第97話 魔王降臨
謎の目玉が気にかかるけど、飲まされたお酒が強かったのか睡眠薬でも入っていたのか、私はテントに戻ってラヴィと少し会話した後、すぐに眠ってしまった。
もしかしたら私が娘を庇ってお酒を飲む事を読まれていた可能性がある。
気がつくと翌日の朝、朝食を食べた後には皇太子は皇都に戻ったようで良かった。
皇太子が帰ってほっとしていたら、オークの軍団が夕刻に襲撃に来た。
けれど、アドライド公爵、つまりアレクシスの部隊が颯爽と登場し、加勢してくれた。
「アドライド公爵だ! 援軍が到着したぞ!」
「やった! 最強の援軍が来た! これで勝てる!!」
「旦那様!!」
『フリージングヘル!!』
ほとんどのオークは旦那様の氷結魔法で凍りついた。
「凍りついた敵を粉砕し、残敵を掃討せよ!」
そして粉砕された。
戦闘後、味方の陣に戻って、旦那様が私に問いかけた。
「ディアーナ、其方大丈夫だったか?」
「な、何がですか?」
鼓動が跳ねた。
珍しくディアーナと、名前で呼ばれたような気がする!!
「ドラゴンゾンビと遭遇したのだろう?」
あ、そっちね、皇太子関連じゃなくて。
「見ての通り、怪我もありません。
ラヴィの聖なる光と私の風で大ダメージを与え、勇者がトドメを刺してくれたので」
「そうか、なら良かった」
謎の目玉の報告はまだいってないようね。
「ところで、宙に浮かぶ目玉の魔物について、アレクシスは何かご存知ではありませんか?」
「さあ、おそらくは魔族だと思うが」
「そうですか」
やはり旦那様も同じ反応だった。
さらに次の日、帝国の皇城で大事件が起こった。
それは原作小説基準ならば、本来もっと後で起きるべき事件だった。
皇都の空は暗雲が立ち込め、雷鳴が轟く。
「うわあああっ!! こ、この世の終わりだ!! 魔物があんなに!」
「皇都全域魔物に囲まれただと!? 勇者も聖女も隣国付近にいて不在時を狙ったのか!」
「皇帝陛下をお護りしろ!」
「皇太子殿下はどちらに!?」
「皇后様と皇太子妃も見当たりません!!」
帝国は暗闇に包まれた。
魔物の群れは容赦なく人々を襲い、多くの人々が血に塗れ、死に抱かれた。
【食らう……ノミコム……。
許さ……ナイ、私を傷つけるモノ、私を馬鹿にするモノ、ないがしろにするモノ、逃さ……ナイ】
皇都にいた者には世にも不吉な声が痛みと共に脳に響いたと言う──。
* *
「いた! 両陛下があそこに!」
「なんだと!? 城が壊れた衝撃で脱出用の抜け道が崩落しただと!?」
「陛下!!」
「騎士達よ、ここだ! 早く外の魔物達をなんとかせぬか!!」
「今全力で掃討すべく戦っております!」
その時、凄じい衝撃で壁が壊れた。
【……ミィツケタァ……】
その場にいる全員が巨大な異形の不吉な笑みに凍りついた。
「ま、待て、何だコレは!?」
【忌々しい皇帝め、ヨクモワタシのフリードリヒに、他の女をアテガオウトしたナ】
「こ、皇太子妃なの? 貴女、その声、その姿は」
【頭が高イワネ、皇帝モ、皇后モ、モハヤワタシが全てノ生き物の頂点に君臨スル、魔王となったノヨ】
「ええい、騎士達と魔法使い達は何をしている!? 早く余を守らないか!!」
魔王は酷薄な笑みを浮かべると、背後の黒い空間から魔獣達を召喚した。
騎士達は必死の形相で魔獣達と戦う。
魔法使いの殆どは呪文詠唱が終わる前に魔獣の爪や牙の犠牲となり、残りは逃げ出した。
【雑魚は私の配下の魔物達と戦うノデ精一杯。ホラ……終わりの時ネ」
巨大な蛇女は巨大な腕を伸ばした。左手に皇后、右手に皇帝を。
【ワタシハ世界を手にシ、征服スル】
邪悪な顎は大きく開かれ、魔王は皇后を丸呑みした。
皇帝は魔王の手の中でなす術なく蒼白になり、皇后が嚥下される様を呆然と見る羽目になった。
【皇帝ハ、モウ少し、味わってカラ、喰らオウカ】
破壊された城内で骨を噛み砕く音が響いた。
騎士達も魔法使い達もなす術なく、この帝国の柱は砕かれた。
* *
国境付近のキャンプ地。
「アドライド公爵閣下! 皇都に魔物の群の襲撃がありました!!」
「なんだと!?」
「そしてそれを率いるのは巨大な蛇の魔物。上半身は女……」
「つまり、ラミアかしら?」
「いいえ、公爵夫人、あれは通常のラミアのサイズではありません!
異形の物、あれが……皇帝と皇后と皇太子様を……巨大な手で捕まえました!!」
「なんですって!?」
「あの巨大な蛇の魔物は、新しい魔王です!」
* *
皇都。
壁が大きく破壊され、今にも崩れ落ちそうな城の中。
「止めろ、来るな!! 近寄るな化け物!!」
「皇太子殿下! お逃げ下さい! その化け物は皇帝陛下と皇后を喰らいました!!」
衛兵は健気に皇太子の前に立ち、守ろうとしたが、巨大な蛇の魔王の片手で弾かれ、砕けた城壁に叩きつけられ、壁のシミとなって死んだ。
【そんナニに酷い事ヲ、おっしゃらないで……フリードリヒ。
誰よりも美しいと、私に口付けてくれた、その口デ】
「な、その声……は……まさか、ノワール!?」
【そう、私は貴方の妻……もう……二度と浮気などさせナイ。
あなたを丸ごと食べてしまエバ、永遠に私のモノ……愛する皇太子殿下……フリードリヒ、これからは、ずっと一緒……】
* *
キャンプ地。
「あの声は、皇太子妃でした! 皇太子妃が魔王化しました!!」
命からがら皇都から国境付近にいた我々の元に駆けつけた伝令は、我々にそう告げた。
──魔王化したのは……皇太子妃殿下だったのね。
我々は国境のモンスターを片づけ、急いで皇都に戻った。
そして、建物を越える巨大な女怪を見上げた。
先日私が見た不吉な目玉は、魔王化した皇太子妃の額にあった。
原作ディアーナの魔王化したヴィジュアルは、人間形態に黒い羽が着いていて、美しいままだったのに、皇太子妃は、何故か明らかな化け者になってしまっている。
私はなんとなく前世で見た物語の、安珍と清姫を思い出した。
あれは確か、愛しい男を丸呑みじゃなく、男が逃げ込んだ鐘の中で、焼き殺してしまったのだけど……。
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