第67話 奥様とガーデンパーティー
「ああっ! いつの間にか妖精さんが庭園にブランコを作ってくれてる!」
私が夜なべして作った庭園のブランコの存在に気がついたラヴィは喜んだ。
花咲く春の庭園でブランコに乗る娘かわいい!
木とロープで作った簡易的なブランコではあったが、太い枝で作ったから、筋骨隆々の騎士とかが乗らない限りはきっと大丈夫。
ん? ブランコを熱い眼差しで見ている騎士がいるわね。
危険を感じて私は騎士に話しかけた。
「あのね、申し訳ないけど、貴方のような大きな成人男性が乗って力いっぱいこぐと、枝が折れるかもしれないから、ブランコに乗りたいなら公園の方にして。
あちらは支えが鉄製で強固だから」
大きな公園の方は鉄製のブランコを白いペンキで塗装してある。
「い、いえまさか、乗りたい訳では!」
屈強な騎士はそう言って顔を赤くした。
子供の遊具とはいえ、何かまだ二十代の騎士は少年のような心が残っていて、遊びたいのかも。
娘のブランコ遊びをしばらく見守って、昼はハポングで食べたエビの残りをまたかき揚げにして、かき揚げうどんにしてもらった。
コシの有るモチモチうどんとサクサクのかき揚げが美味しい。
かき揚げがうどんスープに浸かってふにゃりと柔くなってるとこも美味しい。
今度はごぼう天うどんも食べたいな。
夜には社交活動として、お呼ばれしているパーティに行かないといけない。
また数日後には、なんと皇太子妃から招待を受けたガーデンパーティーに行かないとならない。
「なんでよりによって、この私を招待するのよ、皇太子妃は!」
原作では恋敵だったでしょ!
過去にはディアーナは皇太子に相手にされてなかったけど、この間皇太子は私を休憩室で手籠めにしようとしてたし!
皇太子妃はあの事件を知らなかったとは思うけど!
「アドライド公爵家が帝国内でも有力な貴族ですから、無視はできないかと」
メイドのメアリーは私を宥めるような口調でそう言った。
「無視でいいのに!
怖いわね、牽制と嫌がらせでワインをかけられたりしてね!
ドレスの色は真紅にしましょう、万が一ワインをぶっかけられても目立たない色に」
私がそう言うと護衛騎士のエレン卿が口を挟んできた。
「春のガーデンパーティなら、昼の茶会に近いものでしょう?
淡い色の方が爽やかで場に合うのでは?
アドライドの公爵夫人にワインをかけるなど、流石に皇太子妃でも、そんな愚かな事はなさいますまい」
「それがね、恋に狂った女ならやりかねないのよ。エレン卿」
「ええ? そ、そうでしょうか?」
そんな訳で私は夜の四大公爵家の他の公爵家パーティーを無難にこなした数日後に、皇太子妃のガーデンパーティに向かった。
赤い薔薇のようなドレスを着て、現地に着いてから思いついたけど、風の精霊で結界を張ればワインをかけられてもなんとかなるわね。
「きゃっ!!」
私の目の前でわざとらしくつんのめったメイドが、ワインの注がれたグラスを傾けた。
そう来たか!
自分でワインを私にぶっかけるのではなく、メイドにさせる嫌がらせ!!
私はあわやドレスにワインをぶっかけられる所だったが、風の精霊の結界が間に合った。
ガシャンと派手な音を立ててメイドは目の前で倒れた。
「あなた、大丈夫?」
「も、申し訳ありません! とんだ粗相を!」
顔を上げたメイドは驚いた。私がノーダメージなのだ。
ワインは一滴も私を汚していなかった。
ただ、割れたグラスは散乱し、ワインが地面を濡らしているだけ。
「え!?」
周囲の令嬢達も私がノーダメージなので驚いた。
そして一瞬悔しげな顔をした皇太子妃を、私は見逃さなかった。
やはり、お前の差し金か。
最近皇太子の野郎が私に近づこうとしてるのが気に入らないのだろう。
残念! その手にはのらない!
