第13話 彼氏のおうち①

「あのね、お願いごとのこと、覚えてる?」


 あたしは試験が終わるのを待って、弘樹くんにそう言った。本当は試験中からずっとずっと言いたかったのだけど、我慢していたんだ。

「覚えてるよ。何がいいの?」

「あたし、弘樹くんちに行きたいの!」

「僕んち? いいよ、別に。そんなことでいいの?」

「うん、それでね、あたし、弘樹くんの手料理が食べたいな!」

「うん、いいよ。いつがいいかな?」

「あのねあのね、今度の土曜日!」

「今度の土曜日? ――うち、誰もいないから別の日にしない?」

「弘樹くんはいるんでしょ?」

「うん、まあ。弟や妹の用事で、父さんと母さんが出かけるだけで、僕は出かける用はないよ」

「じゃあ、いいじゃない!」

「え? ――でもね?」

「弘樹くんちに行きたいな!」

「……う、うん。……いいよ」



 こんなふうにして、あたしは試験前、「彩香、嫌な思いさせてごめんね」って気遣ってくれた弘樹くんから、ご褒美(?)をゲットしたのである! わーい!


 当日、あたしはママと相談して決めた服と鞄と手土産とともに、弘樹くんちに行った。最寄り駅まで弘樹くんが迎えに来てくれた。ふふふ。

 弘樹くんちに入る。ああ、緊張する。初めての、男の子のおうち。靴はちゃんと揃えなくちゃ。ああ、どきどきする!


「あ、これ手土産です。おうちの方と食べてね」

「ありがとう。ごはん、簡単にパスタとサラダなんだ。ちょっとそこ、座っていて。すぐ用意するから」

 弘樹くんは紙袋を受け取ると、キッチンへ入って行った。

 あたしは促された場所に座る。

 弘樹くん、ここでいつもごはん食べたりしているんだね。あたしはそわそわと辺りを見回した。


「あ、何かお手伝いすること、ある?」

「じゃあね、フォークとスプーン、並べてくれる? あと、コップも」

「うん」

 あたしは弘樹くんから受け取り、丁寧に並べた。

 弘樹くんはすぐにお皿を持って来た。

「はい、どうぞ」

 アスパラとベーコンのホワイトソースのパスタとグリーンサラダ。

「わー、おいしそう! ホワイトソースのパスタ、おうちで食べたことないの!」

「え?」

「うちね、ママがお料理あんまり出来ないの。パパや妹は出来るけど、基本的にママが作っているから」


「へえ。……彩香、妹、いるんだ」

「うん! あのね、年がだいぶ離れているの。まだ小一なんだよ。織子っていうの。ママは一人っ子がふたりいるみたいって言ってた。弘樹くんは、弟と妹?」

「そう、中学生の弟と小学生の妹」

 なんて話しながらアスパラガスとベーコンのホワイトパスタのパスタとサラダを食べ終わり、洗い物をいっしょにした。なんだかとっても楽しいな。



「じゃ、映画でも見る?」

 片付けも終わったあと、弘樹くんはそう言って、テレビをつけた。

 あたしは弘樹くんとソファに並んで座って、邦画のコメディ映画を見た。並んで座るの、好き。

 映画を見て、笑ったりしていたら、脚がくっついたり肩がくっついたりした。

「ねえねえ、あれおもしろいね」

 って、弘樹くんの肩を叩いたら、その手を摑まれた。

「弘樹くん?」

 弘樹くんがあたしの顔をじっと見て、弘樹くんの顔が近づいてきた……

 と、思ったら、玄関ががちゃって開く音がして、「ただいまー!」っていう声が聞こえた。


 あ! おうちの人が帰って来たんだ! 

 あたしは立ち上がった。

 ちゃんと、挨拶しなきゃ!

 リビングにまず、弘樹くんのお母さんらしき人が現れ、それから弟と妹、そして最後にお父さんらしき人が現れた。

「あの、木崎彩香です! お邪魔しています!」

 ……うまく言えたかな? 緊張するー! 

「こんにちは。あなたが木崎さんね? ケーキ、買って来たのよ。食べる?」

 弘樹くんのお母さんはそう言い、「弘樹、ちょっと手伝ってくれる?」と言ってキッチンに行った。

 お土産のケーキを食べながら、弘樹くんのお父さんやお母さん、弟さんや妹さんとおしゃべりした。弘樹くんの家族は優しくて、なんだかとっても楽しかった。


 帰りは、弘樹くんに駅まで送ってもらった。

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