第99話 お見送り
「旦那……様」
目が覚めたら、旦那様が私に語りかけて来た。
「そなたは、バルコニーでバーベキューをする変な女の方で合ってるか?」
「え? あ、はい……」
「女のくせに何故か胸を揉みたがる、変な女で合ってるんだな?」
「そんなの、私以外もいるでしょう!?
誰だって柔らかく感触のいいものは好きなはずです!」
おっぱいが、嫌いな人なんかそうそういません!
「ふ、合ってるようだ」
そう言って旦那様は笑いながら、ラヴィの膝の上から私を引き取り、一瞬抱きしめた。
おや!?
それからしばらくして、旦那様は聖剣をハルトに返そうとした。
だけど、
「俺、勇者失格です、アドライド公爵様、その聖剣は差し上げます、返さなくていいです。
貴方が魔王を倒した真の勇者ですから」
ハルトにはこのように拒まれた。
「何を言う。私では聖地からこの剣を持ち帰る事は叶わなかっただろう。ハルトヴィヒそなたはまだ若い。
そして、心優しく、かつて人間の女性だったから戦えなかっただけで、魔物相手ならば戦えるではないか」
励まし、説得をする旦那様。
「俺、これから修行の旅に出ます。魔王が倒されても、この世界から魔物の気配が消えた訳じゃない。
魔物被害で困ってる人のいる所に、助けに行く旅に出ようと思います」
私も言わせて貰おう。
このままハルトにフェードアウトされては困る!
原作だとラヴィと結ばれる勇者なんだから!
「ではやはり、ハルトは聖剣を持って行きなさい。
そして、ラヴィのデビュタントの時にはちゃんと帰って来て、パートナーをしてちょうだい。
でないと山程求婚者が現れて大変なのよ」
「分かりました。その時は一時的にでも盾になりに来ます」
すっかり自信を無くしているが、旅に出て少しは自信を取り戻せたらいいな。
「とりあえず、負傷者を集めて治療します! 動ける方は手を貸してください!」
「あ、私も手伝うわ」
「俺も!」
ラヴィの言葉に私とハルトも手伝う事にした。
「お母様は、さっき死にかけてたので休んでてください!」
「大丈夫よ、背中もう痛くないし」
「無理はするな。ええと……カホ?」
いつの間にか私の前世の本名がバレてる!
私は旦那様に小声で耳打ちした。
「表向きにはディアーナで通してください、ややこしくなるので」
「そうか、分かった」
でも正直……懐かしい名前で呼ばれて、少し嬉しかった。
くすぐったいような、暖かいような。
* *
負傷者を集めてラヴィと私と神官達とでなんとか治療を終えたが、帝国の皇帝、皇后、皇太子、皇太子妃と、上がごっそり減ったので、これから帝国や周辺諸国もしばらく混乱が続くだろう。
特に帝都は魔王襲撃でダメージを負った家門も多いはずだ。
皇城もすっかり破壊されている。
これからどうなるやら、皇女が外国に留学中だけど、戻って来て女帝として立つのかな?
と、思っていたけど、皇女は戻らなかった。
帝国では怖い事があったから、帰りたくないから、勇者か聖女に国を任せたいと手紙が来た。
まあ、確かに、原作では帝国は一旦滅んでラヴィとハルトが新しく王国として再生する。
ただ勇者が原作と違い、一人で旅に出るというので、しばらくは、魔王を倒した旦那様が国王代理になり、いずれ聖女が20歳になったら女王として立つという事になった。
魔物の襲撃で傷ついた民を率いるのに、カリスマのある聖女がいいだろうと、神殿側も後押しし、ほとんどの貴族も合意した。
ラヴィ本人は当然荷が重いと言っていたけれど、私とアレクシスも手伝うから頑張って! と、励ました。
そして、ハルトが旅に出る時は、ラヴィも忙しい合間をぬって、お見送りした。
「転移スクロールを三つ渡しておくね。
怪我とかしたら帰って来て、遠慮なく私を頼ってね。それと、私のデビュタントの時は、ちゃんと戻って来て」
「分かった、ありがとう」
「海賊船騒ぎの時、最初に助けに来てくれたのはハルトだったの、私は忘れてないからね!
私の勇者は、ハルトだから!」
お!!
いいこと言った!!
ヒューヒュー!! 私は心の中で口笛を吹いた。
「ありがとう」
切なげな、照れ笑いをして、ハルトは聖剣と共に旅立った。
* *
私は公爵邸にてメイドのメアリーから報告を受けた。
「奥様、ハポングのかぐや姫から支援物資として、食料が届いております」
「まあ! 魔王大暴れで災害並みに被害を受けたうちに!?
なんてお優しいのかしら!! この恩は忘れないわ!」
うちら、ずっ友だよね!!
ハポングからの支援品を確認していたら、
「ちょうど炊き出しに何を作るか悩んでいたのよ! 豚汁にしましょう!」
味見の為にひとまず公爵邸のバルコニーで豚汁を作ってみた。
しかし、牛蒡を見た時の周囲の反応が微妙だった。
旦那様も味見に来たんだけど、渋い顔で言った。
「ディアーナ、これは……木の根では?」
「奥様、いくら平民に施しを与えるにしても、木の根は……」
旦那様とエレン卿は牛蒡に戸惑っている。
「牛蒡です! ちゃんと美味しく、食べられますから! 騙されたと思って食べてみてほしいです!!」
そのうち牛蒡天うどんも食べるんだからね!!
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