第44話 炊き出しと小さな雪祭り
吹雪の後に、空を見上げた。
まだ薄曇りの明け方の冬空。
カマクラや雪のオブジェを作りに行く。
雪景色中に公園の広場に集まった人達が白い息を吐いている。
寒い中すみません。
早速カマクラの作り方を集めた人に指示を出し、道具を配る。
「この魔法で強化されたシャベルを使って」
「「「はい」」」
更に招いた彫刻家にも背景付き大樹とかを作って貰う。
持ち手の先がYの字の形をしている魔道具のコテも取り出して配る。
「これは火の魔石を嵌め込んだコテのような物よ。
あの、女性が巻き髪にする時に使うようなコテを
熱を出す時は持ち手の方についてる赤の石を指先で二回擦って、消す時は青の石を二回擦る」
「なるほど、氷を削るのは初めてですが、頑張ってみます」
私も魔法で雪や水や氷を運んだり、サポートもしつつ、作業を進めた。
そして……ついに完成した。
カマクラ7個と、野菜のオブジェと氷漬けのお魚博物館。
大きい氷の壁に背景付き大樹のレリーフのような物。
初めて使う道具なわりに皆、よくやってくれた。
「皆ありがとう、ご苦労様! 温かい飲み物と食事も用意しているから、休んでちょうだい」
「はい!」
「ありがとうございます」
美味しい海老と貝から出汁を取った味噌汁を職人達にふるまった。
配膳は孤児院の子達が配るのを手伝ってくれる。
お手伝いで後で食事とお小遣いが貰えるので喜んでいる。
魚とワカメと貝などが具として入っている。
おにぎりと漬け物とパンも配る。
パンはおにぎりが苦手な人がいた時の保険だ。
「ほら、何人か一足先にカマクラに入ってごらんなさい、そこでお味噌汁を飲むの」
何人かがカマクラの中に入った。
小さな椅子もちゃんと置いてる。
「あー、あったまるし、美味しい」
「生き返る」
「凄い高級な海老で出汁を取ってると聞いたぞ。本当に美味い」
皆が味噌汁に舌鼓をうっている姿を見てホッとする私。
「作業を頑張ってくれた職人の皆はこの後、私の領地の温泉に招待するわ。特別に今回は転移陣が使えるから、存分に温まってね」
わあっと、嬉しそうな声が上がる。
温泉旅行など普段はしないのだろう。
平民は転移陣を使えない。通常は皇族、貴族階級のみ。
転移陣使用にはかなりの魔力を使うので、高価なのもあるけど、治安維持の為でもある。
使わせる時は貴族の付き添い付きで、高位貴族の責任下に入ってる時。
そして遠方にて魔物などの討伐依頼を受け、許可のある時は平民でも使えるけど、やはり特別な事情がある時のみだ。
今回は私が責任を受け持って食事休憩の後で温泉に連れて行き、温泉を満喫して貰った。
* * *
そして炊き出しと雪祭り本番の夕刻。
ただ飯が食えると聞いて、結構な数の人が寒い中現れた。
私はラヴィとメイドのメアリーと護衛騎士も一緒に連れて来た。
もちろん会場警備の騎士も配備してある。
お土産も用意した。
ラヴィと一緒に選んだマフラーと手袋とパンとお菓子である。
今日のラヴィは毛皮付きの白いポンチョ系コーデで雪の妖精のようにかわいい。
私も銀狼という魔物の毛皮のコートを着てる。
魔法の灯りがカマクラや雪のオブジェを神秘的に照らす。
「お姉ちゃん、雪のかぼちゃがあるよ、あっちはお魚が凍ってる」
「凄いねぇ」
「おとーさん、あの丸いやつ穴空いてる」
「カマクラと言ってこの中に入れるんですよ、温かいシチューを貰ったら入ってみてください」
「シチュー!」
会場に配備した案内係が親子連れに解説してくれる。
「食事はここで配ります、シチューとパンです!」
配膳係が声をかけたらあっという間に行列が出来た。
すっかり空は暗くなって夜。
ある程度人々が食事を受け取ったタイミングでショーの始まり。
楽師まで呼んだ。
大樹のオブジェの前では私自ら、光の精霊を動かして、妖精の森のような神秘的な風景を作り出す。
ハープ奏者と横笛の美しい調べに乗せて。
前世で見た光のイリュージョンのような物だ。
「キラキラしてる!! 綺麗!」
「わあ……きれい! お母さん、あの光は妖精さんが飛んでるの?」
「そうかもねえ、不思議ねえ」
そんなに長いショーでは無い。
後は魔法のランタンなどで照らして貰う。
「穴の中でお食事するって不思議!」
「おもしろーい」
「ここに火鉢があるのに、このほら穴みたいなのは溶けないの?」
「基本的に外が寒いから簡単には溶けないんじゃないか?」
「この後、お土産まで貰えるらしいぞ」
「シチュー美味え」
「パンも柔らかくて美味しい」
私は何気にホットワインも用意してた。
テーブルの上に並べてある。
チラチラこちらを伺ってるお酒好きがいる。
「そろそろホットワインも配りましょう」
「はい、奥様」
「こちらホットワインです! どうぞ!」
「やったー! 酒まである!」
いつの間にか平民の中から楽器を鳴らしたり、歌う集団も合流して来たのでさらに賑やかになった。
私はこの光景をスマホサイズの魔道具のカメラで撮影した。
「寒くて嫌な冬だと思ってたけど、今日は楽しくていい日だな!」
「アドライド公爵家に栄光あれ〜〜ウィック」
「お前、飲み過ぎるなよ」
「お帰りの方はこちらでお土産をお渡しします。
同じ人はダメですよ。二回とか並ばないでくださいね!
お土産の数には限りがあります!」
「クッキーとマフラーと手袋とパンだ!」
「やったー!!」
初めての雪祭りはわいわいと賑わっていて、成功だったといえよう。
私は満足して頷きながら言った。
「うん、盛況だわ。三日目の最終日には氷中のお魚を鍋に入れて振るまうとしましょう」
「皆、喜んでますね」
メイドのメアリーもこの平和な光景を眺めてそう口にした。
よし!!
私の隣にいるラヴィに声をかける。
「ラヴィはもう帰ってお風呂に入って寝なさい」
「じゃあ、お母様も一緒に帰りますよね?」
……ラヴィは私の手を握っていて離さない。
本当はこの賑やかな祭りの光景を見ながらホットワインを楽しもうと思ったけど、娘がそう言うので帰る事にした。
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