第41話 おもてなしとドスケベ案件

 デミグラスソースの煮込みハンバーグ、柔らかいロールパン、茹で卵と葉物野菜のサラダ。

 そして生ハムなどもお出しした。



「おお、何という旨味たっぷりの肉汁、そして肉であるのに、かくも柔らかく……ソースも濃厚でありえないほどの美味さ。パンもふわふわで柔らかくて美味しい……公爵家の料理人は天才なんでしょうか?」


 煮込みハンバーグも柔らかいパンも私が前世で入手したレシピを提供してるけど、手間暇かけて料理を作ってくれたのは料理人達だ。


 ちなみに賢者様は見た目がおじいちゃんなので、カリっとしたバゲットよりも念の為、柔らかいパンを添えた。


「ひき肉製造機という機械がございますの、それでお肉を細かくしてから丸く固めてあるので、柔らかくて食べやすいのですわ。

ソースはもちろん丁寧に作られた味に仕上げてあります」


「正直王都のレストランに招かれた時よりも衝撃を受けております」

「まあ、賢者様にそこまでお気に召していただけて、嬉しく思います」



 煮込みハンバーグが特にお気にめしたようだけど、ハムやサラダもちゃんと召し上がってくれている。


 何しろペンダントの呪いを消してくれた恩人ですもの!

 私はホホホ、と貴族の奥様らしく笑ってみる。

 上品セレブ演技!


 ラヴィも滅多に見れない客人に驚きつつもチラチラと賢者様を見てる。

 なお、話しかける勇気はないようだった。



「奥様、スムージーはもうお出ししても良いのですか?」


 執事が私の側に来て耳元で囁く。


「そうね、胃もたれ防止用のキャベツとバナナとヨーグルトが入ってるし、持って来てちょうだい」


「む、これもトロトロとして美味しいですな」

「胃に優しいお野菜が入っておりまして、それと相性のいい南国のフルーツも」

「ほう……胃の心配までして頂いて」



 いただきもののバナナの力でだいたいどうにかなる。

 賢者様は興味深そうな顔でスムージーを飲んでいる。


 そしてなんと無口な旦那様が執事を手招きしておかわりを要求した。



「もう一杯」

「かしこまりました」

「いや、今日は本当に美味しい物を食べさせて頂き、若い頃を思い出しました」

「若い頃と言うと?」


 よほど美味しかったのか、スムージーをおかわりした旦那様が話を促した。


「美味しいと評判の食事処に、並んでまで食べていた時代がありましたが、ここの料理は並んででも食べたい美味しさでした」

「まあ、そこまで。料理人に伝えておきますね、きっと喜びますわ」



 食事会が終わり、賢者様もお帰りになった。


 * *


 深夜。


 ペンダントの呪い問題もこれで解決したし、ここは祝い酒でもパーっと飲みに行くか!!

 私は再び公爵邸をこっそりと抜け出し、完璧な変装、男装で花街へ来た。


 大通りを歩いていると、見知った男に声をかけられた。

 先日の客引きだった。



「あ、この間の旦那!」

「やあ、景気はどうだい?」

「いやあ、旦那の発想が面白いので、上に話したんだよ、ほらあの女の子のおっぱいが触れる飲み屋!

経営者が採用する事にしたよ、違う新店舗でだけど」

「何と!」


 この世界におっパブが出現した! 歴史的瞬間!!



「まだ準備中だが、ぜひ見て行ってくれよ!」

「まあ、準備中の店舗を見るだけなら怒られないかも……」


「ここだよ。まだ店名も決めて無いらしいけど、何か案はあるかい?」

「ん? オッパイパラダイス、略してオッパラでいいんじゃないか?」

「お、いいなそれ」



 紐パンのみの女の子が何人か店内にいた。

 今は知り合いと店員さんのみの状態らしい。



「え? 女の子の衣装はパンツのみ?」


 せめて最初はエプロンとか着けても良くない?


「だって胸を見て楽しんで触るんだし、上の服はいらないのでは?」


「あーしかしな、脱がす楽しみとかがあってもいいじゃないか?

