第40話 青の塔からの客人
「奥様、旦那様が皇都よりお戻りになりました」
「なるほど皇都に行かれてたのね」
ややして私は旦那様に公爵邸の中にある祭壇の間に呼ばれた。
旦那様は一人の老人を連れていた。ローブを着た魔法使いのような装い。
「ディアーナ、青の塔に行って賢者を連れて来た」
「え?」
賢者ってあの賢者!? 魔法使いのトップ?
「あの例の贈り物のペンダントだが、やつに身に着けているのが見たいなど請われる事が無いとは言えない。
解呪か術式書き換えが出来ないかと思って、賢者を招いた」
え、あ、解呪か、書き換えか! その発想は無かったわ。
厳重に封印くらいしか。
確かに人の能力奪おうとする厚かましい男なら、身に着けている所見たいとか、いらないなら返せとか言わないとも限らない。
そうなれば私以外の誰かが犠牲にならないとも限らない。
将来的に癒しの力を得るラヴィあたり危ない可能性がある。
でも、賢者にはそんなの話して大丈夫なの?
という不安めいた眼差しで賢者を見たら、旦那様が私の考えを読んだように言った。
「この方は大丈夫だ。信用していい」
氷の公爵……貴方でも信頼出来る方がいるのですね。
などとちょい失礼な事を考えたところで、賢者が口を開いた。
「神との契約で大いなる力を得ておりますので、私は契約には誠実です。
秘密は守ります。重ねて言いますが、私にとって契約は絶対なものなのです」
旦那様と秘密を守る契約をしたのね。
契約だけはちゃんと守るとか言われると悪魔の契約みたいだけど、青の塔の賢者も契約は大事なのか。
魔法使いは魔法や神秘の知識への探究心がとても強く、それを得る為ならば手段を選ばない人が多いと聞くけど……いや、悪魔みたいなんて失礼か、神との契約であれば……。
「そんな訳で、封印中のアレを持って来てくれ」
「はい、分かりましたわ」
私は工房の隠しスペースに封印していた箱に入れたペンダントを持って来て、箱を開けて中身を見せた。
「これです」
「ふむ……これはこれは、黒の波動を感じる術式ですな」
「どうだ? 解呪は可能か?」
「神酒と聖水と月桂樹の葉で解呪を試みます」
空中にかざした手のひらの前に魔法陣が出現し、そこから物を取り出した。
流石賢者、
テーブルの上に魔法陣を描いた布を敷き、その上に見た目が聖杯のような
ゴブレットの中にペンダントを配置し、透明な聖水、赤ワインの神酒を注ぎ入れ、最後に月桂樹の葉。
するとそれは不思議な光を放った。
おお、ファンタジー!!
──術式開始。
賢者が呪文を唱える。
『光よ満ちよ、水の清らかな力以て、浄化せよ。
解け、解けよ、疾く解け、神秘の御技よ、我は大地と神に礼拝する。
黒き悪しき術を消しさりたまえ。
聖なる葉、英霊の光輝、破魔の力よ!!』
ゴブレットの中の赤いワインが蒸発し、葉は跡形も無くなった。
中に残ったのはペンダントのみ。
「どうなった?」
「解呪は成功し、これはもはや、ただのペンダントです」
「良かった……」
「ディアーナ、それでは、これを身に着けるか?」
「私には貴方に貰ったブレスレットが有りますから、これがお守りです。
他の男性から貰った物など、心臓に近い位置で身に着けたくは無いので」
私は旅行先で買って貰った色違いの旅の記念のブレスレットをちゃんと手首に身に着けていた。
ラヴィに言われて買った物でも、この人がくれた物には違いない。
「……そうか」
「でも万が一皇太子が人前でペンダントをつけて欲しいと駄々をこねるなら一瞬くらいは着けないといけないかもしれませんね。何しろあちら皇族ですから」
「その場合は仕方ないな。それを考慮して解呪のために青の塔まで出向いて賢者まで呼んだ」
ところで、賢者様への報酬ってどのくらい積んだのかしら?
でもここで聞くのはかっこ悪いわよね。
公爵夫人が依頼料の金額を気にするなんて。
しかも命のかかった案件だし。
私は旦那様の瞳を見つめて言った。
「アレクシス、とにかく私の為に賢者様を呼んで下さってありがとうございました」
「妻を守るのは夫の務めだ」
あらあら。
私が心配だったからって言えばいいのに。
──まあ、いいか。
「賢者様には美味しい食事でも用意させますので、どうぞゆっくりしてらしてください」
せっかく機械をゲットしたのだし、ひき肉製造機で煮込みハンバーグを作ろう。
それとミキサーもあるから野菜とフルーツとヨーグルトの、体に良いスムージーでもお出ししよう。
「ありがとうございます、それではお言葉に甘えますかな。年寄りなのでせかせか動くのに向いて無いので」
「はい!」
賢者様のおもてなしをしましょう。
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