第46話 雪祭り最終日と翌日のお使いデート

 雪祭りの最終日は、原作でヒーローのハルトも招待した。

 接待は将来の恋人たるラヴィに任せた。

 そんで一緒にカマクラにも入ってもらった。


 最終日なので氷漬けのお魚を魔法で解凍して汁物にしたので、カマクラの中で二人にはそれを味わってもらった。

アラ汁っぽい何か。


 白いカマクラにラヴィとハルトは火鉢の火にあたりつつ交流。

 かわいい。

 乙女ゲームならスチルがあってもいいくらいのシーンだわ。


 私は例のオークションでゲットした、スマホサイズの魔道具のカメラで撮影をして記録をした。

 これで何度でも見返し可能ってものよ。



 アラ汁はいい出汁が出て、温かい食べ物に雪祭りに集った平民達も皆、喜んでいた。


 ややしてラヴィとハルトは他の子供達と交代し、カマクラから出て来た。

 そしてハルトが私に問うて来た。



「アドライド夫人、何故兄弟の中で僕だけ招待してくださったのですか?」

「え? あなたのお兄様達は寒いのが嫌いで、スケートにも参加しなかったって言ってたじゃない? 

ここは野外で寒いし仕方ないじゃない?」



 これは言い訳である。



「ここだけの話ですが、あの兄二人は運動が苦手なんです。

令嬢の前で転んだら恥ずかしいと思ったんだと思います」

「あらーそうだったの〜〜、でもプライドがあるだろうから知らなかったふりをしててあげないとね!!」



 ラヴィのヒーローはハルトなのだし、他は絡まれても困るのよ。

 運動が嫌いなら将来的に戦力にもなりそうにない。


 私は話を逸らすためにラヴィとハルトを別の場所に誘導する。



「そろそろイリュージョンの時間だわ。二人とも、大樹のレリーフの前へどうぞ。歌手の歌もあるわ」

「「はーい」」



 やがて光のイリュージョンで妖精の森の演出を終えて、拍手が響いた。

 イリュージョンの魔力行使の間は騎士にカメラ撮影を頼んでいる。

 キラキラ光る光のイリュージョンとそれを並んで眺めるハルトとラヴィのほのぼのメモリアル。


「……ふう」

 

 一仕事終えて、私は安堵のため息を吐いた。

 後は初日と同じように酒飲み達が勝手に盛り上がって祭りを飽きるまで堪能するだろう。



「さあ、暖かい公爵邸に戻りましょう。ハルトも用意したお部屋でゆっくり休んでね」

「はい、他所にお泊まりは初めてなので嬉しいです」



 素直である。


 ハルトは一泊して、本日は朝からラヴィと街デートだ。


 私が二人にお使いを頼んだ。

 護衛騎士はもちろんついてるけど、私の、親の目のない所でワクワクドキドキのかわいいお買い物デートをして欲しかったのだ。


 ちなみにお使いの買い物内容は便箋とかインクとかの文房具とお菓子を頼んだ。


 二人の外出中に何気なく庭園に設置したポストを見に行った。

 雪のせいで湿ってないかな? と。


 そして中を開いて見たら、なんと妖精ポストに手紙が届いてる。

 今は妖精不在アピールに魔法陣は閉じているから、手紙は私の工房に転移されず中に残っている。


 私は手紙を工房に持ち帰り、その中身をこっそりと読んでみた。


 貧しい地域から、魔獣の出現で困っているけど、頑張ってかき集めた金でも依頼料金が安く、冒険者が助けに来てくれないといった悲痛な内容だった。


 ちゃんとした便箋ですらなく、薄汚れた粗末なノートの切れ端のような……水濡れや血痕まである。

 おかしいな? 公爵家の妖精のポストに何故こんな物が……。


 そして宛先は、妖精さんへではない。手紙のサイズも通常の人間宛の大きさだ。


 もう誰でもいいから魔獣の襲撃から助けてほしいという感じのものだ。

 その貧しい地域に住む人間の手紙が何故公爵家の庭園にある妖精ポストに届くの?


 まさか本当に妖精がいて私の元へ? いや妖精がいるなら自分で解決……は、無理か。

 戦闘向き妖精じゃないんだろう。

 ……外部の人間が……屋敷の人間に託して入れて貰った可能性もある?

 まさかハルトでも無いだろうし。


 そもそもハルトには妖精のポストの事なんて私は話してない。

 いや、ラヴィが妖精の話をした可能性はあるけど、ほぼ家を出ない、伯爵家でほったらかしの三男坊にこんな手紙を託す平民の知り合いが今の時点でいるとも思えない。



「二人とも、お帰りなさい。お使いありがとう」

「お母様、雑貨屋に綺麗な便箋がありましたよ」

「ええ、ラヴィもハルトも本当にありがとう」



 二人の頭を撫でてやる。



「それと、お母様、雪祭りと炊き出しの件が新聞に載ってましたよ!」

「あ、あらそうなの」



 ラヴィが買って来た新聞も見せてくれたけど、悪い事は書いてなかったから、よかった。


 しばらく雑談などして、ハルトの帰る時間には伯爵家まできちんと騎士に送らせた。

 二人のお使いデートの内容も気になるけれど、それよりももっと、私の心は苦難に喘ぐ、力無き人の手紙の件でいっぱいになった。


 胸が……苦しいな。

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