第78話 かつて勇者がいたという村
我々は公爵領を出て、他領の勇者村へ行く途中の山の中にいた。
そしてそろそろ歩き疲れたし、お昼休憩をしようという話になった。
私は魔法陣の描いてある布を取り出し、調理器具とパンなどを転移魔法で取り寄せた。
嵩張るものはコレに限る。
「あれ、その魔法の布、お母様も持ってます」
ギクリ!!
「あー、君のお母さんも同じ魔法道具屋で買ったのかと思われ」
本当は原作ディアーナの研究ノートを参考にして、実は私が魔法使えるようになってから自作したんだけど。
「アーティファクトのオークションとかのみで入手する貴重品かと思ってました」
「ああ、アーティファクトのオークションで入手した特別な品を店主に無理言って売って貰ったんだよ。
俺は旅の傭兵だから、荷物多いと厄介だし!」
「なるほど」
ラヴィは素直なので納得したようだった。
エレン卿は呆れ顔だった。
その後、さらに山中の道を行く途中、魔物の猪に遭遇した。
私が石礫の魔法で猪の足元を攻撃し、怯んだところに、
「ハルト! 今だ! 仕留めろ!」「はい!!」
ハルトが私の合図で見事に魔猪を剣で仕留めた。
魔王戦の前に多少は実戦を積ませないとね。
エレン卿とハルトが猪の血抜きと解体を済ませてくれた。
傭兵設定のくせにお前がやれよという話だが、私、ちょっと大量の臓物が苦手ゆえ……。
ちなみにハルトは伯爵家の三男で、上に二人いて放置されてる子だったので、いずれ自活も視野に入れて猟師から解体も習っていたらしい。
「今夜は焼肉か鍋にしようか」
「はーい」
皆で猪鍋を食べた後、残ったお肉は魔法の布にて転送。
牙はハルトに「狩りの記念だよ」と、持たせておいた。
魔物素材は売れば小金も作れる。
山を下っていると、ふわりと潮の香りがした。
開けた木々の間から、海が見えた。
「あ、あそこ、海が見える。村も」
私の言葉に皆つられて海を見た。
「あそこがかつて勇者のいたルードシグ村ですね」
「よし! ラヴィ、早く下山しよう」
「落ちついてください。何が有るか分かりませんから体力を残しておくのです」
エレン卿は慎重だった。
なんやかんやで昼の3時くらいにルードシグ村に到着。
それはさておき、綺麗な海と、美しい夕陽の見える場所だと原作にあった。
そう、海……先代勇者の父親は漁師で、母は海に潜って貝などを採る海女であった。
* *
一夜の宿を借りようと、とある夫婦と交渉し、OKをもらった。
年齢は多分夫が25くらいで嫁が23歳くらいかな?
お互い幼馴染で結婚したらしい。
「こんな辺鄙な場所へようこそ、まともなおもてなしもできませんが」
「このお茶は……」
ラヴィがお茶の葉を見て変な反応を見せた。
眉を顰めて、訝しんでいる。
出されたお茶に口もつけずに。本来粗末であろうが、おもてなしにこんな失礼な態度を取る子じゃない。
天井から吊るされた植物の束と、淹れられた茶を交互に見ている。
「そのピルニの葉を乾燥させた物ですよ」
「あの、もしや子を授かりたくなくて、わざわざこのピルニのお茶を?」
「え?」
「このピルニを使ったお茶は、長期に飲み続けると避妊効果があるのです。
薬師の方に聞いた事があります」
「……なっ!? 本当ですか、お嬢さん、これは幼馴染が美容によく、美味しい薬草茶だと言っていたので、私は、それを信じて……なのに、子を産めなくなると!?」
「まさかお前、今まで子を授からなかったのは……お茶のせいか?」
「だって、じゃあヤナンは……あの子、私を騙したの!?
ずっと友達だと思っていたのに……」
「あ、そうか、分かりました。きっとそのお茶を薦めた幼馴染は貴方の旦那の事が好きで、でも旦那が選んだのが貴方だったから、嫉妬してそんなお茶を薦めたんですね」
今、思い出した。そんなエピソード原作にあったわ。
ガタン!! 急に夫婦は血相を変えて椅子から立ち上がった。
「お客様が来ているのにすみません! 問いただしに行って来ます!!」
急に家主と妻が家から出て行った。
「よくあんな情報を知ってたな、お嬢ちゃん」
「私はアカデミーで薬草学を習っているので」
「しっかりと勉強しているようだ、偉い偉い」
私は感心して、ラヴィの頭を撫でた。すると、
「ちょっと気安いよ、傭兵の人!」
ハルトがヤキモチを焼いたのか、声を荒げた。
「悪い悪い」
しばらくして、奥さんは泣き腫らした顔で戻って来た。
全部ばれて白状したらしい。
「友達だと思っていたのに……私はずっと愛する人の子供を欲しがっていたのを知っていたのに、あんなお茶を勧めるなんて!!」
「お、奥さん、絶望するのは早いです。薬効を打ち消す緑のポーションを飲めば、きっと」
ラヴィが慰める。
本来原作ではここで薬効を打ち消す薬草探してポーションを作るイベントが発生した。
「そんな高そうなポーションなど、貧しい漁村の……平民の私達には」
「ポーションならここにあるぜ。宿の、泊めてくれるお礼に差し上げるんで、もう泣かないで」
私は腰に下げた鞄からポーションを取り出した。
「え!? いいんですか!? ありがとうございます!!」
「ありがとうございます! 旅の方!
