第68話 旅行後の心残り

 間食のおやつとして、私はバルコニーのBBQセットの鉄板の上で、海鮮お好み焼きを作った。


 ハポング産のイカやタコを入れて、「美味い、美味い」と食べていて、ふと……思い……出した!!



「あ! ハポングで春画を買ってくるの忘れた!」



 昔の日本に似てるんだし、葛◯北◯のような芸術的なえちちな絵があったかもしれないのに!

 女性にタコが絡まってるやつみたいな?



「奥様、今、春画って言いました?」



 バルコニーで料理をしてたらまた煙が上がっていた。

 故に万が一、火事であったら困るので護衛騎士のエレン卿は、毎度ここへ確認にやって来る。

 いや本当に毎度、料理しているだけなのだけど。



「言いました。

ハポングの春画は芸術的なものがありそうだという予想でしてよ」

「芸術的ってなんですか、破廉恥な絵は女性が買うものではありません」


「お堅いわね、エレン卿は。芸術作品なんて裸婦画や軽く布切れまとって局部だけ隠してるようなものも多いでしょうに」

「お願いですから公爵夫人として品の有る行いを」

「公爵夫人として芸術活動支援にも力を入れないと。それ、すなわち文化活動だもの」


「ああ言えばこう言う系の女なのだ」

「閣下、私は一応止めました」



 旦那様のアレクシスも珍しく私の部屋に現れた!

 夜の寝室には来ないのに、私が何かバルコニーで食べていると来る!!

 食べ物の匂いに釣られているの!?



「アレクシス、私はただ芸術を愛する女なのですわ」

「何も信用できない」

「酷い!」

「それより皇太子妃のパーティーはどうだったのだ? 何も問題は起きなかったか?」



 末席を用意されました! 

 でも前世の日本感覚だと例えば映画館で出口近いとトイレに行きやすいからまあいいや! の感覚で許しました。

 お帰りの出口の門が近かったので!


 まあ、末席用意されたのがアレクシスやラヴィだったらバカにするなとブチ切れるとこだけど、私だし。

 ドレスにワインかけられそうになったけど風の精霊が守ってくれてノーダメージだったし。

 この事は黙っておこう。



「とにかく皇太子と皇太子妃はお似合いですよと、皇太子妃をひたすらに持ち上げておきました。

私があの男に未練があると勘違いなさっていたら困るので、特に問題ありません」


「……やはり直接其方に聞いても信用ならんな」

「はあ? だったら何故聞いたんですか!」

「念の為だ」



 もー!! 失礼な人ね!



「私、これからアギレイ文官達との道路整備と宿場町の建設の会議があるのでこれで失礼しますわ!」

「待て、道路整備の件は其方が指導しているのか?」


「そうですよ。私はあそこの領主になったのですから。

道路が整備されていないと道がぬかるんで馬車の車輪がハマっただの、事故の元ですし、交通の乱れは商人の商品を今か今かと待ってる人も心配させるし、辺鄙な場所に住んでる人の必要な生活物資が旅の商人頼りだったら、ライフラインに、いえ、日常生活に支障が出るじゃないですか?」


「まあ確かに」

「交通の要所に安全に泊まれる宿屋を設置し、増やすのも旅人や商人が盗賊に襲われる危険を減らせるでしょうし」

「其方が急にまともなことを言っていると驚くな」



 ちょっと!!



「だから失礼なんですよ、アレクシス、貴方、自覚してます?」

「さっき春画がどうのと言っていた口で、まともな内政関連の話をするから」

「キ──ッ!!」

「キーとか言う内心の怒りを自分の口で言う者も珍しいな」


「あの、お二人共、それはもしや夫婦漫才と言うやつですか?」

「エレン卿! 違います! 真面目な話です。

春画の輸入の手配は貴方に頼む事にしましょう。

女性がやるのが不自然なら男性の貴方がやってくれたら問題解決ですね」



 つい、パワハラ的な意地悪を……どうせ断るだろうから言ったんだけど。



「解決しません! 問題大有りですよ! 

私がわざわざ他国から春画を輸入するドスケベになってしまいます!」



 ほら、この子はノーと言える子だ。

 強い。

 ちゃんとツッコミをくれるので安心してボケられる。



「異国文化の収集と言っておきなさい。これは極めて文化的な行動です」

「無理ですから!」


「ディアーナ、打てば響くような相手とは言え、エレン卿に無茶振りをするでない」

「分かりました、自分でやります」

「止めろ」

「奥様、お止め下さい」


「健全なばかりでは文化は育たないと、どっかの偉い人が昔言ってました!」



 私は前世日本で聞いた言葉をそう言い捨てて、バルコニーに設置したミニテーブルの上のお皿に箸を置いた。

 ホカホカのミニお好み焼きはまだ鉄板に二つほど残っている。



「話はまだ終わっていないぞ」

「お二人は残りのお好み焼きを食べていいから、後片付けをよろしく!」

「は!? 片付け!? 普通は下女に頼むだろう!?」

「か、片付けは私がいたします!」



 メアリーが慌てて声を上げるのが背後の方から聞こえたが、私はアギレイの会議に向かう為に部屋を出て、公爵邸の廊下を走った。

 これから神殿の転移陣を使って、アギレイの領地まで行かねばならない。

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