第101話 たわわと傭兵
季節は冬。
そこかしこで未だ魔王軍襲撃の爪痕が残り、ほぼ瓦礫と化した町も多い。
そんな中、各地の神殿経由でラヴィと共に炊き出しをして回る日々。
木の根のように見える豚汁内の牛蒡であったが、空腹の平民は何も気にせずに食べた。
ありがたいと言って美味しく食べた。
* *
──話は少し遡る。
各地を巡る炊き出しから戻った前日の夕刻、公爵邸内にて。
メアリーが何かの包みを抱えて私の部屋に来た。
「奥様、アギレイから注文の品が納品されております」
私はテーブルの上で包みを開くべく、まずリボンを解き、外装の布を広げた。
中にあったのは、以前発注していたもの。
「出来ていたのね!
アラクネーの糸で作った伸縮する素材、そして華麗なレース付きのガーターストッキング!!」
早速自分で試着してみましょう!!
全身の映る鏡の前でロングスカートをたくし上げて確認してみる。
流石ディアーナは極上の美女だから似合う! セクシー衣装が!!
だけど、これを世間に売り出すには、着画モデルがいた方が良いと思った。
これは事業の為であるからと、変装をして、そそくさと花街のオッパラに向かった。
実は本番まではしたくないけど稼ぎたいって女性があそこにはいるはずだよねと。
オッパラの店の前でいつかの客引きの男が箒を持って掃除をしていた。
「あ! 旦那! お久しぶりです!!」
「おう、久しぶり! この辺はあまり魔物の被害が無かったようだな」
「ええ、全く神の御加護でもあったのか、不思議にこの店、無傷なんですよ。
まだ準備中ですが、旦那は特別ですんで、店内のお席にご案内します」
私は準備中のオッパラ店内に入った。
客引き男は私の為の飲み物を用意して、やおら相談に乗って欲しいと切り出した。
「そう言えば店で新しいイベントを考えているんだけど、旦那、何かいい案はないですかね?」
客を飽きさせないよう、何か新鮮な事をしたいのかな?
「ん〜〜、そうだなぁ、あ、野球拳……いや、ジャンケンをして負けた方が服を一枚ずつ脱いでいくってのはどうかな?」
「ま、負けた方が、一枚ずつ服を脱いでいく!?」
「そう」
「やはり、旦那はすけべに関して天才だな!」
「いや、最初に考えだしたのは俺じゃない。遠い異国の地では、もうやってる」
「凄い国があったもんだな」
そうだね。でもそもそも誰が始めたんだろう。私も知らない。
「ところで、こちらも相談があるんだが……」
「ん? なになに? 何でも言ってみてください」
「いやあ、旦那は毎度いいアイデアをくれて助かるよ」
「準備中にすまないけど、こちらの用件も聞いてくれるかな?」
「あ、はいはい、何でしたか?」
「まず現物とイメージ画を見てくれ」
私は腰につけた鞄から魔法陣の描かれた布を取り出し、そこからガーターストッキングと着画イメージラフを見せた。
「こ、コイツは……!?」
「セクシーだろう? アラクネーの糸を使った伸縮性のある華麗なレースで装飾された薄い靴下だよ。
従来のガーターストッキングよりも薄くても強度があるのが特徴だ。
知り合いの所の新商品、この繊細で美しいレースが大人気なんだが、今度新作レースを使ったやつを売り出すからさ、実際にとあるサロンで客の前で履いてみせてくれる人がいたら助かるんで探してる。
顔は仮面被って構わないし、髪の色を変える染料なんかも貸せるし、もちろん報酬ははずむ」
「あら〜、お兄さん、久しぶり! 私の事、覚えてる!?」
「あれ、アマーリエさん、こっちの店に移っていたんですね」
茶髪ロングヘアーのかわいい子だ。前は普通の娼館にいたはず。
今のコーデは白いビキニの水着のような姿の上に白いシャツを羽織ったような姿だった。
たわわは存分に見えている。
巨乳をアピールして客に選んで貰う為だろう。
「覚えてくれてて嬉しい。そうなの、私、胸大きいし、こっち向いてるって言われてぇ〜〜」
そう言いながらアマーリエさんは私の膝に乗って来た。
うわ、サービスいいな! オッパラはまだ準備中なのに。
「いやー、これ良いと思いますよ、旦那! 色っぽい! うちの店でも買えるかな?」
「お金さえ払えば買えるとも。そして参加してくれた子には無償で三着は差し上げるよ」
「なあに?」
アマーリエさんが甘えた声で質問をしてくるので、さっき客引きにした同じ説明をした。
「なるほど、これを履いて富裕層の女性達の前でモデルをしてくれる人を探してるのね、私、やってもいいわよ。このレースの薄い靴下、すごく綺麗だから、履いてみたいし」
「そうか! それはありがたい! 他にも美脚に自信がある子を二、三人紹介してくれると助かるよ」
「おお、それなら当店自慢の美脚っ子を紹介するぜ!」
「やった──っ!!」
ぱふん!! ポヨン!!
