第47話 奥様と魔物退治


 子爵領内にある貧しい集落に魔獣の被害有り。

 冒険者ギルドにも報酬少ない割に面倒だから行く人がいない。


 私の望みはゆったりとしたスローライフではある。

 でもせっかく力有る者に転生憑依したんだし、やれる事はした方がいいよね。


 困ってる人がいて、今の私には魔法が使える。

 弱体化はしたけど、無尽蔵みたいな魔力供給源が絶たれただけで、魔力ドーピング剤とかを持って行って補えばいい。


 あらかじめ工房の中に設置した魔法陣内に、ある程度の食べ物と毛布くらいは置いておく。

 手元に魔法陣を描いた魔法の布が有るからこれで現地に引き寄せる。

 そして私自身の移動は転移陣を使う。その為には貴族でなければならないので、神殿までは公爵夫人の姿で行く。


 一応置き手紙に「ちょっと隣の子爵領に遊びに行って来る」

 とでもヒントくらいは書いておこう。

 流石に行き先を全く告げずに行方不明になったら大騒ぎになるかもしれない。


 * *


 夕方に晩餐の後、こっそりしれっと公爵邸の武器庫に行き、太もも用ベルトとそれに装備する短い刃物をゲット。

 剣士じゃないし、剣の扱いも分からないけど、腰に万が一の為の短い剣も拝借。

 傭兵っぽいスタイルの装備一式を魔法陣に突っ込み、一旦自分の工房へ転送する。


 これでひとまずよし。

 夜になって闇に紛れ、騎乗用のパンツスタイルでこそっと公爵邸の工房の窓から出る事にした。

 フード付き外套を被り、窓から外に出る為、絨毯に飛行魔法をかけて飛んだ。


 闇に紛れて公園にこそっと降りて、絨毯を転送魔法陣に突っ込む。


 公園近くの夜までやってる魔法道具屋でマジックポーションを購入し、それから馬車で神殿へ。


 神殿で「何故夜中にお一人で?」とか、「何故ドレスじゃないのですか?」と、巫女達に質問されたけど、「馬で朝日を見に行くから」と答えておいた。

 私の挙動が怪しいけれど、公爵夫人の命令には逆らえない。

 私は無事神殿の転移陣を通過した。


 安い宿屋を一泊分借りて着替えと変装をする。

 転送魔法陣から傭兵装備一式を取り寄せ装備する。


 そして黒髪で男性の傭兵に変身し、魔道具で声も変える。

 またフード付き外套を被って宿屋から速やかに出る。

 空飛ぶ絨毯で魔物が活発に活動する夜のうちに移動するのだ。



「よし、月灯りと風の精霊のナビを頼みに飛ぶぞ」



 絨毯に乗り、空を飛ぶので障害物がないし、辺鄙な場所でもわりと早く着いた方だと思う。


 夜に魔物の襲撃が有るせいか至る所で篝火が焚かれているので、田舎でも見つけ易かった。



 ギャアアア!!


「きゃあああっ!!」

「うわあああっ!!」



 早速魔物の声らしきものと人間の悲鳴が響いて来た!!

 私は悲鳴の聞こえた方向に空を飛びつつ急いだ。


 眼下に貧しい集落の家。


 魔獣に表玄関が破壊され、どうやら家の裏手から逃げたが、裏手にも魔獣がいたらしい。

 夫婦らしき男女が二匹の猪の魔獣に挟まれている!!


 私は空飛ぶ絨毯の上から二匹の魔獣に狙いを定め、魔法攻撃!!



『穿て! ストーン・バレット!!』



 石の礫が二匹の魔獣の頭部を正確に撃ち抜く。


 夫婦の目の前で魔獣猪の頭部が弾け、血飛沫が月夜に飛び散るし、空中から突然現れた私にも驚いたのか、二人は地べたにへたりこんだと思ったら女性は気を失った。

 男は慌てて女性を支え、腕に抱く。


「この集落周辺に出る魔物はこの猪の魔獣二匹で終わりか?」



 私は魔道具で低い男の声を出して、傭兵を装って問うた。

 村人男性は震えながらも答えてくれた。



「た、多分ま、まだいます。猪じゃないのも」


「そんなにか」


「は、はい。

ぼ、冒険者の方、ようやく来てくれたんですね。

お助けくださり、ありがとうございます」



 私を冒険者と勘違いしてる。



「ギルドは通していない。たまたま通りかかった旅の傭兵だ」

「あ、そ、そうなんですね、失礼しました」


「あの魔獣の猪は畑じゃなくて人間を狙うのか?」

「ふ、冬なので畑に収穫もないから、人間を襲い始めたのかと」

「なるほど雑食だ」

「はい……」


「ところで、玄関の扉をぶち破られてるが、大丈夫か?」

「そ、倉庫に古い板があるので、ひとまずそれを立てかけておきます」


「そうか、俺は周囲にまだ魔物が居ないか見て来るから、扉の応急処置、頑張れ」

「は、はい。通りすがりなのに助けてくださって、ありがとうございます!!」



 男は既に滂沱たる涙を流していたが、頑張って気絶した女性を運ぼうとした。

 だが、恐怖の為か、足元がおぼつかない。見てられない。



「あー、その様子じゃ女性を落としそうだな、俺が運ぼう」

「あ、ありがとうございます、すみません、私の妻なのに」

「困った時はお互い様だ」



 やはり夫婦だったようだ。

 私は自分に身体強化の魔法をかけて女性を抱えてベッドまで運んであげた。



「ありがとうございました。後は大丈夫です、私は壊れた扉を塞ぐ板を倉庫に取りに行きます」

「ああ、じゃあな」


 私は今度こそ一人で周囲のパトロールをする事にした。

 先程派手に悲鳴が上がった割に、外に出て来る村人がいないのは……怖がって家の中で震えてるのかな?


 それとも……。


 あ、道端で倒れてる人がいた!

 私は慌てて駆け寄ったが、既に事切れている。


 骨と皮ばかりになった、干物みたいな死体だった。

 え? 餓死? それともエナジードレイン的な何か?

 私はゾクリと鳥肌が立った。


「なんで遺体を放置しているのか……人手が足りないのか? それか魔獣が怖いから家に引きこもっている?」


 ともかく遺体に手を合わせてから、髪の毛の一部をナイフで切り取り、そっとハンカチに包んだ。


 そして干物のような腕にはめてあった木製の腕輪を抜き取り、ハンカチと共に個人特定用の遺品として近くにあった樽の上に置いてから、干からびた遺体を火炎魔法で火葬にした。


 だいぶん干からびていても、遺体を放置すると、疫病が派生しかねないし、アンデッド化されても困る。


 ひとまず他の魔物についてと、遺体を放置している理由をさっきの男に聞くべきか。

 私は先程の家に戻って聞いてみる事にした。

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