第49話 プチ刺繍の会
私はレジーナの集めてくれた文官達五人全員に面接の場で即合格を発表した。
皆一様に同じようにお礼の台詞を返してくれた。
文官の懸念がほぼ無くなったところで、専属メイドのメアリーの進言。
「奥様、そろそろ狩猟大会用の、旦那様への贈り物のリボンかハンカチの刺繍を始めないと間に合わなくなりますよ」
そう言えば原作でも読んだ狩猟大会は冬だったわね。
「メアリー、刺繍入りハンカチかリボンを買って来て貰うわけにはいかない?」
「ダメですよ、人の作品だとバレたら旦那様まで恥をかくのですから」
あ、旦那様と言えば……昨夜は助けに来てくれたのに、ありがとうって、旦那様にお礼を言い忘れたかも。
お礼代わりに刺繍するか、今忙しいからちょっと面倒だけど。
「……それもそうね。リボンの方が幅が狭いからリボンに刺繍するわ」
「すぐにご用意致します、リボンの色は何色になさいますか?」
「……うーん……アイスブルーかしら」
「旦那様のイメージカラーですね、分かりました」
ラヴィの刺繍の授業中、私は一緒に混ざって刺繍をする事にした。
ナイスタイミング。
ラヴィの家庭教師のレジーナともお話出来る。
プチ刺繍の会みたいだわ。
「そう言えば、レジーナの集めてくれた文官候補ですが、全員雇う事にしました」
「え!? 五人全員ですか?」
「ええ、差し当たって、10人位までは増やしたいので」
「そんなに不足されていたのですね」
「魔石鉱山のある領地になったのでやる事も多いのです」
「そうでしたか」
「一応新聞にも文官募集を載せる事にしますわ」
「私がお母様のお手伝いが出来ればいいんですが……」
「あら、ラヴィが将来手伝ってくれるの? 計算の強い女の子になってくれたら助かるけど……」
でも原作小説基準だといずれ聖女として魔王倒しに行くのよね。
「算術の授業も頑張ります!」
「ふふ……頑張ってね」
まあ、算数はどのみち出来た方がいいからね。
しばらくして休憩のお茶の時間になり、レジーナが今冬のメインイベントの話を振って来た。
「今季の狩猟大会はどなたが優勝されるでしょうね」
「私の夫のアレクシスか皇太子殿下ではないでしょうか? わりといつもそんな感じでしょう?」
原作で読んだ。競るのはだいたいこの二強だ。
夫はとても強いから狩りも上手。
「お父様は凄いのですね」
「そうよ、ラヴィ。ところで……今日のハンカチの刺繍はどなたにあげるの?」
ラヴィは青い糸で青い鳥の刺繍をしている。
かわいい。
ちなみに私はリボンに蔦模様を縫っている。
「えっと、お母様はリボンに刺繍されるようなので、私はお父様にハンカチを」
「まあ、アドライド公爵様は幸せな旦那様ですこと」
「ふふふ……」
私も上品ぶった笑い方をしつつ、安堵していた。
ラヴィったら、助かるわ〜〜!
私は幅が狭いからリボンを選んだけど、ハンカチはラヴィが刺繍してくれるなら、狩猟大会でアレクが人に誰からお守りを貰ったか訊かれた時に、妻と娘からって答えられるもの。
これで夫が肩身が狭い思いはせずに済むってわけよ。
「──それで、狩猟大会の時に着るドレスは、もうお決めになりました?」
「ええ、まあ、適当に。主役は男性なので」
やっば!
そう言えばメアリーがドレスカタログからどのデザインにするか決めて欲しいって言ってたわ!
忘れてた!!
「公爵夫人は最近、コルセットのいらないようなドレスを着られていますよね?」
「ええ、コルセットは内臓まで締め付け痛めてしまいそうなので、不健康でしょう?
私は女性の健康の為にもコルセット無しでエンパイアラインの、この胸の下に切り返しがあるデザインを流行らせたいのですわ」
「私も今回の狩猟大会はエンパイアラインとやらのドレスにしてみましたの」
「まあ、嬉しいですわ」
そんな雑談とティータイムを終え、再びの刺繍タイムへ突入する訳なんだけど、私はお先に失礼しますと言って、その場を後にし、急いでドレスルームに駆け込んだ。
ドレスはちまちま売ってお金にしているけど、まだまだ沢山有る。
針子に頼んでどれか改造すればいいわよね!?
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