第3話 郵便
おばちゃんの喫茶店「
帰って来て我が家のドアを開ける。
郵便受けには、今朝の朝刊だけでなく、昨日の土曜日の夕刊が刺さったままだ。郵便受けの受け取り口がギチギチになってる。
「お母さん、新聞取り忘れてる」
新聞を取り出した後の郵便受けの底にも何かが入っていた。お母さん宛てのレターパックだ。
宛名以外に、DVD在中と書いてある。
「DVD?」
差出人の男性の名前には見覚えも聞き覚えもない。学校関係の教材か何かだろうか。
「ぁああ、お帰りぃ、透子」
のんびりした声が2階から聞こえて来た。2階には寝室がある。きっとお母さんは寝起きだ。また持ち帰った仕事で半徹したんだろうな、この人は。
「おばちゃんがいい豆が入ったから店に来なって言ってたよ。それと、これ。なんか、郵便来てるよ。DVDだって」
「んんんー?」
お母さんがゆっくりゆっくり階段を降りて来るので、待ちきれなくって、わたしの方から階段を上がってレターパックを手渡した。
「ああー! ぽんすけからだ」
「……ぽんすけ? 」
「本間雄介、略してぽんすけ。大学のときの同級生だわぁ。懐かし」
そう言って母が目をそばめると、目尻の小皺が深くなった。
力づくでばりばりとパックを破る母を見ながら、年を取ったなと思う。そんな風に感じることが増えた。それが独立を言い出せない理由の一つだ。
レターパックをヘタクソに引き裂いたお母さんは、中から数枚のDVDを取り出した。あ、破けちゃった、と呟いてるところからすると、中に入っていた手紙も一緒に破いたんだろう。お母さんは粗忽者でもある。
「なんなの?そのDVD」
「透子も見る?」
「何だか分かんないんだから、見るも見ないも」
「んとねえ、大学生だった頃のお母さんとかが映ってると思う」
お母さんは、55歳。
大学生だったのは35年くらい前。四半世紀前。
……20歳のお母さん?
怖いもの見たさって言葉をわたしは思い出した。
「透子に言ったけぇ?私、大学のとき、映研、映画研究部だったのね。その頃の8ミリフィルムをDVDに焼いたからって当時の部員に配ってくれたみたい。お礼しないと」
「映研なんて初耳」
そうだったっけと言いながら、母はDVDをセットした。
「……そう言えば、言わなかったわ」
「だよね」
母一人子一人だ。色んな話を聞いた。大学時代の話も聞いたけれど、サークルの話は余りしなかったように思う。
「まあ、あれよ」
「何よ」
「透子のお父さんと出会ったのが、映研だったからねぇ」
ふふっと苦笑いが母の口からこぼれ出た。
透子のお父さん、すなわちわたしの父は、母の元夫だ。
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