第65話 奥様、帰国する

 戦闘が終わって、一旦ハポングの本宮に向かい、かぐや姫に事の経緯を説明した。



「で、蒼海の宝珠と龍宮の乙姫様の危機と聞いて、うちの〜〜あのぉ、公爵家の者が〜〜、花街でどうしても花魁が見たかったと遊びに行ったら、心配した過保護の身内が迎えに来たってだけなのですが、騒ぎを起こしたお詫びも兼ねて助太刀したかったと言う話でして」


 う、嘘は言ってない! 私は公爵家の者!


「旅行に来た騎士が花街に行くのはよくある事なので、何をそんなに心配される事があったのか分かりませんが……」



 うっ!! 実は男装して変装してたし、本来貴婦人が行くような場所じゃなかったからです!



「花街の方から苦情などは届いてませんでしたから、別に全く関係ない方の座敷に乱入された訳でもないのでしょう。とにかく、龍宮の防衛に力を貸していただき、ありがとうございました」


「いえ、いえ、美女のピンチ、危機と聞いたら、助けに行くのは当然で」

「まあ、物語に出てくる勇者のような方」



 かぐや姫はコロコロと鈴の音を転がすように笑った。



「いえ、いえ、お詫びも兼ねてましたので」

「それで龍宮の乙姫の方からも、お礼がしたいと、招待をしたいとの事です」

「は!? 光栄ですが、龍宮は海底宮殿ですよね? 私は人魚じゃないので息ができないかと……」


「蒼海の宝珠がありますから、宮殿内は息が出来るのですよ、それに、龍宮までは海龍の骨を使った特殊な魔法外装の乗り物に乗って行けますので、呼吸の心配はいりません」

「海龍!? 亀じゃなくて海龍の骨に乗って龍宮に行くのですか!」



 ファンタジック!!



「では、招待を受けて下さるなら、準備が出来た段階で声をかけて下さいませ」

「はい! 喜んで!」



 などと、勢いよく答えた私だったが……、ラヴィが突然熱を出して倒れた!!


 慌てて呼んだお医者からは別に悪い病気とかではないけど、慣れない環境に来て、疲れと心労のせいだろうって、話を聞いた。



「お、お母様、ごめんなさい……」

「子供というのは、よく熱を出す生き物なのよ。それに、知らない場所に旅行に来て疲れたあげく、私が戦闘などに行くから、心配させてしまったのね、ゆっくり休みなさい」


「でも、お母様……美しい……乙姫様に会いたかったんですよね?」

「異国の美女より貴方の方が大切よ、世界一かわいい私の娘だもの」



 今、ラヴィに必要なのは、治癒魔法とかじゃない、私が側にいてあげることが大切なのだ。



「お母様……」

「私は隣にいるから、心配せずにゆっくり眠りなさい」

「はい……」



 ラヴィを布団に寝かせ、私も隣で寝そべりながら、布団の上から優しくトントンしてあげる。

 幼子を寝かしつけるときに。母親がよくする仕草だ。


 やがて、ラヴィも安心したのか、眠りに落ちた。


「奥様……」


そんな訳で、メアリーには子供が熱を出したので、せっかくの招待だけど、龍宮へは行けなくなったと手紙に書き、これを使者に渡してもらった。


 まあ、生きていれば、そのうちまたチャンスが有るかもしれないし! 

 海底宮殿なんて神秘的で、さぞ素敵なのだろうけど……娘の方が大事だからね。


 戦闘後の疲れがどっと来たのか、私はラヴィを寝かしつけてたら、自分も隣ですっかり寝落ちてしまった。


 気がつくと窓の外、空は夕暮れ色に染まっていた。

 午前中から夕方まで寝てたって事ね。



「茜差す、春の夕暮れ……美しい」


 龍宮にいかなくても、桜とか、竹林とか、宿の周りだけでも懐かしくて美しいからね、この国は……。



「起きたか、食事はここに運ばせよう」

「うわ、いつの間に!」



 旦那様が背後に!! 



「うわ、とは何だ」

「急にいたので驚いたんです」

「ふん」



 フンて、何よ!!


 アレクシスはちょっと部屋を出て、すぐに戻った。

 食事の手配を命じたのだろう。

 程なくして雑炊などの料理が届いた。

 胃に優しいし、出汁が効いてて美味しい。



「はい、ラヴィあーんして」

「じ、自分で食べられます」



 アレクシスの目を気にして甘えられないのだろうか?

 ラヴィも起きて雑炊を食べた。



「鯛や海老等の、魚介類と野菜から良い出汁をとってあり、良い塩も使っております」



 と、料理を運んでくれた宿の使用人が、説明してくれた。



「なるほど、美味しい訳だわ」

「お母様、私はもう大丈夫なので、今からでも龍宮に行っても……」

「いいのよ、無理しなくても。もうお断りしてしまったし、玉手箱なんてお土産に貰っても困るし」

「タマテバコって何ですか?」

「古い……物語に出て来たのよ。気にしないで。詳しくは……忘れたわ」



 嘘だけど。覚えているけど、あれ、可哀想な話よね、最後は。

 亀を助けてお礼に招かれた龍宮に行って、陸に帰ってお土産開けたら白髪の爺になるとか。


「回復したなら、そろそろ帝国に帰るぞ」

「そうですね、仕事も溜まってるでしょうし、またしばらく船旅になるけど、ラヴィは大丈夫?」


「大丈夫です……。

春は社交の季節だから、お父様とお母様には帝国の貴族達からも沢山パーティの招待が来ているのですよね」


「まぁ、そうだな。いくつかのパーティには面倒でも出なければならない」



 そんな訳で龍宮へは行けなかったけど、花魁にも会えたし、桜の苗木も貰えたし、刀もゲットしたので、ほぼ満足し、私は船に乗って家族と一緒に帝国の公爵邸まで帰った。



「帰ってきたわよ! お家に!」

「奥様、早速ですが、お呼ばれしているパーティで着ていくドレスを選んでください」

「休みが欲しい」



 メアリーの容赦ない言葉につい、そんな事をぶっきらぼうにぼやいてしまう私。



「奥様は今まで休んで旅行に行っていたのでは?」

「あ、あれも一種の外交だったの! 遊んでるようにしか見えなかっただろうけど、これでハポングのかぐや姫とも親密度アップしたはずだし!」



 などという言い訳をしながらも、メイド達が、持って来たドレスから着るものを選ぶ。


 私が旅行に行ってる間も針子達は以前のディアーナが買いまくっていたドレスのリメイク作業を頑張ってくれていて、数着見事に仕上がっていた。



「でも奥様、他の公爵家主催のパーティだけは完全新作のドレスを買って、それを着てくださいね」

「別に何度も着古したドレスじゃないから、リメイクだとは分からないと思うけどね……」



 過去に一回しか袖を通してない、新品同様のドレスを解体して他のドレスと繫ぎ合わせていたりするから。



「それでもです、格式が大事なので。予算の事は旦那様も認めておられるのですから」

「はいはい、あ、それより庭に貰った桜を植えないと」

「転送されて来たので庭には置いてあります。場所の指示が無かったのでまだ植えてはいませんけど」

「それは、早く植樹祭をやらないと桜が可哀想ね」



 庭に桜を植えましょう!

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