第29話 魔力の異変

 ──魔力が……減ってる。


 器を満たす、私の魔力が減っている。

 いや、減っているというか、むしろ、周囲から集まって来ていた魔力供給が絶たれたって感じする。


 体感で分かる。感じる。全能感のようなものが消えた。

 何故かは分からない。


 もしかして、これは、私がラスボスルートから外れた事を意味するのかな?

 弱体化で無双出来なくなったのは残念だけど、ラスボスとしての役割ブーストが無ければ、もしかして、本来こんなものなのかな?


 全く魔法が使えなくなった訳じゃないから、いいけど。

 公爵夫人として恥ずかしくない程度ならある。

 ラスボスに相応しい、規格外な魔力が無くなっただけ。


 しばらく無茶な戦場に送り込まれたりしなければ平気。

 去年皇帝命令で出征したばかりだもん。

 いざとなったら金で優秀な人材を雇えばいい。


 私には魔石鉱山がある。


 でも、私の魔力が減った事、旦那様には言っておいた方がいいのかな?

 あの人が私の魔力や戦力を当てにすることなんて無さそうだけど、万が一……。


 いや、弱体化しましたなんて言ったら笑われる?

 いや、普通は心配するとこよね? 具合が悪いのかな? ってさ。


 弱体化なんて、じゃあ前回の戦争で見せた魔力、戦力なんだったんだ? って聞かれたら、なんと答えればいいのかな。

 魔力ポーションをがぶ飲みしてドーピングしてましたとか言う?

いや、なんかそれもインチキくさくてどうもね。

 いや、チート過ぎたのが比較的普通レベルに戻っただけ、そんな恥じる事ないはず!



「奥様、さっきからお一人で頭を抱えてどうなさったのですか?

もしや具合が悪いのですか?」


「い、いえ、別に……ちょっと旦那様の所に行ってくるわ」

「はい」



 私は鍛錬場に向かった。

 騎士達がそこにいて、旦那様もそこで剣の腕が鈍らないように鍛えているから。


 とある騎士と剣でキンキン打ち合っている。

 これが手合わせってやつ?


 柱のからそっと見守る私。


「そんなところで何をしているんだ? 其方は」


 バレた! 秒でバレた!


「ええと、見学ですわ」

「暇なのか?」

「違いますわ……」



 うっかり暇などと答えてなんか大変な仕事をまかされたら困るわ。

 書類仕事は嫌いだもの。


 私はそそくさと逃げ出した。

 ここは騎士がいっぱいいて、人目がありすぎ! 無理だわ。



「奥様、ちょうどよいところに」



 邸宅の廊下で家令に呼び止められた。



「何かしら?」

「ミキサーとひき肉製造機の試作品が完成したらしいのです」

「やったわ!!」


 ひとまず弱体化の話は置いておきましょう。

 これでズルだけど特許的なものを申請した後に量産して売ればお金が入るわ。

 何か有れば、大抵の事はお金が解決してくれるはず。



 それと、ハンバーグか餃子でも作ろうかな?



「あ、奥様、それともう一つ」

「何かしら?」



 私はウキウキ気分で聞いた後、奈落に沈む事になった。



「皇帝陛下がもう一度、魔力測定をやり直すようにと書状が来ております」



 はあ!?



「ど、どうして今更!? 学校に入る訳でもないのに!」

「さあ、それは皇帝陛下のお考えですから、私では分かりかねます」



 なんなの!? 

 まさかまたどっかの戦争に送り込もうなんて思ってないでしょうね!?



「しかし、皇帝命令なら行かざるをえないわね」

「旦那様につき添いを頼んでは?」

「子供じゃあるまいし、ついて来てなんて言えないわ」

「妻をエスコートするのは夫の務めだ」



 不意に背後から現れた旦那様!



「エスコート……な、なるほど。では、お願いしても?」

「ああ、いつなんだ?」

「六日後でございます」



 私の代わりに家令が答えた。



「今が社交シーズンじゃない冬だとしても、ずいぶんと急ね」

「あそこはいつも強引だな」



 ノリと思いつきで生きてるのか? あの皇帝。

 他に用事があったらどうするの? って言いたくなるけど皇帝命令が一番に優先されるのが帝国。


 仕方ない。


 でも、魔力検査に旦那様が付き添うなら、私からわざわざ弱体化した報告しなくても分かるでしょうね。

 

 謁見用のドレスを慌てて選んで、私は六日後に今更すぎる魔力測定を行う事になった。

 しかも、皇帝陛下の前で。

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