魚だけは新鮮なのがありますので、美味しいお魚料理をお出ししますね!」
やったぜ! おやつはなくともお魚はある!
悪いがこのイベントは時短スキップさせてもらうよ。
色んなポーションを用意して置いてよかった。
本来毒消し用に持ってたポーションだけど、変な薬効にも通用するポーションも自分は用意していた。
「あ、料理ができる間、その辺の浜でお散歩でもされてください。
この辺は夕陽がとても綺麗なんですよ」
知ってる! 夕陽の映えスポット! だからこの勇者村に寄り道した!
私がウキウキと美しい浜辺と夕陽を魔道カメラで撮影していると、
「あれ、シュバルツさんの持ってるその記録の魔道具、お母様のと一緒」
ギクッ!!
「これは別に世界に一個では無いので」
「そうですよね、お母様が買ったのは試作品で出始めにオークションで買ったやつなので、いつの間にか正式に販売されたんですね。高価な物らしいですが」
「ああ、これはちょっと大金が入った時に調子こいて買ってしまったんだよ。
あははは!!」
エレン卿がまた呆れるような顔で私を見ていたが気にしない!
この後、ラヴィとハルトが「夕陽がとても綺麗だね」などと言ってる様子を生暖かい目で見守っていたら、海からざぶりと音を立てて女性が上がって来た。
「あの女性、おっぱいポロリしてる!」
「海女さんですよ、ほら、手にした網の中に貝が」
私がびっくりして声を上げたら、エレン卿がクールに言った。
そうか、この世界水着無いんだ!! やはり作って販売してあげるべきか。
海女さんは下半身は一応短パンのような物を履いていたけど、上が無防備すぎる。
「シュバルツさん! 裸の女性をじっと見てはいけませんよ!」
「そうですよ! 傭兵の人!」
「は、はーい」
ラヴィとハルトに怒られ、私は返事をして後ろを向いた。
* *
我々は泊めて貰える家に戻り、お庭のカマドで美味しい海鮮料理バーベキューをもてなして貰った。
「サザエの壺焼き! 美味い!」
そして壺焼きを堪能した後に茹でワカメ用にと、私は魔法の布から酢味噌を出し、ワカメにかけた。
「シュバルツさん、こっちの牡蠣も火がとおりました。美味しいですよ」
「ありがとうお嬢ちゃん」
「ラヴィ、なんでその人に取り分けてやってんの? 大人だから自分で出来るよ」
「なんでって……美味しそうに食事する様子が、なんとなく、知ってる人に似てる気がして」
お、ハルトはヤキモチか?
「このワカメは新鮮で歯応えがあって美味しいよ」
私はワカメの新鮮な食感が気に入ったので酢味噌和えをラヴィにも薦めた。
「はい。この酢味噌のワカメ美味しいですね。味噌はハポングの輸入品ですか?」
「……ん、まあね!」
やばい、ラヴィが味噌をハポングの輸入品だと気がついた。
「この魚の汁物も美味しいですね、この貝からいい出汁が出てると見た」
エレン卿が話題を逸らそうとしてくれたのか、汁物を称賛した。
「その貝は亀の手です。お食事がお気に召していただけたようで嬉しいです」
「本当に亀の手に似てる」
ハルトも初めて見る食材に興味津々だ。
そして夫婦はこのように食事を楽しむ我々の様子を見て喜んだ。
一晩泊まって、早朝に漁師や村人が浜辺に集まるので、私達も見に行った。
網に仕掛けたお魚を回収している。
「……勇者らしき人はいませんね。きっと光り輝くようなオーラを放ってると思ったのですが」
ラヴィは勇者を探して村の若者をじっと見ている。
隣りにいるよ!! ハルトだよ!
勇者は村で見つからなかったので、次は氷結の洞窟を目指す。
「「お世話になりました!」」
我々は空き部屋に泊めてくれた夫婦にお礼を言って村を出た。
「あの夫婦、無事に子供が産まれるといいですね」
「多分奥さんが23歳くらいに見えるし、まだ間に合うだろう」
この世界は結婚と出産年齢が早い。
魔物の存在するこの世界、寿命を考慮して成人が15歳設定なので。
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