第72話 社交シーズンとラヴィの属性


 サロンでアギレイ領の報告書等の書類を見つつ、お茶を飲んでいた私の元へ執事がやって来て、今は皇都にいるラヴィからの鏡通信の連絡があったと聞いた。


 鏡通信とはこの世界におけるテレビ電話のような便利な魔導具だ。

 子供が寮生活になると、アカデミー側が高位貴族には貸してくれる。

 下級貴族は家族に連絡を取りたい場合、手紙を書く事になる。

 世知辛い格差社会である。

 普段は旦那様の執務室に置いてあるのだけど、借りて来てサロンに魔法鏡を設置した。

 鏡の縁に嵌められた魔法石に触れて、いざ通話開始すると、すぐにラヴィの愛らしい学生服姿が映しだされた。



「お母様、聞こえますか? 私の姿が見えてますか?」

「見えてるし、聞こえているわ! 学院はどうだった!?」


「学院内の神殿で水晶による属性検査をしたら、私の属性は光でした。

魔力操作の訓練で癒やしの魔法が使えるようになるだろうと。

お母様が万が一怪我でもしたら、私が癒せるかもしれませんから、頑張りますね!」



 ラヴィは輝くような笑顔で言った。胸がいっぱいになる。



「ありがとう、ラヴィ……」

「あ、そして私は白の寮になりました」

「ああ、白ね! やっぱりね。あ、ハルトも白の寮になった?」

「はい、赤か白で判定が揺れてましたが、白になりました」



 よしよし、ここまでは原作通り!



「ところで、怖い人に、いじめられてない? 大丈夫?」

「今の所は大丈夫です。

あ、お母様がお菓子を持たせてくださったので、同室の子と一緒に食べて、早く打ち解けることができました!」

「それは良かったわ。寂しくなったらいつでも連絡するのよ」

「……はい、お母様」



 鏡の向こうのラヴィの瞳が少し潤んだ。

 簡単に報告をして初めての鏡通信は終わった。


 手土産にクッキーを渡しておいて良かった。今度はのど飴でも作って送ろうかな。

 喉にいいハーブなどの成分を入れて……。



 * *


 それはそれとして、また大人の貴族は社交のターンなのである。

 その事件はとある皇都の麗かな春の日のピクニックパーティーで起こった。


 私はその場面を偶然目撃した。ラヴィのガヴァネスのレジーナと伯爵夫人とその取り巻き達がボート遊び中にいざこざが起こった。

 レジーナが順番を守らない輩に絡まれた的な。

 当然私はラヴィのガヴァネスのレジーナの味方をして、軽くお仕置きをした。

 私とレジーナは魔法の絨毯に乗って、空中から風を送り、煽ってやった程度だけど、船が水上で激しく揺れて水を浴びてビビってた。ざまあ。


 ピクニック中にレジーナに訊かれたのはラヴィの魔法属性の事。


「魔法属性は何でしたの?」

「光ですわ」

「まあ、流石ですわね。

数の少ない貴重な癒し手におなりなら、求婚者も多いでしょうね」

「とりあえず、さっきの貴族女達の息子達には渡しませんわ」



 原作通りならこれから数年後、とある事件に巻き込まれたラヴィは聖女に覚醒し、勇者として覚醒したハルトと結ばれて、魔王退治の旅に出る。



 だからしばらくは学生時代を味わえるけど、途中で戦いの旅に出るのよね、皇帝命令で。

 あの野郎、子供に魔王退治に行かすなっての!!

 皇室の、お前のとこの騎士達を送れよ!!


 その時のことを考えると怒りゲージが溜まって自分が魔王化しかねないので、一旦落ち着こうと深呼吸をした。

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