第73話 奥様と経済制裁と皇太子妃実家の騒動
私は今更ながら魔石に魔力を注入して、お守りブレスレットを作って、ラヴィとレジーナに送った。
そしてラヴィからはお礼の言葉を、レジーナからはお手紙を貰った。
ラヴィが寮生活になってからはレジーナも頻繁に公爵家に来る理由は無くなったので。
数日後、傭兵姿に変装して街に出た。
行き交う人々の間をぬって、歩みを進める。
街の中を流れる川岸では、桟橋のような足場の所で、複数の主婦が洗濯をしているのが見えた。
それはのどかな風景。
だがしかし、私の心中はやや穏やかではなかった。
最近皇都で人気の劇団の公演演目が問題があると出入りの商人からタレコミがあって潜入し、見に来たのだ。
演目の内容が皇太子と皇太子妃のラブロマンスなのはいいが、どう見ても私としか思えない金髪の悪役令嬢がいる。
更にその悪役令嬢は恋敵の皇太子妃に散々嫌がらせから誘拐未遂。
実際には私が、いや、ディアーナがやってない下衆行動までを付け加えてるし、更に皇太子への恋に敗れて悪役令嬢は失意のうちに非業の死を遂げる。
そして悪役令嬢の妨害も乗り越え、皇太子と皇太子妃は結ばれ幸せになるという内容だ。
誰の命令でこんな劇を? もしかして皇太子妃の差し金?
私への嫌がらせでこんな脚本でやってる訳?
私があれだけガーデンティーパーティーで持ち上げてやったのに、まだ皇太子が奪われないか不安なわけ?
公爵家をバカにしているの?
実名出さなきゃ許されると思ってるの?
さて、どうしてくれよう。
腹の底から、怒りの感情が沸々と湧き上がる。
ああ、いけない、このままじゃラスボスルートに戻ってしまいかねない。
興行主に殴り込みに行って公演をやめさせたら、表現の自由を潰す行為になりかねない。
だけどあまりにも誰を想定して配役しているか、顔見知りの商人や貴族ならすぐに分かるし、許容できる度を越している。
この脚本でやれと言った黒幕は確実に把握しないと。
私は変装をやめて今度は公爵夫人の装いで、劇団の事務所に乗り込んだ。
「この劇団の責任者を呼びなさい」
「は、はい、公爵夫人」
普段接点のない平民が一目で私を公爵夫人だと分かるなんてね。
ディアーナ役の役作りや衣裳の参考に、針子や女優に見せる為の肖像画でも見たのかしら?
私は劇団の下男に事務所の一室に通された。
平民の劇団には不似合いなほど、超絶技巧で作られた砂糖菓子がテーブルの上にある。
これは本来王族や貴族が食べる物だ。
背後に貴族がいるのは確定だろう。
私は劇団の団長の目の前で、凝った薔薇の形の砂糖菓子をむんずと手掴みし、そのままグシャリと砕いた。
パラパラと砕けた砂糖が床に落ちる。
「お前についてるその頭、このように砕かれたくなかったら、洗いざらい正直に話しなさい」
「ひいっ! お許しください! 公演は即刻止めます!」
「ああ、そう、それで、あの劇の脚本家は誰なの!?」
「も、持ち込み企画で、脚本家もうちの者ではありません!」
「だから、それは誰!? 誰の命令でやったの?」
真っ青になって震える団長に威嚇し、尋問して吐かせた結果。
皇太子妃の侍女が持ち込んだ脚本だったという事が判明。
報復に皇太子妃の実家の事業を攻めるか。
きっと親の育て方が悪かったのだろうから、責任をとってもらう。
ラヴィが覚醒するまではなるべく穏便にと思っていたけど、アドライド公爵家があまりにも舐められっぱなしも良くない。
実家の子爵家の支援金打ち切り、契約解除くらいはしないと。
* * *
〜その後の皇太子妃と実家のコラール子爵家サイド〜
コラール子爵家の執務室。
「お前はなんという愚かな事をしてくれたんだ!
あのアドライド公爵家を敵にまわすなど!
主だった三つの仕事の契約と援助の更新を打ち切られたんだぞ!
どれほどの痛手か! 事業が立ち行かないのも出たんだぞ!」
「だって、皇太子様が、フリードリヒ様があの女を寝所に呼ぼうとしたってわかったの!
私、どうしても許せなくて!」
「それなら皇太子様の方に不貞について苦情を言うべきだろう!
私の事業は子供の遊びではないのだぞ!」
「フリードリヒ様に直接責めろですって!?
そんな事をしたらフリードリヒ様に嫌われてしまうじゃないですか!」
「全く、それなら見なかったふり、気がつかなかったふりをしろ。
そもそも相手は皇族だぞ、女の数人くらい囲っても何もおかしくないし、
アドライド家は強すぎて敵に回すと厄介な事くらい分からないのか!?」
「わ、私は皇太子妃で未来の皇后よ!
ないがしろにされていいはずがないわ!」
「お前が皇太子妃になれたのは、その容姿の他には、戦場にて皇太子様と似た背格好のお前の兄が、皇太子殿下の影武者をして怪我をした。
その秘密の功績があったせいだと言う事を忘れるな」
征服戦争により、四方八方の国から恨みを買ってる帝国は、戦場にて世継ぎの皇太子を守る為、影武者が必要だった。
通常皇族の皇太子と婚姻を結べるのは、伯爵家以上の家格の貴族子女になるが、この子爵家の兄の影武者の功労で、例外的に婚約者としてゴリ押しが出来たのだった。
「うちの家門に皇太子様の後ろ立てとして力が足りないのは、私のせいじゃないわ!」
バシッ!!
「痛っ!!」
皇太子妃は父親たる子爵に頬を殴られた。
「か、顔はやめてください! 酷いわ、お父様!」
皇太子妃は殴られた顔を押さえて泣いた。
「お前が育ててやった恩も忘れて生意気な口をきくからだ!
お前がもし皇太子から見捨てられたら、自分のせいだぞ!」
子爵家の執務室内は防音の魔道具を使われてるとはいえ、ぎゃあぎゃあとみっともない親子喧嘩をする二人だった。
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