第42話 星見の塔からの使者

 よく考えたら、時は金なり。だわ。

 自分で領地のトイレをちまちま作ってる暇があったら、私しか出来ない事をしたほうがいいのでは? 

 ラヴィの母親は私だけなので、ラヴィと遊んであげるとか。


 やっぱり地元の大工に任せよう。

 雇用が生まれて収入を得る人が出る訳だし、疫病の心配で焦り過ぎたけど、まだ先の話だし。


 寒い冬は温室内で植物を眺めながらの散歩は、思考をまとめるにはちょうどよかった。

 この中は寒くないからね。


 散歩の帰りに、庭園内で食料品などの出入りの業者と使用人が会って話をしていたのを、たまたま耳にした。


 私は常緑樹の後ろに隠れて聞き耳を立てた。

 内容が私と関わりありそうだったので。

 話の内容はこのような物だった。



「聞いたか、花街に面白い店が出来たらしいぞ」

「面白い店?」

「普通の飲み屋じゃなくて、そこじゃ女の子が胸を見せてくれたり、触らせてくれる店だよ、オッパラとか言うらしい。今凄く人気があるんだ」


「それって下が飲み屋形式の娼館じゃないのか?」

「違う、本番はいらないけど、胸は見れるし触れる。

無論その分の料金は支払う事になるが、娼館よりは安く遊べる」


「へー、面白そうだな。

ひと月前に恋人に浮気されて別れたし、俺も遊びに行こうかな」

「なんだ、お前浮気されたのか」

「それが浮気相手がさ、筋肉凄くて逞しいんだよ、俺はあんなに鍛えて無いから物足りなかったらしい」


「あー、じゃあ一緒に憂さ晴らしといくか、最近寒いし、あったかくなれる所に行こうぜ」

「おう! 流石俺の幼馴染、付き合いがいいぜ」



 と言う感じだ。

 オッパラは繁盛しているらしい。

 良かった。私がそそのかしたお店が爆死しなくて。


 私は店の繁盛結果が聞けて満足し、邸宅内に戻る事にした。

 それにしても、さっむ! 寒い!!

 どうも幼馴染の間柄らしい使用人と出入り業者の話を立ち聞きしてたら、体が冷えちゃったわ。


 コートの前を引き寄せ、温かいお茶を飲もうと、足早にサロンに向かった。

 廊下を歩いていたら、仕立ての良いローブを纏った使者が、執事によって旦那様の執務室へ案内されているのを見つけた。

 あのローブからは魔力を感じる。


 興味を惹かれた私はサロンから執務室へと行き先を変更した。

 私はしれっと執務室に入り、旦那様の隣に立った。

 旦那様も別に出て行けとかは言わないからいいんだろう。



「星見の塔からの連絡によれば、寒波が来て大雪になるそうです」


「そうか、寒さへの備えと対策が必要だな。国境警備や商人ギルドにも知らせを。

商人達が雪道で立ち往生しないように」

「かしこまりました」



 なるほど、大雪か……。

 私はふと、思いつきを口にした。



「雪が積もる程に降る……。吹雪が止んで晴れた時に、救貧院、もしくは公園かどこかの施設で温かい食べ物でも配るようにしましょうか」


「それは……やってもいいが、其方が直接行く必要はないぞ、人を手配すれば良い」

「……こんな時こそ私が行くべきですね」



 かつてディアーナが贅沢三昧したツケを私が支払わなければ。

 悪いイメージを少しでも減らす。


 ついでにラヴィと雪遊びもしようかしら?

 雪うさぎとか作って。



「そうなると……護衛が必要になるな」


 旦那様は渋い顔をしつつも護衛騎士のリストを手にした。


「雪が積もって、いっそカマクラなども作ってイベントにしてもいいですし、

温かい食べ物も配りやすいし、多少の娯楽も提供出来るじゃないですか」

「イベント? カマクラ?」


「カマクラは雪をドーム、小山のように盛り、たまに水をかけつつ雪を踏み固め、次にドーム型に成形した雪山に穴を空けて雪山に入り口を作ったものです。そして中身をくり抜いた形状のカマクラの中で温かい物を食べたり飲んだりするんです」


「わざわざ寒い中でそんな事を?」

「雪のある冬にしかできない事なので」


 旦那様は寒い中でわざわざ酔狂な事をするなぁと言いたげな顔をしているが気にしない!

 使者はとりあえず報告を終えて帰って行った。


 そして寒さでふと思い出した。

 前世、庭でメダカを育てていた時、寒波、大雪が来ると心配になったものだ。



「公爵領でお魚の養殖業をしている所ってありましたよね?」



 庭園の害虫を餌にした記憶がある。



「ああ、池や沼が多くある地域はやってる事が多いな」

「私の私財で風の魔石を支給しようかしら、凍結でお魚が死なないように。

寒さに強い種ばかりではないでしょうし」

「そのくらいなら好きにしろ」



 旦那様の許可も出た。



「そう言えば執事見習いの、エビ取り名人の少年に使いに出てもらおうかしら」


 私はケビンと言う名の少年をスカウトしていたのだ。


「奥様、執事見習いのケビンでしたら、おそらくうさぎ小屋の世話をしている最中だと思いますが、お呼び致しましょうか?」



 執務室内に待機していた執事がそう言ったけど、自分で行こう。



「私が魔石に術式を刻んでから自分で行くわ、うさぎの様子も見たいから」


 私は一旦工房へ行き、風の魔石に術式を込めてから、うさぎ小屋に行ってケビンに会った。


「いい? ケビン。この風の魔石を水場の近くに設置して貰うのよ。

あくまで凍結しない程度に周囲からの過剰な冷気から守る感じ。

空気はちゃんと通す設定だから」

「はい、奥様」


 ひととおり説明をして、魔石を袋詰めにした物を渡し、養魚場の人に凍結防止の風の結界魔石を配って貰う事にした。

 まだ子供なので念の為大人の付き添いもつけるけどね。

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