感激した勢いで思わず目の前のアマーリエに抱きついたら、顔に柔らかい、たわわが!!
アマーリエさんは対面で膝上に座ってたから、たわわで私の顔が埋まった。
ついでに柔らかいたわわに挟まれたまま、顔を左右に動かしてみた。
極上の感触! 柔らか〜い!!!! 成し遂げた!!
「あはは、お兄さんたら、くすぐった〜い」
「何をしてらっしゃるのかな?」
ハッ!! 聴き慣れたこの声!!
「俺は少しばかり、首の運動をしていただけだけど!?」
仮面を着けたエレン卿がそこにいた。だが、今日は少し登場が遅かったな!
「全く、何が首の運動ですか」
顔が見えなくても分かる、きっと渋い顔してる。
でも私はもう本懐を遂げた。悔いなし!!
「君、準備中なのに入って来ちゃった?」
「先程開店しましたよ」
「おっと、もうそんな時間だったか!」
客引きが慌てて席を立ち、話を続けた。
「あの子とあの子がおすすめの美脚だよ! 話をつけて来るから少し待っててくんな!」
「では、このサンプル持って行って、見せてみてくれ」
席を立った客引きに慌ててサンプルを渡す。
「あいよ!」
客引きはサンプルを抱えて女の子達の方に移動した。
接客前の数人の子に声をかけてくれてる。
「ほらな、これは仕事の話をしに来ただけなので」
「女性を膝に乗せてお仕事ですか?」
「うん。あ、でもいつの間にか営業中だし、お金払わないと、君の分のお金も俺が払うよ、楽しんでいけば?」
「何を言っているんですか、仕事とやらが終わったら、すぐに帰りますよ!」
「君の好みのタイプはどんな?」
エレン卿の好みの女の子を呼んであげようと、善意で尋ねた私の質問であったが、
「秘密です」
「おやおや、冷たいな」
なんとか数人の女の子がモデルになってくれる事で話はついた。
仕事が終わるとエレン卿に連行されてすぐに帰宅する羽目になったが、心は穏やかだった。
最近死にかけたり、大変な事あったんだし、これくらいの癒しがあってもいいはず!!
公爵邸に戻って変装を解いた後も、廊下を歩きながらもエレン卿からお小言は続いた。
「奥様は癒しが必要なら何で閣下の方に甘えないのですか?」
「何しろ、うかつに旦那様に甘えて乗っかると、凍死しかけるんだし、仕方なくない!?」
「うっ!! そうだった!! 凍死しかけていたんだった!!」
エレン卿はあの日の惨劇を思い出した──。
部屋の中で霜柱が立ち、凍えて蒼白になっていた私の姿を。
「そうよ! 南国の島で私は凍死しかけたのを忘れないで!
あと、念願叶ったから、しばらくは持つわ」
「しばらくはって……」
「後はうさぎとかでなんとかするか、凍死対策に火魔石を抱いて旦那様に突撃するかよ」
──そう、まだ、完全に諦めた訳ではない。
旦那様と距離を縮めてもっと仲良くなろう作戦……。
あ、そう言えば、春になれば、結婚式をやり直すから、二度目の初夜も来るんじゃない!?
初夜が二度っておかしいけど!!
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