第32話 凍った湖にて釣りをする。

 魔力検査の翌日。

 急な魔力検査騒ぎでお預けになっていた、ひき肉製造機の出番が来た。


 それを使ってひき肉を作り、料理人に頼んで夕食、晩餐用に餃子を作って貰った。

 包み方を料理人に指導し、後はせっせと包んでいただく。



 実際に晩餐の時に出してもらった。

 どうせ旦那様とキスもしないし、ニンニク料理も気にしない!

 まあ一応匂い消しにりんごジュースも飲むけど。


 酢醤油つけて、いただきます!

 ……美味い!!


「肉汁がこう、皮の中に入っていて、ジューシーで美味しいのです」



 旦那様に餃子の説明をする私。



「ほう……」

「お母様、この料理美味しいですね」

「そうでしょう?」

「まあ、いける」



 素直に美味しいと言えないのか、夫よ。

 白米と交互にモリモリ食ってるくせに。



「ところで、旦那様。私、セーデルホルム伯爵領に旅行に行きたいのです」

「セーデルホルム伯爵領に? 急だな」

「確かに急ですけど、大きな湖がある所ですわ」

「今は凍っていると思うぞ」


「氷に穴を開けて釣りをしたいのです」

「この寒い中、釣りだなんて酔狂だな」

「寒さなど装備でどうにかなります。氷の公爵様」

「お父様! お母様が行くなら私も行きます!」


「仕方ないな、通常の社交期間は終わっているが、これもラヴィアーナの社交の経験になるだろう。

旅行には私も同行する」

「ありがとうございます! お父様!」


「え、お忙しいあなたがついて来てくださるの?」

「放っておくと何をしでかすかわからないからな。紙の仕事ならある程度持って行ける」



 信用ゼロ! しかも旅行先にまで仕事を持って行くとは。

 紙のお仕事も大変そう。

 私もアギレイの地の為に誠実で優秀な文官を何人か雇わなければ。

 ラヴィのガヴァネスのレジーナに頼めば紹介して貰えるかしら?

 

 * *


 数日後、伯爵からお手紙のお返事が爆速で来て、ぜひ当家に遊びに来てくださいと言っていただけたので、お土産の貢ぎ物と防寒コートとアイスドリルと釣竿と釣り用の椅子とクッションなど必要な物を揃えて行くことが正式に決定した。


 なお、アイスドリルは錬金術を使い、材料を変形させ、自分で3個作った。


 * *


「アドライド公爵家の皆様、ようこそセーデルホルム家へ。私が当主のセルラト・ライシ・セーデルホルムで、こちらが妻のマグダレーナです」


「妻のマグダレーナです。この度はようこそいらっしゃいました。

どうぞゆっくりして行ってくださいませ」


「歓待に感謝する」

「しばらくお世話になります、よろしくお願いいたしますね。そしてこちらにいるのが娘のラヴィアーナです」

「ラヴィアーナです、よろしくお願いします」



 夫に続いて、私も娘を紹介したりした。

 案の定、伯爵家の子供達も、わあ! かわいい!!

 みたいな顔してラヴィを見てる。



「長男のエベラルドです。よろしくお願いします」

「次男のロベルトです、よろしく」

「三男のハルトヴィヒです。みんなハルトって呼びます」



 この三男坊が未来の勇者。ハルトヴィヒ・ライシ・セーデルホルム!

 通称ハルト!


 本当はアカデミー入学後、誘拐騒ぎの時に絡むはずだったのに、ここが初対面になってしまった。


 荷物を一旦ゲストルームに運び入れ、それから湖に行く。


 凍った湖は3日ほど釣りのスケジュールで、貴族が貸し切り。それからスケート用に開放するスケジュールになっているそうだ。


 なんとアイスドリルはわざわざ作って持って来なくても伯爵領に存在した。

 まあいいわ、マイドリルがあっても。


「其方以外にも氷の上で釣りをする人間がいたんだな」

「冬だって食料が釣れるならやるでしょう」


 湖に着くと既にテントが設営してあるし、センターには火の魔石で足元の氷が溶けない程度には暖かくしてあった。


「ハルトはまだ小さくそんなに幅も取らないし、私達と同じテントで釣りをしませんか?」


 私は小さい子一人くらいなら、まだこっちのテントに入るぞアピールをする。


「僕ですか? はい」


 ハルトは笑顔で素直に来てくれた。

 小さい呼ばわりされたことに怒ることもなく、兄二人を差し置いてラヴィの側にいられるのが嬉しそうにも見える。


 椅子に座ってその上にクッションを置き、お尻が痛くならないようにしてセット。


 アイスドリルで丸い穴を開けた。

 そして竿を持ち、糸を垂らして魚が餌に食いつくのを待つ。


 しばらくして私の竿がしなった。


「お母様! 引いてます」

「本当だ、公爵夫人、頑張って!」


「はい! ……釣れたわ!! しかも三匹もかかっているわ!」

「あ……引いた」

「お父様、がんばって!」


 アレクの方も釣れた。


「……釣れたぞ」

「あなた、桶に入れておいてください!」

「ああ」


「あ! 僕のも引いてる」

「私のも!」

「ラヴィ、落ち着いて、大丈夫よ」


 皆、ちゃんと釣れた。

 私達親子はビギナーズラックもあるかも。


 結構な数が釣れたので、いよいよワカサギの天ぷらを作っていく。


「魔道コンロを魔法陣から転送しました」



 私は氷上テントから移動し、湖のほとりに魔道コンロを設置した。



「伯爵家の料理人に頼まないのか?」

「ここで揚げたてを食べた方が美味しいですよ、多分」

「そうか、まあ好きにするといい」



 片栗粉をつけたワカサギを油で揚げていく。


 そして実食の時! ……サクッ。いい音!!

 うんまあ〜〜い!!



「揚げたてはやはり美味しいわ。あなた達もどうぞ」

「……なるほど」


 旦那様のアレクは真面目な顔だけど、多分美味しいんだと思う。


「ハフハフ、熱いけど、美味しいです!」

「お母様、衣がサクッとしてて美味しいです」

「よかったわね、いっぱい食べてね。おにぎりもあるから」


「お母様、お米美味しいですね」

「そうでしょ、いつかかぐや姫のお国にも旅行に行きたいわ。特に春」


「……ディアーナ、ハポング国の春には何があるのだ?」

「かぐや姫にうかがいましたが、薄紅色の桜の花が咲いているそうです。花はアーモンドの花に似ています」


「サクラ?」

「ええ、そうです。いつか遊びに来てくださいと、手紙にありましたのよ」

「それでは既に招待をされているようなものか」

「ホホホ、実はそうなのです」



 いずれ絶対に行ってやりますわ!



「公爵家の方は……仲がいいんですね」

「ホホホ、そう見える? ありがとうハルト」


 ちょっと羨ましそうに私達を見るハルトだった。

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