第74話 風雲急を告げる。

 皇太子妃の実家の子爵家の事業に経済制裁を行なった。

 子爵が公爵家に謝罪に来ても、


「お前の娘は我が公爵家の名誉を傷つけた。相応の報いだ」


 と、旦那様もきっぱり言ってくれた。


 私がちゃんと演劇の内容を話したら捨ておけないと同意して、経済制裁をすると最終判決を出したのはアレクシスだ。


 子爵もアレクシスの慈悲なき氷のような冷たい視線を受けて、肩を落として帰ったとの事だ。



 その後、噂じゃ子爵は抱えた借金の返済の為、起死回生を狙ってギャンブルに手を出したとか聞いた。

 ちなみに、勝ってるとの報告は聞かない。



 * * *


 ラヴィがアカデミーに行って寮生活をして、なんだかんだと3年が経った。


 休暇の度にラヴィは実家に戻って来て、私も可愛がっていたが、そろそろ原作じゃ不穏な事件が起こり出す頃だったのを、私は思い出した。



【我が領地での土葬を禁じる。亡くなった者は全て火葬にするように】



 私は領主としてアギレイにて、そのような御触れを出すことにした。

 流石に公爵領は旦那様のアレクシスの管轄だから、手出しが出来ない。



「領主様、本当にそのような御触れを出すのですか? 

それだと薪代も必要ですし、愛する者が体が焼け崩れて行く姿を見たくないと、反発が出ると思うのです」


「疫病の発生源になってもらっても困るし、アンデッド化して墓場から蘇るよりマシなのよ」

「疫病はともかくどうして急にアンデッド化など」



 アギレイで採用した文官はなおも私にー食い下がる。

 そろそろ魔王の配下が動き出す頃だと原作読んで知ってるとは言いにくい。



「薪の代わりに火の魔法か火の魔石での焼却を出来るよう、魔法使いを派遣か魔石を各教会に手配します。

予算は魔石鉱山の魔石の売り上げから出します」


「……はあ、承知いたしました」



 己の資産を切り崩してでもやるという私の態度で、文官もこれ以上私に言っても無駄だと諦めたようで、ため息と共に了承した。



 * *



 ある程度の反発は予想していた。

 役人か聖職者の神官が火葬をするのだが、


「止めて! 可哀想よ! 燃やさないで!!」

「形が崩れては転生が出来なくなる!」

「同じ体に転生する訳ではない! 遺体に執着をするな! 

疫病の発生を防ぐ為にも必要な事だと領主様がおっしゃるのだ!!」



 役人に取り縋る、夫を魔物に襲われて亡くした妻。



「どこで疫病が出ているのですか!?」

「出る前に対策をとるのが我々の仕事だ」

「土の中で眠る分ならいいじゃない! 静かに眠らせてあげてください!」

「ええい、領主の言葉に逆らうな、火刑になりたいのか!?」

「ひ、酷い!!」



 * *



「領主様、やっぱり市民の、特に女性の火葬への反発が凄いですよ」



 火葬への忌避感強すぎでしょう!!

 各地の火葬場の視察に来ると、そのような現場の声を聞く羽目になった。



「男の多くはかつて我々との戦争に参加して、生き残りは奴隷紋で縛ったから、私の命令には逆らえない。

だから戦闘に参加してない、紋が刻まれてない女や老人が文句を言っているのね」


「あ、領主様だ!」



 一人の町人が私の存在に気がついた。



「領主様、お願いです、土葬に戻してください!」

「お願いします!」


「火を放て」



 私は心を鬼にしてそう役人に命じた。



「はっ!!」



 粗末なゴザの上に数人の遺体が並んでいた。

 役人は本日集められた遺体の中に火の魔石を投げた。


 遺体は布で顔や体は覆ってあるけれど、それを見た女が顔を覆って泣き崩れた。



「人でなし!」



 そう言って、私は子供に石まで投げられた。

 カン!!


 その石は私を狙っていたが、エレン卿があっさりと剣で弾いた。


「あ! お、お前、いくらなんでも石は!」



 母親が子供の暴挙に真っ青になって慌てる。



「無礼者!」



 抜刀したままのエレン卿が叱責する。



「きゃあ! 許してください! 子供のしたことです!」



 母親が子供を庇って前に出たが、私はエレン卿に剣を収めるように言った。

 そして、



「分かって欲しい、私は意地悪で火葬にしろと言っている訳じゃない。

あなた達の為なの」



 そのように言うしか無かった。


 * *


 ほどなくして世界各地でネクロマンサーの暗躍でアンデッド発生と疫病の兆しが出て来た。


 アギレイは私の御触れのおかげで、その被害は少なかった。


 私は視察の為に、男装の変装をして、アギレイ内のとある酒場に潜入した。

 エレン卿には顔の上半分を覆う仮面を渡し、最初から同行を許可している。



「ほら、うちの領主様は正しかった」

「なんでこれを予見したような政策を打ち出せたんだ?」

「知らん」


「密かに預言者でも雇っているとか」

「或いは神託でもあったとか」

「まだ今世は聖女もいないのに、神託は無いんじゃないか?」


「じゃあ予言だったなら最初からそう言えば良かったのに、領主は石まで投げられたそうだぞ」

「万が一、予言が外れたら気まずいからでは?」



 酒場ではそのような噂話が流れていた。



 その後、私とエレン卿は公爵領に戻った。


 私も一応、火葬推奨と、公爵領でも旦那様に一応は言っておいた。

 旦那様は命令ではなく、火葬を推奨という形で御触れは出していたが、強制ではなかった。


 故に、広大なアドライド公爵領でもアンデッドは発生した。


 主に田舎の方で発生したアンデッド退治の為、冒険者、傭兵、騎士団は大忙し。

 たまに公爵たるアレクシス本人もアンデッド退治に向かうレベル。


 そして時を同じくして、若い娘の誘拐事件発生。

 誘拐事件の真相は魔王信者による魔王復活の為に捧げる生贄集めだ。


 いよいよ原作の流れが本格始動して来たという感じで、私は天を仰いだ。


 風雲急を告げる。


 もうすぐ、ラヴィが、聖女として覚醒する……!!

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