第34話 オークション

「公爵様方、明日の予定はどうなっておられるのですか?」


 伯爵の言葉にすかさず反応する私。



「私はスケート以外で。奥様に聞きましたが、魔道具のオークションがあるとか」

「はい、当方自慢の魔道具やアーティファクトが出品され、遠方からも客が来ますよ」


「そんな訳で、あなた、私は明日はオークションに行きます。夕方まではマッサージなどを呼んでゆっくりしていますので」


 もうスケートで振り回されたくない。

 いちいち魔法で体を支えるのも面倒だし。



 「そうか、オークションだな、分かった。私もそれに同行する。

ラヴィアーナ、オークションは子供の行く所ではないから、今回は我慢しなさい」

 

 お目付役なんだろうか? 旦那様は自ら私の方に同行する気らしい。


「はい、私は明日もスケートの練習をしようと誘われているのですが」

「僕が誘いました!」


 ラヴィがオズオズとした感じで口を開き、ハルトが声をあげた。


 ハルトと二人でまだスケートをするのね。

 その調子で仲良くしなさい。


「護衛騎士を連れて行けばいいですよ、怪我には気をつけて」

「はい、お母様」


「ハルトヴィヒ、ラヴィアーナ嬢に怪我をさせないように気をくばるのだぞ」

「はい、父上」


「では、公爵様方、明日はオークションでご一緒できますのね」

「はい、伯爵夫人、よろしくお願いします」


 私はにこやかに、そう言った。


 翌日、子供達は護衛騎士を連れてまたスケートに出かけた。


 私の方は午前中はゆったりお風呂の後にマッサージを受けて極楽気分だった。

 肌のメンテナンスを入念にされて、夕方からオークション会場付近へ馬車で向かう。


 そしてオークション会場近くの街中のレストランで軽く食事を終えて、いざオークション会場へ。


 会場にはいかにも身なりのいい金持ちが沢山来ていた。

 会場自体もお金をかけて作ったらしく、重厚な雰囲気がある。

 廊下にもそれなりの価値がありそうな美術品などが飾られている。

 ただこちらの美術品に私は詳しくないから、多分そうなんだろうという勘。


 私の隣の席は当然夫だ。

 伯爵夫妻も本来は特別席だけど、私達に付き合って、司会から見やすい通常の席にいる。


 オークションでは自分の番号を示す棒付きの札が配られた。


 おお、これを入札時に上げて、何番さん、1億出ました! もういませんか? 

 ハンマープライス! って言うやつよね。


 オークションが開始され、色んな美術品や高価な宝石のアクセサリーや魔道具の紹介があり、ワクワクした。

 色んな人が欲しい物を入手せんと競り合っている。


 ついに欲しかった物が出た。

 それはやや小さめの文庫本の形をしていたアーティファクト。


「この本は鑑定本です。調べたい物の上にかざすと、内容が文字として浮かんで来ます。

例えば未知の植物がどのようなものか知りたい場合、有毒かどうかなども分かりますし、黄金のアクセサリーがメッキか純金か、なども分かってしまうという物です」


「おお、それは便利だ。偽物を掴まされる心配がない」


 ざわめきと共に感嘆の声が上がった。

 が、本の情報はそれだけでは無かった。


「追加情報がございます。惜しむらくは表示されるのは古代語で、読める人間がほぼいない所です」

「なんだ、それじゃ古代語が解読できる者でないとダメじゃないか」

「残念だが古代語の学者はうちにはいないな」


「しかし、世にも貴重なアーティファクト、持っているだけでも価値があります」


 司会のセールストーク。


「500万ゴールドからどうぞ!」


 私はすかさず77の札を上げて言った。


「500万ゴールド」

「はい、77番様」


「550万ゴールド」

「はい、64番様、550」


 くそ、対抗馬がいたわ。


「560万ゴールド」「570万」「600万」「650万」


 まだ刻んでいくぞ。


「670万ゴールド」

「77番様、670万」「680万」「64番様、680万」


 くそ、そろそろ諦めて、対抗馬。

 他にも欲しいのあったら流石にそろそろ諦めるラインか? そう思った時、


「一千万ゴールド」


 急に跳ね上がった! って、私の旦那様じゃん!

 まさか私への嫌がらせじゃないわよね!?


「一千万ゴールドが出ました! 他にはいらっしゃいませんか!?」


 私は小声で隣の席に座っている旦那様に声をかけた。


「ちょっと、あなた、本気ですか? 私と競り合おうと?」


 旦那様はただ、ニヤリと笑っただけで答えない。


「では、一千万ゴールドで落札!」


 くそ、とりあえず次。


 次は数点の絵画の紹介や宝石などの紹介が出た。

 この辺は私はスルー。他の人が落札していく。



「そしてこちらが、映像を記録として残せる魔道具です。撮影を行う方は持ち運びしやすい板の形をしていて、手のひらサイズ。

記録した映像を映し出すのには、やや大きめで見やすくなっているこちらの水晶で、小さい方に表示されたボタンを押すと複製され大きい方に記録が移動します。

簡単な操作で使えるようになっておりますし、説明書もついています。

では、100万ゴールドからどうぞ!」



 スマホサイズのカメラ来た!! 映し出すのは大学ノートサイズのアレね!

 いいじゃない!!


 さっと札を上げる私。

 

 結果、少し競り合って500万ゴールドで落札できた!

 今度は旦那様の横槍はなかった。

 流石に一千万使った後なんで自重したのかな。


 オークションの終わりに、商品が手渡された。

 カメラゲット!!


 伯爵の館に戻ってから、旦那様は鑑定本を私の目の前に置いた。


「何です? 見せびらかすおつもりですか?」

「やる」

「え!?」

「旅の記念に」


 くれるの!? 嫌がらせじゃなかったのね!!


「あ、ありがとうございました!!」

「でも、読めるのか、それ。古代語だぞ」


 私は本を手に取り、伯爵邸にある、壺の上で開いて鑑定してみた。


 すると、読める! 読めるぞ! 古代語が! 流石ラスボス候補! 

 期待を裏切らないハイスペック!!



「デルタ産の陶器って書いてあります! 読めます!」

「其方、何故読めるのだ? 古代語が。古代語の勉強をしていたのか?」



 知らない、憑依転生ボーナスかな?



「何故読めるのかは分かりません。神様のギフトでしょうか?」

「意味が分からんな」



 旦那様は首を傾げながらも、「まあ、無駄にはならずに済んで良かったな」と、言った。


 はい! ありがとうございました!!

 スケートの復讐に、公爵邸に戻ったら夜中に旦那様のベッドに忍びこんで、濡れた冷たい手で首筋に触れて驚かせてやろうと思ってたけど、勘弁してあげます!

 プレゼントに免じて!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る