第3話 サンドウィッチの味
あれから2日ほど経った正午。
また祖母のお祈りを眺めていた。
僕はいつものカリカリのベーコンに缶詰の白桃を挟んだ特製サンドウィッチを食べながら無意識に貧乏ゆすりをしていた。それは苛立ちからくる、一般的なのものではなく、何らかのタイミングを測る、メトロノームのような類いの刻み方だった。
「やめなさい」
気がつくと目の前に立っていた祖母のシミ一つない右手が僕の右膝に触れた。
「どうかしたの?光ちゃん」
僕には沈黙を貫くことしかできなかった。
「……。」
「光ちゃん?」
「……。」
数日前のあの夢について話してはいけないような気がした。なんとも嫌な予感がするのだ。点と点が線になってしまいそうで、あの夢がパンドラの箱のようなものを開けるキーになってしまうのではないか、と。
では一体なぜ僕の口からすんなりと、なんでもないよというようなありきたりな返事が飛び出してこないのか。全身の血液を使った思考の巡らせは蜘蛛の巣に引っかかった蛾のように捕らえられ、もうどこへも逃げられないように半分ほど酸で溶け出しているような状態だった。
「さぁ…これからが本番だ…」
誰かの声が聞こえたような気がして、フッと祖母の顔に目をやった。
祖母は泣いていた。
僕はごくりと生唾を飲み、薄いピンク色でやけに艶のある唇から発せられる言葉を待った。
「柱の夢を見たんだね…?」
僕は少しばかり答えるのに時間を要した。
嗚呼、嘘でもついてやろうか。突拍子もない、これ以上詮索しないでと訴えかけてくるような嘘を。
「あーうん、柱が出てくる夢だ」
僕は諦めたように答えた。
「真っさらなのにとても目立つ柱で、まるで生きているみたいだった。それ以外のものはそれが"夢であることの確認"のためにあるようだった。」
やけに饒舌な自分に少し気持ち悪さを覚えた。
「光ちゃんは違うと思ったわ…」
祖母は変わらず泣いていた。
「光ちゃんは選ばれてしまったのかしら。あなたがこの世界を救ってくれるかもしれないのね」
「救う?」
僕は思わず聞き返す。
「あなたにはすべてを話すわ。この静華家のこと、そしてこの私のことも。」
祖母は涙を袖口で拭いながら、覚悟を決めた顔で僕を見つめ、逃れられない数奇な運命の行く末を僕に託すようにしっかりとした口調で話し始めた。
時刻は12時30分を回った。
竿竹屋の気合いのこもっていない声など
僕らの耳には一寸たりとも入ってはこなかった。
トーテムポール 遥生(はるき) @nanjo-haruki
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