらい簡単に泳げるような気がした。それは、美帆も同じだったようで、平泳技で麻友を追い始めた。
しかし、波のある海は思ったより泳ぎにくくて、泳ぐの難しいなとわたしが思った時には、美帆の足が海底に着かないところまで泳いでいた。足が着かない深さだということに胸がギュッとしまるように美帆が驚いた。
そのまま、美帆はズブっと海に沈んだ。
わたしも相当に焦ったけれど、美帆の驚きと焦りはそんなものではなかっただろう。指が海水を掻くだけで、空気を触れない。視界は全て海中で、空がどちらなのか分からない。ガブっと海水が口の中に入り込む。
溺れてる!?
一瞬、意識が跳ぶかと思ったけれど、ぐいっと美帆の体が引っ張られて、意識が戻った。
「美帆!」
麻友の声がして、美帆の顔が海の上に出たことが分かる。今度は、海水じゃなくて空気が口の中に入ってきた。
「大丈夫、体の力抜いて、すぐに足が着くから。大丈夫だから、私がいるから」
麻友の「私がいるから」の力強い声に、溺れたという不安が流される。
そんなに沖に出ていたわけではないので、すぐに美帆の足は岩を踏んだ。足が着いたことに、美帆の体から緊張感や恐怖感が一気に抜けて緩んだのが伝わってきた。
「……ゆ、ま…麻友」
美帆が細い声で麻友を呼ぶ。麻友の腕は美帆の首に掛けられていて、美帆はその腕をしっかりと掴む。そうすると、美帆の足がふわっと浮き上がった。
「うん、上手。そのまま浮いていて。岸まで行くよ」
「……うん」
岸に着く前には、美帆はすっかり落ち着いて、深さがお腹の高さくらいになると、自分で歩き出した
「……溺れちゃった。海水飲んだよぉ」
「もう大丈夫。良かった」
麻友は麻友の腰に腕を回し直す。麻友の指が美帆の脇腹に食い込んで、その感覚を美帆が察知して、少しだけ体を硬くする。
岸である岩場に二人で座り込んだ。
「ああ、驚いた。振り向いたら、美帆が消えてるんだもん」
「ごめん、海って怖いねぇ。簡単に溺れちゃうんだもん」
「明日は、浮き輪に縛り付けるからね」
「あはは、縛り付けなくても、もう浮き輪なしで海に入らな」
美帆の目が、濡れたTシャツを脱いだ麻友に釘付けになった。
麻友の細い白い薄い体。
鎖骨の下に薄く浮き出た肋骨の線。
小さく柔らかな胸の膨らみ
脇
腹筋
そして臍
下腹部へのライン
美帆が麻友の体に目を奪われていた。
「どうした?」
その視線に気付いた麻友が美帆を見た。Tシャツをぎゅっと麻友が絞るとぼたぼたっと海水が落ちる。
「……何これ、分からない」
麻友のTシャツから落ちる水滴を目で追いながら、美帆は、そう呟いた。美帆の胸の鼓動は、さっき溺れている時と同じくらい激しくなっている。
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