第30話 皇帝の思惑
魔力測定の日に、本当に旦那様のアレクは同行してくれた。
エスコートでアレクの腕にしがみつく私。
検査は大神殿で行われた。
皇帝陛下もマジで来ていた。
なんでよ? 暇なの?
結果だけ報告貰えばいいのに。疑い深いから自分で確認にきたの?
皇帝と対面すると、ピリリと緊張が走る。
隣に夫のアレクがいても、弱体化した今の私には、少し怖く感じる。
思わずアレクの腕を掴む手に力が入る。
検査は水晶玉のような物を使い、大神官自らが行うようだ。
普通は10歳の子供相手にする検査ゆえ、大神官まで呼ばずともいいのに、皇帝が来るから失礼にならないようにトップが呼ばれたとみえる。
「これは、アドライド公爵夫人のこの魔力の色は、全属性です。
魔力量的にはアドライド公爵には及びませんが、全属性です」
アレクの眉が一瞬だけピクリと反応したが、すぐにいつものポーカーフェイスに戻った。
弱体化前なら……きっと魔力量、アレクに勝ててたのに。
ちょっと悔しい。
「ほう、全属性とは稀であるな。稀有な癒し、白、光属性もやはりあるのだな?」
「はい」
大神官は正直に包み隠さずそう答えた。
「陛下、リージア・シプス・エイセル公爵令嬢が到着しました」
皇帝の護衛騎士が報告に来た。
アドライド以外の四大公爵家のエイセル家の令嬢が何故今ここに?
「戦の武勇伝が聞きたいとせがまれてな、すまんが公爵、茶室で令嬢の相手をしてやってくれ」
「武勇伝と言われましても……」
「まあ、リージア嬢と適当に一緒に茶を飲んでやればよい」
皇帝のせいで旦那様と物理的に離された。
「ディアーナ夫人は余の散歩に少し付き合ってくれ。最近運動不足と主治医に言われてな」
何で私が? と言いたくなるのをぐっと堪える。
しかし、何故公爵夫人と言わずにわざわざディアーナの名前で呼ぶ訳?
皇帝がいるせいでだいぶ後方になるが、一応公爵家の護衛騎士も私について来てくれるから多少マシか。
「仰せのままに」
この大神殿の中には春の庭がある。
冬でも暖かく、花も咲いている不思議な場所だ。
「ディアーナ夫人は、かつて余の倅を慕ってくれておったな?」
人妻相手に急に何言いだすの? この皇帝。
「昔の事でこざいます」
「本当に昔の事か? 今なら魔力も十分に有るのが証明されたし、不足は無い。
皇太子の元へ行けるぞ」
はあ!? 何を今更!!
そもそも原作ディアーナと私は、男の好みが違いますよ!
「私にはすでに夫も子供もおりますし、皇太子様にも皇太子妃が既におられるのに、ご冗談を」
「以前から可哀想には思っておったのだ。
魔力無しと思われておったせいで、息子の婚約者にしてやれなんだ事」
嘘をつけ!!
力があると分かった途端に皇家に取り込もうとしてるだけ!!
騙されないわよ。
「とにかく、以前の私と今の私は、男性の好みも変わりましたの」
「ほう? そうなのか。いずれ皇太子は余の座を継いで皇帝になると言うのに?」
私は皇后の地位にも興味はないんだわ。
面倒くさい。
スローライフにはほど遠い。
「誰かの二番目や側妃になりたいとも思いません」
「では皇后の座であればどうだ?」
「それでは現在の皇太子妃の立場がありませんわ。私、これ以上恨みを買いたくはありません」
「我が帝国は実力主義ゆえ、力ある者が頂点に君臨するのが相応しい。
しかし……まあ、息子が皇帝の座に座るのもまだ先の事ゆえ、気が変わったら手紙でもよこしてくれ。
とはいえ、健康な子が産める年齢の時が好ましいな」
やかましい!!
断ったのにまだ諦めてないんかい!!
とんでもない提案をされたが、全力で断った。
でも、既に娘もいるのにとんでもない話よ。
非常識だわ。
でも夫と別れて娘を悲しませたくないとでも言えば、娘がいなくなればいいのか? って暗殺計画でも立てそうなんで、男の好みが変わったと言っておいたけど、これで合ってるわよね? 多分。
緊張と波乱のお散歩は終わった。
こんなに嫌な気分になるお散歩は初めてだった。
しかし、この分だと急に呼ばれた公爵令嬢は、私が別れてもアレクの相手はいるぞ的なアピールだろうな。
それで公爵令嬢と私の旦那様と二人で茶でも飲んで来いとか、妻がここにいるんですが!!
もー!! ふざけんなし!
はっ!!
……いけない、怒りゲージを貯めては。
負の感情はダメ。
せっかく、きっとラスボスルート回避したんだろうから……。
* *
でも、私がラスボスルートから外れたなら、いずれ勇者と魔王討伐に行かされる聖女のラヴィの生存率を上げないと。
何しろ原作のディアーナは土壇場で自ら死を受け入れた。
ついに勇者と聖女が魔王の居城にたどり着いた時、勇者の剣を、無抵抗でその胸に受け入れたのだ。
防御を、魔法の守りを限界まで解除し消して、わざわざ倒されてあげた。
最後に娘の名前を呼んで、最後の最後に娘への情的なものの片鱗を見せ、死を受け入れ、勇者に討伐されたのだ。
なんとも切ないエンディングだ。
ディアーナは原作にある、主人公に試練と切なさを与える舞台装置的役割を担っていた。
ディアーナ以外が魔王になれば、聖女と勇者にわざわざ手加減などをせずに、容赦なく攻撃するだろう。
生存権を譲ってあげる理由が無い。
なるべく勇者パーティーの結束が固くなるように、早めに結びつきを強化すべきかも。
アカデミーでラヴィと出会う前に別荘やパーティーに招待しておくとかしようかな?
そんな事を考えつつ、公爵令嬢と茶をしばき終えた旦那様と合流して公爵邸に戻った。
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