第6話 はじめてのこと②
そして、あたしは
土曜日、弘樹くんと、待ち合わせて映画をいっしょに観に行くことになったの! 初めて、学校の外で会うの!
わーい、嬉しい! 服はもう決まっているし、大丈夫!
駅で待ち合わせ。
あ、弘樹くん、もう来てる!
「弘樹くん!」
あたしは手を振って、弘樹くんにかけよった。
「彩香」
弘樹くんはとても自然にあたしの隣に並ぶ。そして、電車に乗り映画館が入っているショッピングモールへ向かう。電車の中で、弘樹くんは「チケット、ネットで買っておいたから。時間があるから、お茶する?」と言った。
……嬉しいけど、なんか慣れているなあ、やっぱり、と思ってしまった。
あたしは、全部初めてなのに。
好きな男の子とのお出かけ、初めて。だから、待ち合わせも初めて。映画をいっしょに観るのも初めて。お茶したり、とかも初めて。
でも、弘樹くんにとっては、初めてじゃないんだなあ。
……だめだだめだ! これは危険思想だから排除しなくちゃ!
ママに言われたことを思い出す。こころの中の箱に入れて鍵、鍵。
「……彩香?」
「あ! うん!」
あたしはとりあえず、にっこり笑う。笑顔よ、笑顔!
すると、弘樹くんもふって笑ってくれた。よかった。あ、そうだ。
「弘樹くんのお母さん、お料理、上手なんだね」
ずっと言いたかったことを言ってみる。
「え? ――あ、お弁当?」
「うん、そう! おいしそうだなって思って!」
「実は」と、弘樹くんはなぜか顔を真っ赤にして「自分で作っているんだ。……中学生の弟の分も」と言った。
「え?」ええええええ!
弘樹くんちはお父さんもお母さんも仕事が忙しくて、お弁当は自分で作っているんだって。ときどき、朝ごはんも、自分ときょうだい(弟と妹がいるんだって!)の分を作っているんだそう。
「ねえ、弘樹くん!」
あたしは弘樹くんのことをじっと見つめた。
「うん、何?」
「あのね、あたし、弘樹くんにお弁当、作って欲しいな!」
って、あたし、何言っちゃってんのー! く、口がー! 勝手に動いちゃった!
「いいよ」
弘樹くんはちょっと恥ずかしそうに言う。あ、でもちょっと嬉しそう?
「ねえねえ、女の子にお弁当作るのって初めて?」
「初めてだよ」
「よかった!」
あたしは嬉しくて、にっこりと笑う。はじめてのこと、嬉しいな。
弘樹くんの横顔を見ながら思う。
弘樹くんの「はじめてのこと」いっぱい欲しいな。
あたしの「はじめてのこと」もいっぱいあげる。
これからもっといっぱい、ふたりの「はじめてのこと」、増えるといいな!
大好き。
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