全裸よりも着衣の方がエロいんだし、相手に目の前で脱いで貰うのも、自分で脱がすのも、ドキドキワクワクすると思う。だから最初はブラウスとミニスカートくらいは履いてる方がいいよ」


「な、言われて見れば! 旦那は天才か!? ところでミニスカートって?」


 いやあ、それほどでも。普通だよ。


 ところでこの反応からして、この世界にはミニスカートがまだ無かったようなので、私はポケットから取り出した手帳に鉛筆でシャツとミニスカートの女性の絵を描いて見せた。



「うわ、スカート短っ!」

「あ、銅貨数枚で女の子のミニスカート捲れるサービスを追加してもいいかも」


「だ、旦那の発想がドスケベ過ぎて素晴らし過ぎる! 金儲けの天才では?」


 おっパブを最初に考えた人は確かに天才かもしれないけど。

 とにかく本番無しのオッパイサービスだけなら女性が深刻な病気になって死ぬリスクは減ると思うし、明らかにただの飲み屋よりはエロいから給料もいいはず。



 黒い服の男が私達の側に近づいて来た。



「こんばんは! 経営者です! 話は聞かせてもらいました!

アイデア料を支払うからさっきのも採用させて欲しいのですが!」



 おっと! 経営者登場!!



「俺にはお金払う事ないから、アイデアは好きに使って、お金は女の子達に還元してやって。

夜職の女の子は大抵お金に困ってるんだろうから」


「何と! ドスケベなのに、なんて優しい人だ!」



 褒められているのか貶されているのか分かんない!!



「まあ、とにかく、お店、成功するといいですね!」

「きっとウケます!! ありがとうございます!」



 バタン!! 

 急に店の扉を開けて来たフードの男がこちらを見た。



「あ、すみません、まだ準備中でして」


 店員がそう声をかけたけど、猛然と私に近いて来る男。

 男のフードの下の顔がチラ見えした。

 あ!!

 またも変装した公爵家の騎士登場じゃん!!



「違うんだよ、これは!! ある意味女性の生活と命を救う為の、知恵を貸すだけの行為で」



 私は自分を連れ戻しに来た護衛騎士に言い訳を始めたんだけど、



「分かりました、帰りますよ」



 またも護衛騎士によってオッパイパラダイスから引きずり出されて行く私。

 公爵邸に強制送還である。


 今回はまだお酒の一杯すら飲んでないヨー。

 そしてまた馬車内で騎士の説教をくらう私。



「何で夜中にこっそりと外に出かけるんです!」

「祝杯をあげようとしたの!」

「邸宅内で飲んでください!!」


「邸宅内に友達いないの! 一人飲みは寂しいの!」


 う、自分で言って悲しくなってきた。



「だ、旦那様をお誘いしては」

「あの人忙しいから、夜はゆっくり寝かせておいた方が良くない?」

「奥様がこっそりと花街になんて、ゆっくりどころではないですよ」

「黙っててくれたらいいのよ」


「そんな訳にもまいりません。お酒は……非番の騎士にでも声をかけてください」



 ふーん。



 * *


 仕方なく、その夜はまた大人しく自室で朝まで寝た。

 春の庭でブランコを漕ぐラヴィの夢を見た。


 私は起きるなり、メアリーに筆記具を要求して、紙に作りたい物を絵に描いた。

 そして昼には自室でマッタリとティータイムを楽しんでいる時、旦那様が昨夜の事で説教しに来た。



「すみませんでしたー。ところで、春までにやりたい事があるのですが」

「今度は何だ?」


 旦那様は何をやらかすつもりだ? という目で私を見て言った。


「公園に子供が遊べる遊具を設置したいのです。滑り台にブランコとか」

「公園に遊具?」



 私は旦那様に紙に描いた滑り台とブランコの絵を見せた。


「ブランコくらいなら公爵邸の庭園にあっても素敵だと思いますよ。


 春には花も飾って、私が撮影したいので。

 ラフな図案だけはこのように描いておいたので、ブランコは大工に頼みましょう。

 滑り台は、部分的には私の土魔法で多分どうにかできます」


「はあ、おかしな物でないなら許可するが」

「ブランコはとりあえずラヴィの為に作りますが、大人が乗っても場所によっては映えて素敵なのですよ」



 呪いのペンダント騒ぎのせいで、まだオークションで落札した、カメラ機能のある板のような魔術具の出番がろくになかったのだ。

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