第48話 徹夜明け。
私は暖炉の薪を見てやや違和感を感じ、つい疑問を口にしてしまった。
「暖炉の薪が廃材?」
「森に薪拾いに行けば最近は魔獣と頻繁に出くわすので、仕方なく亡くなった村人の家を解体して薪にするしかなくて……。
村の篝火は村長が魔獣対策の安全の為に、蓄えをなんとか放出してくれているのですが、村の家全てに薪を配れる余裕は無いのです」
あああっ
重い!! 話が重い!!
しかも篝火は魔獣避けになってもいないような。
ほぼ気休めじゃ無いかな、さっき普通に遭遇したし。
「そ、そうか、大変だな。
それより他の村人が外の遺体を片付けない理由は何かあるのか?」
「村人の多くが魔獣に食われて激減しているのもありますが、遺体を片付けている途中に襲われた者がいて、アレはどうも後で食べに戻る予定だったのか……埋葬しようとしていた者に対して怒り狂ってるように見えました……恐ろしくて、それに、干からびた遺体は魔獣も食べないというか、触れないのです。何か怖くて」
「熊みたいな……自分の餌場を荒らしたみたいに思われたのかな。
それと干からびた遺体は魔獣も食わない……か。
とりあえず覚えておこう」
まあ私は火葬したけど。
とにかく基本的に怖いから他の人間は引きこもってるんだな? 特に今は夜だし。
「とりあえず今夜はもう暗いですし、何も無い家ですが、ここで休んで行かれては?」
「魔獣が彷徨いていては村人もゆっくり眠れないだろう。
そうだ、干からびた遺体だが、原因は? どうしてああなった? 何となく餓死とは違う気がした」
「黒い羽で空を飛ぶ魔獣が人間の生気を吸い取っていたのを見たと言う村人がいました」
「……エナジードレイン系がいるのかな。魔獣の数はどのくらいか分かるか?」
「わ、分かりません、足跡でなんとなく複数なのは分かりますが、誰かの悲鳴や獣の声などが聞こえたらすぐに家に戻って隠れていますので」
「そうか」
猪系はともかくエナジードレイン系はやや厄介そうな……。
普通の冒険者達には手に余るか?
「また……様子見に出て行かれるなら、どうぞ十分にお気をつけて」
村人の痩せほそった体を見て、私は懐に忍ばせていた保存食を手にした。
「ああ、別に命を投げ捨てに来た訳じゃないからせいぜい気をつけるさ。
それと、ここに干し肉を置いておくから、腹減ってたら食べろよ」
「あ、ありがとうございます!!
家畜も魔獣に食われるし、狩場にも入れなくて食う物にも困っていたんです!」
「だろうな」
私はそう言って家を出た。
本当にギリギリだな。まだ生存者がいただけマシなレベルに見える。
念の為に腰の鞄に入れている魔力補給ポーションを出して飲んだ。
絨毯の飛行魔法でもそれなりに魔力を使っているからね。
村のパトロールをしていたら、不意に獣の気配を感じた。
また猪系か!!
私は身体強化魔法で近くの倉庫っぽいレンガの建物の屋根の上に跳躍した。
ドガッ!!
私に体当たりしようとした魔猪はレンガの壁に激突した。
魔猪から距離を取ってから魔法攻撃!
『ストーン・バレット!』
頭上から放たれた石の礫に頭蓋を砕かれた魔獣は倒れた。
一瞬ほっとした後で、嫌な気配を感じた。
鳥肌が立つ。
何か来る。飛んでる! 空中にいる!!
月灯りの下、蛾のような模様のある黒い羽が見えた。
ボディは人型の、羽根を持つ魔物!! そいつは邪悪な妖精のようだった。
『ファイアー・ボール!!』
即座に魔法の炎をぶつけたが、蛾の羽根のようなものが羽ばたき、魔法を打ち消した。
いや、吸収した!?
いかん、魔法使いの私と相性悪い!!
こいつが魔力を打ち消し無効化するのなら、私は、剣技は無いので困るのよ!
羽根付きの虫系には炎と思ったけど、それなら……えっと。
不吉な羽ばたきが妙な鱗粉のようなものを飛ばす。
キモイ!! 虫系嫌い!!
私は急いで距離を取って、地上に戻る。
鱗粉に触れたくないので私は風魔法結界で身を守る。
私は太ももの小型ナイフを抜き取り、風魔法を纏わせ、蛾の魔物の首を狙ってナイフを投げた。
首を穿て!
ナイフの軌道は過たず、蛾の魔物の首に命中し、敵は首が千切れながら胴も一緒に落下した!!
物理攻撃と魔法の合わせ技で何とかなった!!
ほっとしたのも束の間、同じ蛾の魔物が低空飛行でまた二体出て来た!!
「またお前かよ!!」
思わず悪態をついたその時。
ザシュ!!
