第77話 愛があるから

 七日間の間に必要な知識を詰め込まれ、ようやく一時的に帰宅が許されたラヴィだったが、九日後にはまた家を出なければならない。


 アカデミーは海賊船騒ぎの件で、ひと月ほど臨時の休みになり、皆自宅学習となるがラヴィは神殿勉強の後には旅に出ないといけないというのは原作を読んで私は知ってる。


 ところでパン屋の娘さんの行方不明の件は騎士団に捜索を頼んでいたけど、難航していた。

 だからラヴィが神殿に缶詰になっている間に、私はものは試しにと、机の上に地図を広げて、ダウジングで探してみたら、見つける事ができた。


 ダウジングのペンデュラムが指し示す場所は公爵領内のとある山だった。


 現場の山中の洞窟に急行してみれば、娘さんは命に別状はなく、虫系魔物の繭の中に閉じ込められていた。

 非常食か非常用生贄か分からないけど、救出が間に合ってよかった。


 パン屋さんの所に娘さんを送り、パン屋のご両親からはとても感謝をされた。

 何かお礼をしたいと言われたので、月一でいいから最寄りの孤児院に売れ残りパンでもいいから届けて欲しいとお願いしてみたら了承してくれた。

 

 大抵の孤児院は予算不足なので売れ残りのパンでも喜んで貰える。



 * *


 そして七日経って、ラヴィが公爵邸に戻ってきて言った。


「大神官様から聖地巡礼の旅をしつつどこかにいるだろう勇者を探しに行けと言われました。

これは皇命でもあるそうです」


「今度はまだ子供のラヴィに聖地巡礼の旅に出ろと言うのね。

皇命でもあるなら拒否は出来ないし、そう、じゃあ傭兵をつけるわ。

私の選んだよりぬきの傭兵と、それからハルトをお供に旅に出なさい」


「何故ハルトが私の旅に同行するのですか?」



 お探しの勇者だからよ!!



「きっとラヴィを守ってくれるでしょう」

「ハルトにはこれ以上迷惑をかけられないです」

「いいえ、ハルトは必要なの」

「お母様?」



 私の強固な態度にラヴィは不思議そうな顔をした。



「ではハルト本人にも訊いてみればいいわ」

「ええ?」


 戸惑うラヴィを無視して私はそばに待機している家令に向き直って命じた。



「家令、すぐにセーデルホルム伯爵家三男のハルトヴィヒ宛に聖女の旅に同行を希望するか書信を送って」

「はい、奥様」



 さっきまで沈黙していた旦那様はおもむろに執務室内の金庫を開けて、そこから箱を取り出し、口を開いた。



「エレン卿、娘の旅に同行して、警護をしてくれ」

「かしこまりました」



 エレン卿は即答した。

 そして金庫から出した物をエレン卿に手渡した。



「では、このブレスレットとスクロールを渡しておく。

戦力が必要な緊急時にはそのスクロールで私を呼べ。

行ける時はそのブレスレットを座標に私は移動する。

そしてこっちのスクロールは念の為の緊急離脱用の転移スクロールだ」



 あら、どちらもとっても高価なスクロールを。



「はい。ですが、そのようなブレスレットを座標として移動するなら、私よりお嬢様本人に渡した方がいいのでは?」


「私の方から急に様子見に行く事もあるかもしれない。

転移した先が娘の入浴中だの、着替え中だったりしたら気まずいだろう」

「ああ、なるほど、分かりました」


「お父様、エレン卿をつけてくれてありがとうございます。知っている人が同行してくれるなら心強いです。

エレン卿も、ありがとうございます」


「お嬢様、私の仕事はアドライド公爵家の方をお守りする事です。当然の事なので、お礼など必要ありません」


「私はこの広い公爵領を治める仕事がある故、ずっと其方と一緒にはいられないが、このエレン卿が其方を守ってくれるはずだ」

「はい、お父様」



 * *


 ラヴィがうさぎ小屋でうさぎ達と、いつ戻れるか分からない旅に出ると、別れを惜しんでスキンシップしてる間に、私は旦那様と話をする事にした。


「そんな訳で、旦那様。

私も傭兵シュバルツとして、変装し、ラヴィの旅に同行しますので、当分社交活動やパーティーは行けません。

娘の件で心配のあまり倒れて、表向きはベッドで伏せってると言う事にしておいてください」


「はあ!?」



 ずいぶん力強い「はあ!?」が出たわね。



「心配だから保護者としてこっそりラヴィの旅に同行すると言っているのです」

「社交はともかく其方の領地のアギレイの方はどうするつもりだ」


「アギレイの事は文官に頼んでおきます。

そして、私に何かあればラヴィがあの土地や魔石鉱山など継承できるように、書類も作ります」


「ディアーナ、其方、本気なのか?」


「はい、本気です。

公爵夫人として聖女の旅に同行するのはアレだと私にもなんとなく分かるので、傭兵として行きます」


「全く……いつも突拍子もない事を」

「子を守るのが親なので」

「ダメと言ってもどうせ抜け出すだろうな。仕方ない」

「ありがとうございます!」



 やった〜〜! 許可を貰った!!



「ラヴィアーナを頼んだぞ」

「お任せあれ!!」

「不安だ」

「なんでですか!!」


 力強く任せろと言ったのに!!


 そうして私やラヴィが旅に出る準備をしてる間にハルトからの返事が来た。

 当然聖女たるラヴィと一緒に旅に出るとの事だった。


 当然よね! 伯爵家としても名誉な事だし、なによりも愛があれば、当然の選択!!

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