第57話 桜の国へ家族旅行

 ブルーベリー農園で二種程の苗木を除霊のお礼として冒険者君に贈って貰った。


 苗木は懐から出した転送魔法陣を描いた布風呂敷を出して、魔法陣の上に苗木を置き、工房へ送った。



 * *

 

 帰りが夜になったので、木の枝に乗ってこそっと上空から帰宅。

 うさぎ小屋の棚上にしまっておいた着替えを取り出してドレスに着替え、何食わぬ顔で公爵邸へ戻った。


 廊下でばったり。

 アレクシスと顔を合わせた。



「遅かったな、ディアーナ。護衛騎士の供も付けずにまた外出したんだな?」


「ちょっとハポング行きのお土産用の苗木を買っただけですし、変装もしたので、そんなに危険は無いですよ」

「全く……私はもう簡単に済ませたが、ラヴィアーナが晩餐を食べずに其方を待っているぞ」


「うそ〜〜!! 何で貴方と先に食べないの!?」


 私はそう言いつつも、慌てて食堂へ向かってダッシュした。


 食堂に着くと、まだラヴィがちょこんと座って私を待っていた。


「ラ、ラヴィ! まだ食べてなかったの!?」

「お母様とご一緒したくて」


「次はお父様と食べるか、私を待たずに食べておきなさい。

外出時の私はいつ帰るか分からないのよ」


「お母様は何故、いつ帰るか分からないのですか?」


 うっ!! 痛いところを! 遊び人は気分とその場の流れで生きてるのよ!!



「き、急に、ほら、人助けをしたりするのよ、成り行きで」

「人助け?」

「まあ、いいわ、すぐに食事にしましょう」


 私は着席した。


 食事を温め直したりする分、届くまでにまだ時間があり、またラヴィに先程の質問を続行された。



「お母様はどんな人助けをされたんですか?」

「ゴーストのいる部屋に引っ越してしまって困っている青年を助けたのよ。

除霊をしたの」

「ええ!? お母様、凄いです! 除霊ってどうやるんですか?」


「お、大声を出すのよ。私は光属性の精霊の加護もあるから、それでびっくりして低級霊くらいなら逃げて行く事があるのかもね、ふふふ」



 ギリギリ嘘は言ってない。大声は大声だった。



「わあ〜〜」


 ラヴィは瞳を輝かせて尊敬の眼差しで見てくる。

 ややして食事が出て来た。

 

 大きなチキンの香草焼き!! 美味しい!!

 クリスマスじゃなくても丸鶏が出て来る貴族の家っていいよね。


 朝になって朝食の後に、せっかく春なので、花咲く庭園で写真を撮る事にした。板状の撮影魔道具の出番である。


「アレクシス、ラヴィをその花の前で抱っこしてください」

「抱っこ? 私がか?。朝餐時に言っていたお願いとはこの事か?」


「そうです自分の娘を抱き上げてください。軽いから出来ますよね?」

「……」



 旦那様はオロオロするラヴィを無言で抱き上げた。



「二人共、笑顔よ!」


 ラヴィの表情が強張っている。

 旦那様にいたってはポーカーフェイスが崩れない。



「んもー!! 二人共!! 算術の問題よ! 一足す一は!?」

「「2」」


「よし!! ですわ!!」


「ぬ……卑怯だぞ、無理矢理口が開いた状態を記録するなど」

「素直に笑顔を作れないのが悪いんですわ。もっと普段から表情筋を鍛えてください」

「お母様とも撮りたいです」


「いいわよ、じゃあ、エレン卿、お願い」

「はい」


 私がラヴィを抱き上げようとするとラヴィが慌てた。


「お、お母様、私、重くないですか?」

「私は身体強化魔法が使えるからまだ余裕でイケルわ」



 今度は私がラヴィを抱き上げて、アレクシスも隣に立たせて、その様子を護衛騎士のエレン卿に撮ってもらった。



 * * 


 ハポング国へ行く際のお土産を揃えて出発。

 お土産はアーモンドの苗木と品種の違うブルーベリーの苗木を二種。

 ブルーベリーはその方が実の付き方が多くなると前世の園芸番組で言っていたから。


 今回は外国なので転移陣でひとっ飛びではない。

 海を渡るのだ。

 遠出なので心配してくれたのかお目付役か、アレクシスも同行している。


 ラヴィにとっては初めての船旅。

 広く青い海と、空を飛ぶ白い海鳥。

 私はオタマと小魚が入った壺を魔法陣から取り出し、オタマで掬った小魚を空中に放った。

 すると、海鳥が目ざとく嘴でキャッチした。

 その後、同じようにしてみなさいとラヴィに手渡した。



「お母様! 凄いです! 小魚を投げたら鳥さんがいっぱい集まって来ました!」

「そうね、あ、そのまま、いいわよ、とっても素敵!」


 私はカメラ機能のある魔道具で白い羽根の綺麗な海鳥と戯れる娘の写真を撮った!


 さらに甲板から海を眺めていると……


「お母様! あそこでお魚が跳ねてます!」

「飛び魚かしら? 水面が陽光を反射してキラキラしてて綺麗ね」

「はい! とっても綺麗です!」



 ラヴィは子供らしくわあわあと騒いで、いや、はしゃいでかわいいし、嬉しそう。


 それにしても……さっきからお母様とは呼ぶけどお父様! とはあまり言わないな。

 ほぼポーカーフェイスでリアクションが薄いのがいけないのでは?


「あなた、たまには、娘に笑顔を見せてあげては?」

「何故だ? おかしい事も無いのにヘラヘラと笑う事など私はしない」



 やれやれ……。

 見た目だけでも仲良し家族をやってくれないものか?



 * *


 港に着くとかぐや姫達、ハポング国の方々から歓待を受けた。

 外国のはずがこの国の方の言葉は、私には全部分かる。


 街並みも昔の日本みたいで懐かしい。

 竹林も見えた!! 緑が綺麗で爽やか!!


 和風っぽい宮廷に着いて、荷物を置いた後は、早速花見の席へ連れて行ってくれるらしい。


 川へ向かった。

 何と屋形船が用意されていた。セレブ!!


 風流な屋形船で花筏の中をゆったりと進む。

 私は魔導具のカメラを構えて観光を満喫する。


 しばらくして接岸して、川の側の花見席が用意されていた。

 見事な枝垂れ桜の側に赤い敷物。座布団。

 お重もあるし!! 完璧な花見セット!!


 近くには形の良い岩もあって、撮影したら映える!

 美しい桜の花を見ながらかぐや姫が言った。



「いい感じの大きめの石がありますし、記念に文字でも刻みますか?」

「え!? 帝国より俺参上!! とかですか?」


「ブフォ!!」


 近くにいた休憩中の兵士が口から水を吹き出した。


「貴殿、大丈夫か?」

「吹き出すでない、汚いだろう」


「い、今そこの……貴婦人が俺参上って、こちらの国の言葉で」


 吹くほど笑わせてしまったかしら。



「ふふふ、本当に公爵夫人ったら、面白い方。うちの兵士の無作法をお許しくださいませ」

「私の冗談に盛大にウケてくださったようです。ハンカチをどうぞ」


 私はサムライ風の着物を着た兵士にハンカチを渡した。


「あ、ありがとうございます」


 結局俳人でもヤンキーでもないので、文字を岩に刻むのはやめて、赤い敷物の上でお食事をした。

 重箱に入っている料理が日本を思わせる懐かしい感じの物で嬉しい。


 ちなみにお花見のBGMが琴の音と笛の音で雅!! 風雅!!

 奏者も黒髪ロングの美女とかだからテンションも上がる。



「良ければこちらも飲んでみませんか?」

「これは?」

「松葉サイダーですわ」

「松葉サイダー! 嬉しいです! 体にいいし、炭酸が爽やかなんですよね」


「まあ、よくご存知ですね」

「あ、本で見て憧れていたので」

「甘さが欲しい場合はこちらのシロップを入れてください」

「アレクシス、シロップはいりますか?」


 私は勧められたシロップを手に、世話女房などを一瞬気取ってみようとした。


「いや、私のは甘くしなくていい。これは……爽やかな飲み物だ」


 旦那様はサイダーをそのまま飲んだ。まあいいわ。

 デザートには三色のお団子やお饅頭や羊羹など、懐かしくほっとする味が出てきた。



 川の側のお土産屋も散策させてもらった。

 鉄器のヤカンはこれから注いで飲んでるだけで鉄分を摂取出来るから、購入。

 綺麗な絵のついた提灯と扇子などもいくつかお土産として購入。


 お土産といえば、かぐや姫からブルーベリーやアーモンドの苗木のお返しに、こちらは桜の苗木を二種数本ずつ貰った。片方は枝垂れ桜だ。


 公爵領とアギレイで育てよう。

 育つのが楽しみだなあ。

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