第64話 戦闘後の反応の違い

 半魚人達との戦闘が終了した頃に駆けつけた旦那様。



「いくらヒーローは遅れて登場するものと言っても遅かったですね、戦闘終わりましたよ」



 冗談めかした言い方をしてしまった私だったが、



「何故そなたは他国の小競り合いに介入するんだ」



 やはり説教パターンだった。

 心配や労いの言葉は……期待するだけ無駄だった。



「お世話になってるハポング国の、宝物であろう蒼海の宝珠が狙われているとか、竜宮の乙姫様の窮地と聞いて、居ても立っても居られなくて」


 

「──はあ、全く、少し目を離すとこれだ」

「心配しましたか? 私のことを」



 一応訊いておくぞ? 妻の好感度稼ぎのチャンスよ?



「何かしでかさないか、いつも気にしているとも」



 はい! 明らかな選択肢ミスですよ!

 パーフェクトコミュニケーション失敗!!



「……そこで、普通に君が心配だったとか言えないから……孤独のうちに死んだりするんですよ……」



 護衛騎士達がぎょっとした顔になる。

 周囲の空気が冷えていくようだ。



「人間死ぬ時は誰だろうが独りだろう」

「自分が死んだ時、誰も泣いてくれなかったら、どう思います?」

「そなたは自分が死んだら、誰かに号泣でもして欲しいのか?」



 アレクシスの顔には、バカバカしいって書いてあるようだった。



「……いいえ、分かりました。

確かに号泣は可哀想ですね。

もし、私が先に死んだら、貴方、泣かなくていいから、笑っていて下さいね。

そして、娘を安心させてあげて下さいね」


「……笑ったりはしない」


「爆笑しろとは言ってないですよ。

──ああ、いつものポーカーフェイスで、しばらくしたら、たまには、娘に笑顔など見せて下さいって事です。

ほら、空が青くて綺麗だとか、花が綺麗だとか、当たり前の事に感動とかして」


「残念だが、そんな当たり前の事に感動する繊細な感性は無い」


「先代公爵たる、厳しいお父様の教えに、情操教育が入ってなかったらしいのが、残念ですわね」

 

 思わず売り言葉に買い言葉みたいになってしまった。

 いつまでも合わないパズルのピースを、無理矢理はめようとしてるみたいだ。



「お、奥様ぁ~~っ!! ご無事ですか~~!? お怪我は!?」 



 メアリーが顔を真っ赤にして砂浜を走って来た。

 


「……メアリーの方が健気で旦那力が高いじゃないですか」



 私はボソリとそんな事を呟いた。

 想像以上にいつも通りの甘さゼロのクールな対応にガッカリしてしまったみたい。

 ちょっとは仲良くなれた気がしていたのにな。



「メアリー、大丈夫よ、私、どこも怪我してない。ただ、少し疲れたわね。

特殊な魔力の使い方をしたせいかしら」



 船を空中に浮かべたまま、炎攻撃が通じるようにマーマンの側の水を避けたりして……。

 かなりトリッキーな事をした。



「さっさと回復薬を飲め」



 アレクシスの冷徹な声を聞いていると、頭が痛くなって来た。

 もしかして、魔力不足になってくると、睡眠不足の時に頭痛がしてくるみたいな症状が出るのかも。


 私はポケットから魔法の転移布を取り出して、アレクシスの言うとおり、魔力回復薬を取り寄せて、それを飲んだ。



「帰るぞ、総員、撤収だ」


 アレクシスは騎士達にそうつげ、背中を向けてしまった。

 もしかして、怒らせちゃったかな?


 ──ああ……。

 戦闘の後で、気が昂ぶっていたのかもしれない。

 余計なことを言ったかも。


 良いことを言うより、余計な事を言わない事の方が、人を留める事が出来るというのに。

 でも、誰かが教えてあげないと、分からないんだろう。


 きっと経験がない。

 いたわりとか、心からの心配の言葉を、自分がもらったことが無いのかもしれない。



 それでも、後でちゃんと言い過ぎたって、謝らないと……。


 ……ああ、そう言えば、私が日本で死んだ時、泣いてくれた人はいただろうか?

 両親以外に……。



 * *



 宿に戻ったらラヴィが私の元に走って来た。


「お母様! お怪我は!? どこも痛い所はありませんか?」

「大丈夫よ、心配させてごめんね」


 私はラヴィを安心させるように抱きしめた。


「……乙姫様は無事に守られましたか?」

「ええ、マーマンは撃退したから」

「流石はお母様です。いつも勇敢で……私の誇りです」


 ……。


 や、優しい〜〜!! 私の娘優しい〜〜!!

 これだよ! パーフェクトな対応だ!!

 ちょっと旦那様の塩対応に凹んだけど、だいぶ救われたわ。

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