袈裟がけに蛾の魔物は切り裂かれた。
青い血飛沫が舞う。
もう一体の魔物も次の瞬間、切り裂かれた。
切り裂いたのは剣だった。
そんじょそこらの冒険者とは佇まいが違う、この剣士達は……。
「このバカ者が、また勝手に屋敷を抜け出して」
「奥様、おいたが過ぎますよ」
「あ! 旦那様とエレン卿!! どうしてここへ!?」
「どうしてもこうしても、其方がまたこっそりと出て行ったと報告を受けて、追いかけて来たに決まっておるだろう」
「まあ……素早い追跡ですね」
「対策はしてあるからな。机上の文箱の手紙も見たぞ」
あの例の助けを求める文面のあるノートの切れ端は、何かの罠だった可能性も考えて念の為、人が私の行方の手がかりを探せば、すぐ分かるように文箱の一番上にしまって置いた。
でも対策って? 発信機的な物が私についてるの?
つい、自分の外套をめくってキョロキョロしてしまった。
「ディアーナ、其方、外に出る時は護衛騎士をつけろと何度私に言わせる気だ。
それに助けたいなら人を使えばいいものを」
「まだ魔物がいるかもしれないので、お説教はそのくらいで、見廻りをしましょう」
「またそんな言い逃れを」
私はそそくさと歩き出し、なおも言い訳を続けた。
「いや、ほんとに、ここが我が公爵領なら騎士を派遣するなり出来ましたが、例の以前解雇したおっぱいガヴァネス未亡人の子爵領なので、私と仲悪いじゃないですか。
お前のとこの騎士を派遣して村を救ってやれとも言いにくいし」
「他領の事に口出ししにくいのは分かるが私に言えばよかろう」
「忙しい旦那様の仕事を増やしたくなくて」
「結局こうして現地に出向いて、仕事を増やされているのだが」
「それじゃなんで自分は残って騎士だけ送らないんですか!?」
「それは心配……っ、するだろうが! ラ、ラヴィアーナが!!」
「んん? 我が公爵家の騎士の実力を疑っているのですか?」
「夜中だぞ! 騎士を色々選んでる時間もなかった」
「貴重な睡眠の邪魔をしてすみませんでした……」
「お二人とも、あんまり大きな声でお話をされますと、魔物に気がつかれますよ」
「もはや周囲に魔物の気配は無い。
しかし、エレン卿、村の要所に魔物避けの結界石を埋めておくとしよう」
「は、閣下、その作業は私にお任せを」
エレン卿が四つの結界石をアレクから受け取った。
「そう言えば、ここら辺の村には魔物避けの結界石は無いのでしょうか」
「こんな田舎にまで使う結界石の予算がないのだろう。高価なものだから」
「……この辺でいいでしょうか?」
エレン卿が村のハズレ付近で足を止めたので、私は挙手をして言った。
「はい! 私が土魔法で穴を開けます」
「あ、スコップが無かったので助かります奥様」
「エレン卿、今は奥様の姿してないからその言い方止めて」
「はあ、しかし何とお呼びすれば」
「えーと、それはその……」
「其方、その変装、いや男装はいつ止めるんだ?」
「こんなお外でお着替え出来ませんから!」
そう言って私が魔法で穴を掘って、結界石を埋める作業を、村を囲むように、東西南北の四箇所にやった。
「結界石を埋めたから当分大丈夫だと思うって村人に伝えておきましょう」
「あ、夜が明けて来ました」
朝を迎え、起きて来た村人がこそっと家の窓を半分くらい開けて外の様子を伺っていたので、私は結界石の事などの事情を伝えた。
大変感謝された。村人皆、泣いてる。
更に転移陣からパンなどの食料を取り寄せ、放置された遺体の全てを焼いて、帰る事となった。
魔法陣付きの布から絨毯を出す私。
「え、この絨毯に乗って行くのですか!? もう朝だし目立ちますよ!?」
「じゃあ私に徒歩で着替えをする宿まで戻れって言うの?」
「私の馬に一緒に乗れ。強化魔法をつけているから速い。それと馬上では喋るな、舌を噛む」
朝陽の中、私は旦那様の馬に一緒に乗って、宿へ向かった。
朝陽が……眩しい……。
私達は一旦宿に戻り、着替えて神殿に行き、転移陣を使って公爵邸に帰ると、メイドのメアリーにも文句を言われた。
「奥様は何故こっそりと出て行かれるのでしょう?」
「謎の黒ずくめの傭兵……旅人を気取ってみたかったというか、ほら、かっこいいじゃない? 颯爽と現れて困ってる人を救うの」
「もー、奥様は冒険小説の読みすぎですよ。
何かの罠だったらどうするのですか?
場所が例のクビにした女家庭教師の子爵領だったのでしょう?」
「だーかーらー、念の為に置き手紙と分かりやすいとこにヒントを残して出かけたの。
案の定騎士が来たし、思いの外到着も早かったし、旦那様までついて来たのは驚いたけど」
「そう言えば、どうしてオパーズ子爵領の田舎からの手紙がこの公爵邸に来たのですか?」
「あ、結局誰が手紙を出したのか、村人に聞くのを忘れてた!!」
「んもー、奥様ったら……」
「そんな事よりお腹空いたわ、朝食にしましょう。その後寝るから」
私は食事の後だけど徹夜で寝てないので、とりあえず寝る事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます