第31話 魔力測定の結果の後で
「リージア公爵令嬢に本当に武勇伝を話されたんですか?」
事の終わり、邸宅に着いてから私は廊下を歩きながら夫のアレクシスに問うた。
茶の席での事を。
「私は話が苦手ゆえ、逆に相手に話を聞かせてくれと言った」
「何のお話ですか?」
「最近何に興味があるのかとか、当たり障りのない話だ」
「あなたに興味があるとかあからさまな事を言われましたか?」
「……最近流行りのドレスとか宝石の話とかそういうどこにでもいる貴族女性らしい話題だ。
他には自分はまだ未婚なので行った事はないが、母である公爵夫人が水タバコにハマって店に通っているだとか……」
「ああ、そう言えばあそこは既婚者ばかりで若い方はいませんでしたね、いかにも大人の社交場でした」
「そちらは陛下に何を言われたのだ?」
「今なら魔力持ちと証明されたので、あなたと離婚すれば皇太子の妃の座をくれてやる的な事ですね」
アレクは眉間に皺を寄せた。
「あの皇帝……現皇太子妃の立場は……。いや、それより其方はなんと答えたのだ?」
「既に夫も子供もいるから冗談はやめてほしいと言いました」
「無論、皇帝は本気なんだろう」
「何もかも今さらです。昔とは男性の好みが違うとも言って、はっきりと断っておきましたので」
「昔と今の男の好みが違う?」
「そうですね」
「今の好みは?」
「少なくともキラキラの王子様タイプではありませんね」
「……」
アレクは疑うように私を見た。
何よその目は?
「とにかくラヴィの為にも別に離婚は考えていません」
「そうか」
「あなたは若い女の方がいいんですか?」
「リージア・シプス・エイセル公爵令嬢は次女でしょう?」
長女の方には既にしっかりとした婚約者がいるから次女を差し向けたに違いない。
「そうだが、興味はない」
「そう言えばあなたは、私に何の興味があるのか訊ねてくれた事はないですね」
「聞いて欲しいのか?」
「……聞いてもいいですよ」
夫婦なのに二人でたわいもない、ほのぼのとしたデート会話のようなものをした記憶がほぼないのだ。
夫婦間に甘さが足りないなら多少は足していかないと、永遠に後継の男の子が産めないぞ!!
旦那様がベッドに通って来ないのだから!!
ラヴィに優秀な婿を取れとか、プレッシャーを与えたくない。
では、私が産むしかないではないか!!
無論原作通り、勇者とは結ばれて欲しいし、政略結婚で他の男の子の名前が出たら困る。
政略結婚よりは自由な恋愛結婚の方がいい。
「旦那様、奥様、それぞれにお手紙が届いております」
執事がわさっと届いた手紙をトレイに重ねて持って来た。
「話はまた今度にする」
「そうですか、分かりました」
夫との話は強制終了となった。
やや気まずい感じだったから別にいいけど。
* *
部屋で手紙を確認していたら、ラヴィが話に来てくれた。
「お母様、魔力測定どうでしたか? それと、皇帝陛下とお会いになったとか?」
矢継ぎ早に質問された。
「ええ。魔力量は旦那様に負けてしまいました。それと、陛下ともお会いしましたよ」
「皇帝陛下は何故お母様の検査に同席されたのですか?」
ラヴィは幼いながらも何かを察して不安に思っているようだ。
「私が今後も使えるやつか知りたかったのでしょう」
「使える?」
「全属性だったので、評価は高かったみたいだけど」
「凄いです! でも、まさかまた戦争に?」
「さあ、いざという時は命令が下るでしょうが、わりと最近行ったばかりだし、行って成果をあげれば褒賞をあげないといけないから、当分は大丈夫じゃないかしら」
「……」
ラヴィはドレスの裾をぎゅっと握りしめ、唇を噛んだ。
「唇を噛んではいけないわ、血が出るでしょう」
「お母様、どこにも行かないでください」
「……あらあら、ラヴィも一緒に旅行に行きましょうよ?」
「旅行?」
他領になるが、セーデルホルム伯爵の三男が将来的にラヴィとラスボス戦に行く男の子、覚醒前の勇者だ。
そのセーデルホルム伯爵領には立派な湖がある。
多少出会いを早め、結束を深めてもいいのではないかな?
「セーデルホルム伯爵領にある湖で遊びたいから伯爵領に行きたいと、伯爵に手紙を出そうと思ってるの」
貴族が他領に行く場合はあらかじめ断っていた方が無難。
後で何かトラブルが起こった時に双方困るし、スパイだと思われても困る。
「湖……冬にですか?」
「今は凍っているけど、凍っている時にしかできない遊びがあるわ」
「あ! お母様が下さった本で読みました! スケートというものですね!」
スケートは転ぶと危ないから心配だわ。
「氷に穴を空けてワカサギ……お魚釣りよ」
「え!? 釣りですか? 氷の下にいる魚を?」
「そう。釣って油で揚げて食べたいの。人気のレースを夫人宛に贈り物をつければきっとしばらくの滞在くらい許して貰えるのではないかと思っているのよ」
「つまり、お母様と他領まで旅行に行けるという事ですか?」
私は頷きながら言った。
「貴族社会で高価な贈り物をされて、返事を返さないのは失礼に当たるの。
レースは基本的に手編みだから高いし、伯爵の機嫌取りにお酒と魔石もつければ滞在許可は出るでしょう」
「伯爵領のお宿に泊まるのですか?」
「おそらくは贈り物まですれば、ホテル滞在になるより、伯爵のお屋敷に招かれる可能性の方が高いでしょうね」
そこでラヴィは伯爵家の三男坊の勇者と出会えるはずよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます