第12話 そのままでいいんだよ②

彩香あやか、お待たせ」

 こころの中の箱に鍵をかけたところで、弘樹ひろきくんが来た。

 弘樹くんの顔を見ると、ほっとする。

「弘樹くん!」

 あたしは帰り支度をして、弘樹くんと並んで帰る。


「ねえねえ、弘樹くん、この間のお弁当、おいしかった! ありがとう」

 あたしは、最初にお弁当を作ってもらって以来、ときどき弘樹くんにお弁当を作ってもらっていた。弘樹くんのお弁当はとってもおいしくて幸せだった。あたしは、お弁当を作ってくれたら、頑張ってお菓子を焼いてお返ししていた。おかげで、ほんの少しお菓子が焼けるようになった。……まあ、織子のおかげだけど。

「どういたしまして。僕も、お菓子、ありがとう」

 弘樹くんがにこっとして言う。あたしは嬉しさでいっぱいになる。

 弘樹くんと手を繋いで帰りたいな。

 あたしは勇気を出して、手を伸ばした。

 弘樹くんの手に触れそうになったそのとき、冷たい声が刺さって来た。


「彼氏にお弁当作らせるなんて、信じられない!」

 わー、痛い。今日は痛いことがいっぱい。

 見ると、さっき、図書室でわざと聞こえるように悪口を言って来た、高橋さんの友だちの女の子たちだ。あたしを睨んでくる。

「だって、あたし、お弁当作ってもらいたかったんだもん! 弘樹くんのお弁当、おいしいんだもん」

「恥ずかしくないの? 彼氏にお弁当作ってもらうなんて。弘樹くんだって勉強しなくちゃいけないのに」

 って言われちゃった。

 あーあ、どうしようかなあ、あたしお料理苦手だし。てゆうか、ママも苦手だけど。


 と思っていたら、弘樹くんがあたしの手をぎゅって握って、言った。

「恥ずかしくないよ。どうして恥ずかしいの? それに僕の勉強のことは心配してもらわなくても、大丈夫だから」

 高橋さんの友だちの女の子たちは、弘樹くんにまっすぐにそう言われて、何も言えなくなってしまっていた。……ちょっと泣きそうになっていて、少しかわいそうになった。高橋さんも弘樹くんが好きだけど、あの子たちも弘樹くんが好きなのかもしれない。


「彩香、帰ろう」

 弘樹くんは、あたしの手をぎゅって握ったまま、そう言って歩き出した。

「弘樹くん」

「彩香。全然、気にすることないよ。彩香は彩香のままでいればいいんだよ。そのままでいいんだ。……僕、賢くてかわいい彩香が大好きだよ」

 弘樹くん、耳が赤い。

「うん」


 どうしよう、弘樹くん。嬉しくて泣きそうだよ。

 あたしは繋いだ手のあたたかさを感じながら、弘樹くんの横顔を見ていた。とても  嬉しくて。うれしくて。


 あたしが嬉しさで泣きそうになっていると、弘樹くんは言った。

「彩香、嫌な思いさせてごめんね」

「ううん、いいの。あ、でも!」

「でも?」

「あたし、試験終わったら、お願いごとしたい」

「何?」

「それは今から考える!」

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