「破片を拾う時に、怪我をしないように気をつけなさい」
「は、はい、ありがとうございます。アドライド公爵夫人」
私はいいように利用されてるメイドに優しく声をかけた。
しかし私がドレスをだいなしにされて激怒してメイドに酷くあたってたらどうするつもりだ?
この皇太子妃は……。
私が以前の原作ディアーナなら、このメイドは酷い折檻を受けてただろうに。
それとも、それも計算のうちか?
皇太子に「アドライド公爵夫人は無慈悲で嫌な女ですー」とか告げ口したりして?
考えすぎかしら。
皇太子相手に悪く言われるのはいいけど、アドライド公爵家の名をこれ以上落とす訳にはいかない。
ディアーナの過去のやらかしを考えたら。
切り替えて、私は用意されてるテーブルへ向かった。
えっと、私の席は、あらら、末席だわ。
帝国四大公爵家の一つ、アドライド公爵家に喧嘩を売ってるのかしら。
なめられたものね。
まあ、席なんてどうでもいいけど。
早く私は皇太子に全く興味無くてあなたの邪魔はしないと分からせてやらないとね。
私は素直に末席に座った。
イジメに屈した訳じゃない。どうでもいいのだ。
末席に座った私を見て、皇太子妃は口元に嘲笑の笑みを浮かべた。
「今日の皇太子妃のドレス。
素敵ですわね、皇太子殿下からの贈り物ですか?」
皇太子妃は本日、金糸の刺繍入りの黄色のドレスを着ている。
「ええ、もちろんですわ」
私は改めて皇太子妃の今日の装いをマジマジと見た。
金の細工にサファイアのアクセサリー。
皇太子は金髪碧眼。
「身に着けられてるアクセサリーも、皇太子殿下の色……ですわね。
とてもお似合いですわ」
「あ、ありがとうアドライド公爵夫人」
「ええ、誰よりも。皇太子殿下のお色が、お似合いですとも」
「ええ、ノワール様は本当に皇太子殿下のお色がお似合いですわ」
おっと、こいつはクビにした元おっぱいガヴァネス!
お前もいたのか!
子爵夫人ね。未亡人でうちの夫を誘惑しようとしてた不届き者。
名前は……忘れた!
おっぱいを強調するドレスを着ていた事しか覚えてない。
「ありがとう、オパーズ夫人」
あ、皇太子妃のおかげで名前を思い出した!
リアリー・オパーズだった。
子爵が戦争で亡くなって、まだ小さい嫡男の代わりに子爵家を代理で治めているんだったか。
いずれ息子とその嫁に家を任せるから、将来をみこして、子持ちのくせにしれっとアレクシスの寵愛を受けて裕福な生活でも夢見たんだろう。
厚かましい。
そんで今は皇太子妃の太鼓持ちになってるわけね。
まあいいけど。
皇太子妃は不自然なほど自分を持ち上げる私を疑惑の眼差しで見ている。
お前達はお似合いだってんだよ!
信じろ!!
とりあえず旦那様ラブのアピールでもすれば安心するのかな?
ふいにまたオパーズが口を開いた。
「あら、ディアーナ様、その紐のブレスレットは?
珍しいですわね、高級嗜好だった方がそのように平民のようなアクセサリーを」
「これは旅の記念にと、夫がお揃いの物を選んでくれた組紐の御守りです。
組紐の糸は縁を繋ぐものであり、永久に結ばれるようにと」
「ああ、そう言えば狩猟大会の時も着けてらしたわね、殿下と一緒にいた時、同じような説明も聞いた気がしますわ」
おお、皇太子妃よ、思い出してくれたか。
皇太子妃は私を冷たく一瞥して言ったのだが、私はもう少し皇太子妃に自信をつけて貰いたくて、言葉を重ねる。
「ええ、そう言えば、狩猟大会で拝見した妃殿下のハンカチの刺繍は見事な物でしたわ。
皇太子殿下への愛情が見て取れるかのような」
「え、ええ、当然ですわ」
どうも昔と態度の違う私に対して困惑してるな。褒めたのに笑顔がやや引き攣っている。
お前の恋路の邪魔はしないから!
この後は特に何事もなく、適当な会話をして、ワインと軽食とデザートを食べて私は帰宅した。
ひと仕事終えた!
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